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新型コロナウイルスに支店行員が感染した三菱UFJ銀行の対応から学べること

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
(写真:ロイター/アフロ)

愛知県江南市にある三菱UFJ銀行江南支店で、勤務する行員1人が新型コロナウイルスに感染していることが判明した。同行によると、行員は男性で、2月25日に仕事を終えた後、発熱などの症状を訴え病院を受診し、26日に新型コロナウイルスへの感染が確認されたという。江南支店では、支店内で働く行員約40人のうち濃厚接触の可能性のある行員約10人に対し自宅待機を命じるとともに、支店内やATMの消毒作業を行い、また、名古屋本部から行員10人の代替要員を即座に支店に送り込み、本日27日午前9時から通常通り営業をしているという。同行の広報担当者は「今回の新型コロナウイルス対策として、以前から頭取をトップとする対策本部体制を立ち上げており、お客様の安全を守るため、関係機関と連携しながらさまざまなシチュエーションを想定し危機管理体制を高めてきた」と業務継続できた理由を説明する。

実は、同行では10年前2009年のH1N1新型インフルエンザ流行時も国内初の感染者が発表されたわずか数日後の5月18日に、神戸市の三宮支店で行員が感染していることが判明し、同支店と三宮支社に勤務する70人のうち幹部以外の約60人を自宅待機させ、代替行員を派遣して通常業務を継続させた経験がある。

ある銀行関係者によれば「銀行の場合、各支店が行う業務はどこもほぼ同じで、仕事内容を知って経験さえあれば、ある程度の業務は別の支店でもできなくはない」とするが、それにしても、突然指定された支店ですぐに仕事を引き継いで業務を行うことは楽ではないはずだ。

企業が、災害時でも主要業務を継続できるようにしておくための計画をBCP(事業継続計画)と呼ぶが、日本の場合、多くの企業が地震を想定してBCPを策定しており、感染症のような事態が日々悪化していくことまでを想定している企業は少ない。

危機管理の専門メディアであるリスク対策.comが読者を対象に今年2月17日~21日にかけて行ったアンケートの結果によれば、全回答(385件)のうち、BCPを策定している企業は72%に上った(未策定、策定中・策定予定を除く)が、感染症を想定した計画、あるいはBCPを策定しているとの回答は、半数以下の48.4%だった。

一般的に、感染症を想定した事業継続の手法は、社員や職場の感染防止策に加え、事業所内などに感染者が出た後の対応として、◇感染者が増えてきたら事業を一時的に停止させ感染拡大が無ければ再開させる方法(それを繰り返しながら事業を続けていく)、◇感染者がいた部屋の社員をそっくり在宅勤務にさせ、テレワークで事業継続をしていく方法、◇あらかじめ同じ業務が可能なチームをいくつかつくっておき、あるチームに感染者が出たらチームごと入れ替えて事業を継続させる方法、◇あらかじめ一人がさまざまな仕事をできるように教育・訓練(多能工化)しておき、欠勤者の仕事を別の社員が補いながら事業を継続させる方法、などがあるが、銀行の場合、事業の停止は、即、市民生活に大きな影響を及ぼすため、さまざまな方法を組み合わせながら事業が継続できる体制が整えられている。

今回の三菱UFJ銀行の対応も、濃厚接触者の特定(行員および顧客)、在宅勤務指示・情報提供、支店内やATMの消毒、代替要員の確保・引継ぎ、広報対応、など多岐にわたり、かなりの準備がされていたと想像できる。もちろん、全ての対応が適切に行われたどうかを検証したわけではないため「今の段階での評価」と付け加えるべきだろうが。

企業では現在、感染症対策として、従業員にマスクの着用や手指消毒の徹底を呼び掛け、あるいは在宅勤務や時差出勤を取り入れる企業も増えているが、事業所内に感染者が出た後の対応までしっかり考えている企業は少ない。金融機関のように、翌日から即事業が再開できないにしても、主要な業務を見極め、その業務についてはなるべく停止させない、あるいは停止させたとしても早期に再開できる体制を構築しておく必要がある。

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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