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医師のバイト禁止は地域医療崩壊の序章か 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
大学病院・大病院は外勤という形で医師を地方にやり、地域医療を支えているのだが…(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、大学病院が勤務医に対してアルバイト(外勤)を禁止するケースが増えている。また、感染拡大の防止のために地域の病院側がアルバイト医師の受け入れを停止することも増えてきている。それにより、月10万円以下の給与しかもらっていないような薄給の医師が困窮する可能性と、地域医療が機能しなくなるという2つの可能性が出てきた。

アルバイトで食いつなぐ大学病院の医師

そもそも、大学病院の医師の多くはアルバイトをする。

2年前の無給医問題でも明らかになったが、大学病院の若手医師の給与水準は一般の医師よりもはるかに少なく、場合によっては無給(0円)〜各種手当てなしの月給10万円以下であった。無給はさすがに今はなくなっただろうが、それでも労働に見合う給与額ではないケースも多い。

その給与の不足分を、医師は「アルバイト」という形で補う。

アルバイトの形態は様々だが、例えば東京都内の大学病院医師が、近隣の県の中小病院に

・平日夜に当直勤務をしに行く

・土日に救急外来で救急医として働く

などである。

この勤務は中小病院にとってもありがたく、医師不足をアルバイト医師で補っている。

外勤禁止のおふれ

筆者が確認したところ、複数の首都圏にある大学病院で「外勤禁止」の指示が出ている。

これは都内の某大学病院の文書である。

とある大学病院で配布された文書
とある大学病院で配布された文書

「〇〇病院の医療体制の維持と感染防止対策を目的とし、(中略)外勤を禁止します」

とある。

たしかに、感染しているリスクの高い医師が、様々な病院で勤務するというのは感染防止上好ましくはない。

地域の病院は

しかし、これで困るのは勤務医・外勤先の地域の病院である。

勤務医の給与が減ると、月給10万円以下で生活している医師が困窮する可能性がある。できれば大学病院などで補償をして欲しいが、補償をしているという話は聞かない。一時的なものであれば、他業界の事情を鑑みてもやむを得ないかもしれない。

一方、アルバイト医師をあてにしている地方の病院は厳しい。

必要に応じて、「夜間は救急患者を受け入れない」「外来診療を縮小する」などの措置を取るだろう。

これがドミノ倒し的に発生し、その地域の医療崩壊に繋がることを強く危惧する。

絶妙なバランス

とはいえ、この感染症拡大のいま、地域の病院では患者さんの数が減っている。「急ぎでない症状の受診控え」が起きているのだ。

その結果、医師が来なくなっても患者さん数が減ったためそれほど困っていないという話も聞いた。

需要も供給も減り、結果として絶妙のバランスが取れているようだ。バランスが崩れる時、地域医療は機能しなくなる。

筆者の意見だが、そもそも日本ではそこら中に病院があり、「急ぎでない症状の受診」が多すぎたのだろう。

実際に救急外来で医師として働いていると、真夜中に「3日前から歯が痛い」「2週間便秘がつづいている」など、急いで病院を受診する必要のない患者さんの受診は非常に多い。

新型コロナウイルス感染症の影響でこういう受診が減ったのは、日本全体の医療費を考えれば決して悪くはない。

引き続き、感染症の拡大に伴い事情がどう変わっていくか注視する必要がある。

混乱は続くが、いびつになった医療需給バランスの着地点を模索していくのがこれからの課題だ。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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