流域治水関連法案が閣議決定、高齢者福祉施設を守るには地域連携が不可欠

九州を中心に甚大な被害をもたらした令和2年7月豪雨(写真:ロイター/アフロ)

街全体で水害を防ぐ「流域治水」関連法案が2月2日、閣議決定された。浸水リスクが高い場所を「浸水被害防止区域」として知事が指定し、住宅や高齢者施設を建設する場合は許可制とすることや、洪水などに対応したハザードマップの作成を中小河川等まで拡大し、リスク情報空白域の解消を図ることなどを盛り込んだ。毎年のように襲い掛かる豪雨災害に対して、国、流域自治体、企業・住民等、あらゆる関係者が協働するとの内容だが、災害のたびに大きな被害が出ている高齢者福祉施設などを守るにはさらなる仕組みが必要だ。

流域治水のイメージ(国土交通省 特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案概要資料より)
流域治水のイメージ(国土交通省 特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案概要資料より)

法案の柱は、①流域治水の計画・体制の強化、②氾濫をできるだけ防ぐための対策、③被害対象を減少させるための対策、④被害の軽減、早期復旧・復興のための対策、から成り、特定都市河川法、都市計画法、建築基準法、水防法など9本の法律を束ねた。

このうち、③の被害対象を減少させるための対策では、水防災に対応したまちづくりとの連携と住まい方の工夫として、「浸水被害防止区域」を創設し、住宅や要配慮者施設等の安全性を事前確認する許可制を導入する。

過去の惨劇を繰り返さないために

昨年の令和2年7月豪雨では、熊本県の球磨村にある特別養護老人ホーム「千寿園」が、浸水被害に遭い14人が犠牲になった。さらに過去に遡れば、2009年の山口県防府豪雨災害では特養ホームに土砂が流れ込み7人が犠牲になり、2016年の台風10号による豪雨では、岩手県岩泉町特養ホームで9人が亡くなっている。こうした悲劇を繰り返さないために、建築計画の段階からリスクを減らしていくというのが狙いだ。

しかし、法の効果が出てくるのはかなり先のことだ。厚生労働省と国土交通省が昨年11月に都道府県等を通じて全国の特別養護老人ホームと地域密着型特別養護老人ホーム1万411施設(うち特別養護老人ホーム8097施設、地域密着型特別養護老人ホーム2314施設)に対して調査したところ、回答を得た5120施設のうち、洪水浸水想定区域内に1380施設、土砂災害警戒区域内には、719施設、洪水浸水想定区域と土砂災害警戒区域の両方にまたがる施設が73あり、合計で2172施設となった。回答率を2分の1と概算するなら、全国で4000以上の高齢者施設が浸水や土砂の危険にさらされていることになる。

国は、平成29年に、水防法および土砂災害防止法を改正し、こうした施設管理者に対して避難確保計画の作成と訓練の実施を義務付け、今回の厚労省と国交省の実態調査の結果によれば、洪水浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内にある施設の約86%が避難確保計画を作成していることが明らかになった。が、千寿園のように最大浸水深が10m~20m想定される地域にある施設で、さらに深夜の職員が少ない状態で災害が発生した場合は、施設だけでの対応は不可能といっていい。

厚労省「令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」資料。浸水想定区域内の施設は、回答があった5120施設のうち1437施設で想定浸水深が5m未満は1347施設(94%)
厚労省「令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」資料。浸水想定区域内の施設は、回答があった5120施設のうち1437施設で想定浸水深が5m未満は1347施設(94%)

今回の法案では、「要配慮者利用施設に係る避難計画・訓練に対する市町村の助言・勧告によって、避難の実効性を確保する」ことも盛り込んでいるが、タイムライン計画の策定や、最大浸水深を想定したリアルな訓練は当然必要だが、国や流域自治体、企業・住民等、あらゆる関係者が協働して取り組む「流域治水」の考えを、災害対応時にも当てはめ、地域連携のもとこうした要配慮者利用施設を守れる仕組みを構築していく必要がある。

施設利用者の家族や地域住民、地元企業等との間で避難誘導を支援してもらうための連携体制を構築することや、施設管理者と地方公共団体担当者が有事の際に円滑に連絡が取り合える関係構築なども併せて進めてもらいたい。