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豆腐の常温販売の解禁は安全面で問題はないの?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

スーパーなど食料品店では「冷蔵」で保存し販売しなければならないことになっている豆腐ですが、今後は常温保存が可能になるかもしれない、というニュースが先日ありました。

安全面は大丈夫なのか?そもそもどうして豆腐は冷蔵で保存、販売しなければならないのだろうという疑問もあると思います。冷蔵保存の背景や、基準の改正で何が変わるのかを解説してみます。

■冷蔵が必要な食品ってどんなもの?

食品を美味しく長持ちさせる保存法にはいくつかありますが、その代表的なものが「冷蔵」や「冷凍」でしょう。食品衛生法の保存基準では、10℃以下で保存することを冷蔵と呼びます。

食品の保存で一番問題になるのが微生物の増殖です。水分がたっぷりでほどよく温かく、栄養がある環境はカビや細菌などがもっとも繁殖しやすい条件です。今回のテーマである豆腐はこの3つの条件が揃っているので冷蔵保存が必要とされたわけです。

■豆腐の特徴

豆腐の保存基準が定められたのは昭和49年ですが、当時は保存状態の悪い豆腐を食べて、腸チフスなどの食中毒が発生しており、その予防のために低温で保存することになりました。

豆腐は消化吸収が良く栄養価の高い食品として知られていますが、これは微生物にとっても同じです。少しでも微生物がついていると保存状態によって急激に増殖し、食中毒を引き起こすことがあるのですが、当時の製造技術では無菌状態を保つことが難しかったためです。

豆腐は冷蔵保存しなければならない、という話を聞いて「おや?」と感じた人もいるかも知れません。豆腐屋さんや豆腐の移動販売では常温で販売しているのを見たことがあるでしょう。実は豆腐の保存基準は次のように定められているのです。

2 豆腐の保存基準

(1)豆腐は冷蔵するか、又は十分に洗浄し、かつ、殺菌した水槽内において、冷水(食品製造用水に限る。)で絶えず換水をしながら保存しなければならない。ただし、移動販売に係る豆腐及び成型した後水さらしをしないで直ちに販売の用に供されることが通常である豆腐にあっては、この限りではない。

(2)移動販売に係る豆腐は、十分に洗浄し、かつ、殺菌した器具を用いて保冷をしなければならない。

豆腐屋や移動販売では冷蔵販売をしなくても良いことになっているのですが、購入した豆腐はすぐに冷やし、なるべくその日のうちに食べた方が良いのはいうまでもありません。

今回の改正案は、上記の保存基準と製造基準を変更し、常温販売を可能にしようというものです。次の項目で詳しく説明します。

■基準改正の背景

鮮度が落ちやすく、冷蔵保存が義務づけられている豆腐ですが、保存期間が短いものと長いものがあるのはご存じでしょうか。木綿や絹ごし豆腐という名前で水の入ったプラスチック容器に入った豆腐は保存期間が短く、充填豆腐と呼ばれる、厚めのプラスチック容器に入ったものは比較的長い期間保存が可能です。

充填豆腐は、直接耐熱容器に豆乳と凝固剤を入れて密封し、容器ごと加熱して冷却をします。密封をしてから加熱をするため、ほとんどの細菌は死んでしまうため、長い期間安全に保存できるようになりました。

今回の改正案の要点は、技術の進歩によって、長期間常温で保存しても安全な充填豆腐の製造が可能になったのに、昔のままの基準では常温で販売できないから、基準の改正を検討して欲しい、というものです。実際に、同じ製造方法の商品が諸外国では既に常温販売されていますが、食中毒の報告がなく安全性の実績も大丈夫なようです。

■無菌充填豆腐

この改正案が実施されると、現在販売されている充填豆腐はどれも常温で保存が可能になるのでしょうか? 実は、充填豆腐であってもメーカーにより製造方法がことなり、完全に滅菌できていない商品もあります。充填豆腐でも十分な加熱が行われていない商品は細菌が生き残り、食中毒になるおそれがあります。改正案で常温販売が想定されているのは、無菌充填豆腐という耐熱性の芽胞というものをつくる細菌も全て死滅させることができる製造方法の商品のみです。

ようするに、密封された食品の中に微生物が一匹も生き残っていなければ常温でも増えようがありませんから、長く保存しても食中毒の心配はないということですね。

無菌充填豆腐とされるのは、ボツリヌス菌のような危険で耐熱性の強い細菌も死滅する、120℃で4分間以上という加圧加熱殺菌または、それと同等以上の殺菌を行ったもので、加熱条件が足りないものは、これまで通りに冷蔵での販売が必要になります。厳密には以下の条件を満たしたものが無菌充填豆腐とされます。

【無菌充填豆腐に必要な条件】

(1)原材料等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を死滅させ、又は除去するのに十分な効力を有する方法で殺菌又は除菌を行うこと

・豆乳にあっては、120℃・4分間と同等以上

・凝固剤にあっては、衛生度の高い凝固剤を用いた上で、適切なフィルターを用い、かつ、製造時にフィルター性能を恒常的に確認する方法により除菌する、またはこれと同等以上

(2)無菌充填に相応しい機器を用いて、あらかじめ殺菌された適切な容器包装を用いて、無菌的に充填されていること

(3)最終製品は、容器包装詰加圧加熱殺菌食品の成分規格に規定する試験法において発育し得る微生物が陰性であること

■今回のまとめ

厚生労働省の担当者にうかがったところ、今回はあくまで専門の審議会で提案が了承されたということで、基準の改正のためにはいくつかの手続きが必要という話でした。実際に基準が改正されるのはいつ頃になるのかはまだ分からないということです。また、基準が改正されても無菌充填豆腐以外はいままで通りの保存方法が必要になりますので、豆腐は常温で保存しても大丈夫なのだと誤解のないようお願いします。

無菌充填豆腐が常温保存可能というのは社会的にも意義のあることで、早く実現して欲しいと思っております。災害時の非常用食品としての備蓄、配布もできますし、冷蔵保存にかけるコスト、エネルギー資源の削減という効果が期待できます。常温保存の豆腐が店頭に並ぶ日が楽しみですね。

【今回の記事の要点】

・豆腐は冷蔵保存が必須だが、微生物の繁殖しやすい条件がそろった食品だから

・技術の進歩等で滅菌した豆腐が製造できるようになった

・滅菌充填豆腐は実際には常温保存可能だが、法律上冷蔵しなければならない

・基準改正の趣旨は滅菌充填豆腐のみ常温保存を認めて下さいというもの

・専門委員会通過後に今後基準改正の手続きがあり、改正まで数年かかるかも

今回の記事は、11月29日に行われた厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 (食品衛生分科会食品規格部会)での「豆腐の規格基準の改正について」で用いられた資料を参考資料として作成しております。記事中の引用部分も同資料に拠ります。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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