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健康のためには白米を玄米に変えるべき?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

 このところ、白米を玄米に変えると健康に良い、という話をSNSで見かけるようになりました。昔から玄米といえば健康に良いというイメージがありましたが、どうやらこれを支持するしっかりとしたエビデンスがあるということで、話題になっているようです。

 玄米が注目される背景の一つに、精製された白米ばかりを食べることが種々の病気を招いているのではないか、という考え方があるようです。消化吸収の良い白米のご飯は食後の血糖を上げやすいですし、食物繊維もミネラルも精製の過程で減少します。糖質制限食がブームですが、これも精製度の高い炭水化物源は体に良くないという考え方を基にしている、という面では似ているようにも思います。

 健康のためにも私たちは白米から玄米に切り替えるべきなのでしょうか? 栄養学の知見も踏まえながら私なりの見解を述べてみたいと思います。

■玄米食のエビデンスなのか

 玄米食が勧められる根拠として引用されるデータを見ると、欧米で行われた複数の疫学調査を基にした研究(メタアナリシス)であるようです。比較的新しいメタアナリシスをみても実際に「全粒穀物の摂取量」が多いほど総死亡率、がん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病などのリスクが低下することが示されています※1。

 こうしたエビデンスを元に、日本人であれば白米を玄米に変えれば良いという主張があるようです。

 玄米は確かに全粒穀物の一つですが、欧米では玄米を食べる習慣はないため、基になった疫学調査では小麦やライ麦、オートミールなどの全粒穀物の摂取量を見ているはずです。白米を玄米に変えると健康に良いとするエビデンスがある、と言い切るには少し慎重になった方が良いのではと私は思います。

 栄養疫学を専門にしている方も著書で※2述べていたのですが、日本人を対象とした白米と玄米の健康への影響を比較できるようなエビデンスは現時点ではないということです。

 私も調べてみたところ、論文としてまとまっているものでは、中国で行われた202名を白米群、玄米群に無作為割り付けし16週間摂取させた研究※3と、日本の研究では小規模の30~90日間摂取後の血液検査結果を比較したものだけがヒットしました。どちらも短期間の観察であり、日常の食習慣が健康にどのような影響を与えるかを示す研究ではありません。ちなみに、どの研究にも共通する玄米の効果というのは確認出来ませんでした。(白米が良くないことを示唆する結果はでていないともいえる)

 白米は良くないので玄米※4に変えましょう、というためには現時点のエビデンスは十分でなさそう、という印象です。全粒穀物全般の摂取量を増やしましょう、というのが妥当なところではないでしょうか?

 

■全粒穀物の中の玄米

 体に良いことが疫学調査から示唆されている全粒穀物ですが、穀物の種類によって含まれる成分も調理法にも違いがあります。代表的な全粒穀物の栄養価を玄米とならべて評価してみましょう。

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 全粒穀物全般の栄養学的な特徴として、私たちが不足しやすい栄養素の安定した供給源になりやすい、ということが挙げられます。食物繊維は毎食しっかりと摂ることが大事なのですが、主食として利用される穀類は摂取源として最適といえるでしょう。精製すると失われやすいカリウムやマグネシウム、鉄を豊富に含んでいることも健康を支える要素として期待されます。

 これらを踏まえて玄米を見ると、比較的バランスはよいものの、全粒穀物の中では特徴のない方だといえそうです。食物繊維は全粒穀物の健康効果で期待が大きい成分ですが、玄米は供給源としては少なめで、水溶性食物繊維をとりたいなら米粒麦を、不溶性食物繊維が欲しいなら全粒小麦粉が有利にみえます。オートミールは各栄養素をバランス良く摂れそうです。

 含まれる栄養素だけで食品の価値は測れませんが、どの全粒穀物も健康に与える影響は同等ではないといえそうですね。

■全粒穀物を活用しよう

 現在の私たちの食生活を大きく変えるような食事の提案というのは、実現するのはかなり難しいと思います。玄米は健康に良さそうな食品である、ということは私たちの多くは昔から知っているはずなのに、玄米食が定着しないのはなぜでしょう?

 美味しさも大切ですし、手軽さも大事です。他の料理との相性も重要でしょうね。一つの食品だけに置き換えましょうという提案よりも、色々な全粒穀物をその特徴に合わせて少しずつ活用する方がハードルが低いように私は思います。

 穀物といえば狭い意味ではイネ科食物の種子を指しますが、ソバなども穀物に分類されますし、栄養学的な特徴で考えると、豆類やナッツも同じような健康効果が期待される食品群だといえるでしょう。

 忙しい朝食にはグラノーラ、カレーの時には米粒麦を一緒に炊いて、洋風スープにはひよこ豆、パンにはクルミを入れて・・・などなど、色々な提案がありそうです。

■今回のまとめ

・全粒穀物の摂取量が多い人ほどいわゆる生活習慣病のリスクを下げるというエビデンスがある

・白米を玄米に変えると健康に良いといえるエビデンスレベルの高い報告はない

・玄米は他の全粒穀物に比べて栄養学的には特に優れているというわけではない

・健康に良いと多くの人に思われているのに玄米が定着しないのにはワケがある

・玄米に拘らず、白米の一部を全粒穀物やそれに似た特徴のある豆やナッツなどに置き換えてみてはどうでしょう。嫌いなものを無理に食べる必要などありません

※1 Aune D, et.al. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2016 Jun 14;353:i2716.

※2 佐々木敏 佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する 女子栄養大学出版部 2018

※3 Zhang G, et.al. Substituting white rice with brown rice for 16 weeks does not substantially affect metabolic risk factors in middle-aged Chinese men and women with diabetes or a high risk for diabetes. J Nutr. 2011 Sep;141(9):1685-90.

※4 特定の食品ばかりを食べると、特定の食品成分を過剰にとる危険性が高まります。例えば米は比較的ヒ素を多く含みやすい穀物で特に玄米に多く含まれます。色々な穀物をまんべんなく摂ることで、発がんリスクも下げることが期待できます。全粒穀物が良いというのは、稲が良い、小麦がよい、オートミールが良いというような特定の食品を指している話ではない、と解釈したいですね。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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