和食(日本食)の持続可能性

(写真:アフロ)

9月6日の記事にて、今年6月に改正された新しい食生活指針に対する疑問を述べました。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/naritatakanobu/20160906-00061908/

新しい食生活指針では、食事のバリュエーションを増やすよりも、昔ながらの和食推しが強調されておりましたが、昔ながらの和食はどうしても食塩が多くなりがちなので、食生活指針でも挙げている課題の1つである減塩を達成しにくくするのではないか?という問題提起を致しました。

和食を中心とした現代日本の食事は食塩が多くなってしまいがちという欠点はありますが、栄養バランスをとりやすい食品構成といえるでしょう。食生活指針では昔ながらの和食を継承していくことを呼びかけておりますが、そんな和食を支える重要な食材に危機が訪れているという指摘があることはご存じでしょうか。

■和食(日本食)の良さ

管理栄養士の私が考える、現代の日本の食事が優れている理由として、魚を食べる習慣が定着していることを一番に挙げたいと思います。諸外国に比べ魚類の摂取量が多く、このことが肉類の摂取量が増えても比較的循環器系に悪影響を与えにくくし、健康長寿に貢献していると考えられます。

和食(日本食)の良さというのは魚を食べる習慣の良さであるといっても過言ではないかもしれません。

魚は良質のたんぱく質源であるだけでなく、n-3系と呼ばれる脂肪酸の有力な摂取源になります。これは肉や油、糖質過多の食生活で上昇しやすいLDLコレステロールを正常値に近づける働きが期待できます。肉や油は私たちの体にとって大切な栄養源ではあるものの近年は摂り過ぎが懸念されております。

魚を日常的に食べる日本型の食事は、その問題点を軽減したり、循環器系疾患のリスクを低減できることが期待されます。その他、魚はビタミンDが豊富な食品ですが、カルシウムの吸収を高めるビタミンDは、カルシウム摂取が比較的少ない日本人にとって大事な栄養素です。日射量の少ない冬には積極的に食べたいものです。

■どうなる魚を中心とした日本食

そんな優れた栄養的価値を持つ魚ですが、世間で考えられているよりも現状は深刻であると考えられているようです。

食生活指針の栄養学的な根拠として参照されている日本人の食事摂取基準の最新版(2015年版)には次の様な記述があります。

「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書 p119より

世界的な魚資源の不足により、将来、α-リノレン酸の摂取が重要になる可能性がある。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html

魚に含まれるn-3系の脂肪酸の代表的なものとして、イコサペンタエン酸(IPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)があります。DHAは頭が良くなるというフレーズ(実際にはたくさん食べても頭が良くなるという証拠はない)でよく知られていると思います。これらは野菜や肉類からは摂る事ができないため、魚をたべない食事ではn-3系脂肪酸が不足しやすくなることが知られています。植物性食品にもこのn-3系脂肪酸を持っているものがあるのですが、それがα-リノレン酸と呼ばれる脂肪酸です。

現在の日本では魚から摂る事を前提に考えられているn-3系脂肪酸ですが、魚資源の不足が続けば将来はどうなるか分かりません。これが本来は食料資源について言及するような性質の本ではない食事摂取基準に書かれているのです。私は現状は相当深刻だと考えます。

α-リノレン酸はクルミやエゴマ油に多く含まれておりますが、魚が食べられなくなることがあれば、クルミやエゴマ油を積極的に食べましょう、などと推奨される未来があるかも知れません。

■うなぎ問題

漁業資源の問題として良く採り上げられるものとして、シラスウナギの不漁があります。アジアだけでなく世界的に見ても深刻な状況で、将来の絶滅が危惧されるほどです。しかし、現実はスーパーなどではウナギが安売りされており、とある市町村ではウナギ消費を促すようなビデオを作成したといいます。資源を保護するための行動は後手後手になっているといえるでしょう。

資源保護の動きが進まないのは、畜産と違い、自然に生きる魚を捕まえるという漁業資源には「共有地の悲劇」的なものが起こりやすいからだと思います。数が少なくなりつつある誰のものでもない資源だったら先に獲らないと自分が損してしまうという心理に陥りやすいと考えられます。現実にカツオの不漁が起こっておりますし、青魚などでは獲らなくても良いような大きさの魚が店頭に安い値段で並んだり、大型魚のエサとして稚魚のうちに捕獲されているという問題があります。

■大切な文化なら

和食(日本食)は日本の大切な文化であり、食育でもユネスコの件でも政府は積極的に和食の素晴らしさをアナウンスしてきました。素晴らしい文化であり、後世に残したいと考えるのであれば、それを担う大切な資源である「魚」も後世に残す努力をするべきです。

「魚」という資源は政府が漁獲制限を行わなければならないぐらい非常に危うい状況であると思います。

厚生労働省管轄の食事摂取基準でも心配されるレベルなのですから、農林水産省には是非とも資源を維持できるような規制を含めた対策を行って欲しいものです。また、食育分野についても、資源管理の大切さについても優先的に伝えていくべきでしょう。和食推奨が単なる過去を賛美のスローガンでなければすぐに取り組まなければならない問題でしょう。