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目の前で人が刺されたら?救命医に聞く 〜医師の視点〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
これからオリンピックを迎える日本ではテロの心配も高まる(写真:アフロ)

今年5月、神奈川県川崎市で男が包丁を振り回し、小学校の児童など19人が殺傷された事件がありました。

このような痛ましい事件は、残念ながら時々起きています。これからオリンピックを迎える日本では、テロの心配もあります。

そこで、目の前で包丁を振り回す人や暴れる人がいた場合、私たちはまず何をすればいいのでしょうか。いざというとき、この記事を思い出してもらえるよう、まとめました。本記事の対象は一般の方に加え、医療従事者も含んでいます。内容は以下の通りです。

1, 一般の人はまず何をすべき?

2, 医療従事者は何をすべき?

「外傷外科」という、重大な怪我の患者さんの治療を専門とするお医者さんに聞きました。帝京大学高度救命救急センターの長尾剛至医師です。

救急救命医の長尾剛至医師(画像は許可済み)
救急救命医の長尾剛至医師(画像は許可済み)

1, 一般の人はまず何をすべき?

Q. こういう事件はたまに発生するが、現場に直面した時はどうすればいいのですか?

A. 残念ながらこういう事件は世界中であります。特に海外ではテロや銃の乱射もあるので、日本より議論されていたりします。

まず何をすべきか

アメリカでは「run, hide, fight」と言って、いままさに包丁を振り回すなど攻撃している人がいるときのセオリーです。

まずは可能なら走って逃げる。余計なものは持たずにとにかく逃げる。誰がなんと言おうが、できるだけ早く逃げる。これはとても大事で、自分の安全を確保する、というのが最初になります。

それが難しければ隠れる。静かにして、携帯電話が鳴らないようにして、攻撃者の視野から外れる。ドアをロックして、バリケードを作る。

最終手段として、戦う。自分の生命が危険に晒される時だけ。武器をつくって戦う。

一方、イギリスでは少し違っていて、「run, hide, tell」つまり「逃げる、隠れる、警察に通報する」となります。

2, 医療従事者は何をすべき?

Q. では、医療従事者が現場に直面した時はどうすればいいでしょうか?

A. 医療関係者も基本は同じです。まずは自分の安全を確保。安全が確保されたならば、次は傷病者の評価。

犯人を取り押さえようとするのは、我々医療者のやることではないですね。

現場での一番の死因は出血なので、通常の外傷診療では「ABCD」と評価します(気道(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation)状態の確認、中枢神経(脳と脊髄)機能異常(Dysfunction of central nervous system))が、こういった現場では出血が一番の死因というのを受けて、MARCHという考えで評価するというのがあります。

Mは「Massive hemorrhage=大量出血」の評価とコントロール。

そして、Airway(気道), Respiratory(呼吸), Circulation(循環)の確保。それから、Hypothermia(低体温)を避けることと、Head injury(頭部外傷)の評価。

ということで、まずは止血です。

一般の人も学べる対処法のコース

Q. 止血と言われても…どうすれば止血できますか?

A. ご紹介します。

2012年にアメリカのハートフォードの小学校で、銃の乱射事件がありました。それを受けて、こういう場合の最大多数の最大救命を国として実現するためにできた「ハートフォードコンセンサス」というものがあります。そしてそこから作られたのがstop the bleedコースという講習会です。

現場での止血方法が主な内容ですが、アメリカでは一般市民向けのコースになります。一方日本では、まだ医療者向けのコースが少しずつ始まっている段階です。

Q. どんな内容なのですか?

A. まずは、圧迫して止血する方法を学びます。そして、「trauma first aid kit」があるかどうか。日本にはなかなかないですね。これはアメリカなどでは州によってはAEDと同じところに置いてあったりします。ターニケットという止血のための道具や、止血剤の含まれたガーゼなんかが入ってます。こういう道具がある場合にどうやって外出血を止血するか、などを数時間で学ぶコースなのです。一般市民向けなので、難しくはありません。手足ならターニケット、首や関節などであれば止血ガーゼを詰め込んで圧迫、という内容です。キットがなければ、清潔な布などで止血を図る、などと学びます。

Q. 日本での普及は?

A. 日本でも始まって、「bleeding controlコース」の名前で少しずつ広がってるようです。東京医科歯科大学徳島県医師会などでやっていました。

個人的にはもっと一般市民にも広がってほしい。殺傷事件があると、病院でどういう治療がなされたのかを考えてしまいますが、病院前でも、例えば首を刺されて、適切な圧迫止血を施されれば助かったのではないか、など専門家としては思うこともあります。

今は自動車学校で心肺蘇生法を習いますが、私の意見としては、止血法もやった方が有用と思います。

まとめ

専門家に意見を伺いました。

これからオリンピックを迎える日本ではテロの危険が高まっていくでしょう。その中で、止血についての知識や技術は普及することが大切かもしれませんね。

こういった講習が広がり、亡くなる人が減ることを願ってやみません。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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