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病院には平日お昼にかかった方がおトクな話 医者の本音

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
平日の日中だと、治療に困ってもこんな風にいろんなドクターやナースに相談ができます(写真:アフロ)

 風邪を引いたり、お腹が痛くなったりして病院に行こうとしたとき、夜中や休日だと受診を迷うことがありますよね。たしかに病院には「24時間受け付けています」という看板がありますし、大きな病院で救急をやっていたら実際に夜中でもかかることができます。

 でも、実は平日の日中に病院にいくと夜間や休日よりはるかにおトクなのです。なぜおトクなのか、医者の立場から本音を書きました。

 私は福島県の病院に勤める外科の医者です。時々、「当直(とうちょく)」と言って病院に泊まり込みで夜じゅう働いています。このときは普段の外科医としてではなく、「救急外来」というところで救急の患者さんを診察するお医者さんとして働いています。そんなとき、「ああ、この患者さんは夜中に大変な思いをして病院に来られたのに、たいした検査もできずおくすりも出せず申し訳ないな」と思うことがとても多いのです。そして、「くわしく検査をしたいので、また平日の日中に予約を取っておきますので来てください」となることも多いのですね。

 はっきり言っておきますが、病院にかかるのは平日のお昼(日中)が断然おトクです。私がそう言う理由はこの3つ。

病院は平日お昼がおトクな理由

1, 医者が寝ぼけていない

2, 値段が安い

3, 検査がちゃんとできる

順にお話しします。

1, 医者が寝ぼけていない

 まずは「医者が寝ぼけていない」です。えっ、と思われた方、まあちょっと聞いてください。

 平日のお昼に病院にかかると、お医者さんがいますね。お医者さんはだいたい昼に仕事をして夜に寝るふつうの生活スタイルですから、昼間に眠そうな人はほとんどいません。眠そうだったら、オリンピック中とかワールドカップ中とかで夜更かししてテレビを観た場合か、先ほど書いた「当直」のあとの勤務かどちらかです。

 でも、もしあなたが夜中に病院にかかったら。例えば夜中の3時にかかった場合、出てくる医者はほぼ100%眠くてボーっとしています。それには理由があります。夜中に出てくる医者は、その前の日(夜中に突入する前の日)の朝からふつうに病院で仕事をし、そのままぶっとおしで夜中にも働くのです。ですから、夜中の3時はふだんなら疲れてグーグー寝ている時間。それは当たり前ですよね。昼に働いた人は、夜中には眠っています。その時間に患者さんが来た場合、看護師さんから電話が来て仮眠室で目をこすりながら起きることになります。そして白衣をはおって、ねぐせがないことを鏡で確認してから診察するのです。これで寝ぼけていないわけはありません。

 私はじっさい、真夜中の診察で患者さんの胸の音を聴診器で聞きながら寝そうになったことがあります。「いつから調子が悪くなったのか」などのお話を聞いていてもついコクっときてしまった医者の話も聞いたことがあります。

 ですから、正直なところ診察と治療のクオリティは下がります。これは言いづらいことですが、本当のことです。

2, 値段が安い

 実は、平日の日中に病院にかかると支払うお金が安くすみます。これはあまり知られていません。逆に夜中や休みの日に病院に行くと追加料金がかかるのです。その値段を書きましょう。

 ちょっと細かいのですが、追加料金には「時間外」と「休日」、「深夜」の3種類があります。病院によってちょっと違いますが、受付時間が9時~18時で大人がかかる場合、

「時間外」は平日なら朝6時~9時までと夕方18時~22時まで、255円の追加

「休日」は日曜日と祝祭日、年末年始(12/29-1/3)の9時~18時、750円の追加

「深夜」はどんな日でも夜22時〜あさ6時、1440円の追加

なのです。結構高いですよね。さらにおくすり代も高くなることがあります。

(3割負担の人がその病気で初めて受診した場合で計算。病院の体制等により若干料金が異なることがある)

3, 検査がちゃんとできる

 最後に、かなり重要な理由があります。それは、平日の日中なら検査がちゃんとできるということ。逆に言えば、病院の受け付け時間が終わった後の夕方や夜中、早朝などは検査があまりできません。

 例えば採血検査。採血検査は医者が「この患者さんには血球とガンマGTPとASTとALTとこの項目と・・・」という風に項目を指定して検査科に検査してもらいます。しかし、日中に検査ができるけど夜間にはできない項目というものがほとんどの病院にあります。尿検査も同じです。

 

ほかにも、日中ならCT検査やMRI検査ができるが夜間には放射線技師さんが一人しかいないのでできません、という病院は多いですね。私の勤める病院では夜中でも緊急でCT検査やMRI検査ができますが、それは放射線技師さんをたくさん泊まり勤務してもらっているからです。病院にはそのぶんコストがかかります。病院経営を考えると、夜の泊まり勤務は給料が高いので極力減らしたい。ですから基本的には日中にしかできない検査がたくさんあります。

 検査が十分にできなければ、残念ながら医者がする診断の精度は下がるでしょう。つまり、夜中にはある程度「たぶんこの病気でしょう」というざっくり診断しかできないのです。

 まとめると、

夜中に受診するとかなり眠い医者に診察され、限られた検査の中だけで診断がなされ、しかしお金は高めに払うことになる

ということです。それが、私が平日の日中の受診をおススメする理由です。

 以上3つの理由を書きました。

 最後に一つ付け加えると、医者の立場では日中だと他の科のお医者さんがいるので、自分の手に負えないときはすぐに相談できる、という利点もあります。私はおなかの専門ですので腹痛の患者さんをよく診察しますが、ああ、これは私の専門である腸が原因ではなく、専門外の卵巣や子宮などが原因っぽいな、なんてことはよくあります(つい先日もありました)。そんな時、夜中だと「また明日相談しておくので明日の日中に来てください」となりますが、平日の日中なら電話一本で相談することができるのです。

そうも言っていられないくらいしんどい人へ

 そうは言っても、夜中に急に調子が悪くなることはあります。人間の体は自然の一部ですから、日中を選んで具合が悪くなるというわけにはいきません。「でも、この記事では夜中の受診はおススメできないと書いてあるから我慢しようか、でもしんどい・・・」

 そういう方のために、受診するかどうかの判断のたすけになる2つをお伝えしておきます。

 一つは消防庁が作ったサイト(アプリもあり)の「Q助」です。パソコンなどから見る方は、web版で。おススメはアプリを一応ダウンロードしておいて、自分や家族、友人などがいきなりピンチになった時に使えるようにしておく方法です。アプリはiPhoneの方はこちら、Androidの方はこちら

 もう一つが、地域限定の方のみとなってしまいますが、電話で「#7119」とかける方法があります。

 いまのしんどさで病院に行こうか、あるいは救急車を呼ぼうかどうしようかな、と迷ったとき「#7119」に電話をすると救急安心センターというところにつながり、医師や看護師、救急隊経験者などが相談に乗ってくれます。

 使える地域は、平成29年4月1日現在、東京都、奈良県、大阪府、福岡県、札幌市とその周辺、横浜市、和歌山県田辺市とその周辺です。人口の27.3%をカバーしているそうです。これからどんどん全国で使えるようにしていく予定です。

 最後に、記事全体と矛盾するようですが、私の意見を一言。

 夜中にかなり調子が悪くて病院に行こうかどうしようか、とても迷ったとき。迷ったら、受診するようにしてください。特に、かつて経験したことのない痛みとかつらさ、しんどさだと思ったら必ず受診をしましょう。医者は重症の方をみたら瞬間に目が覚めます。夜中でも、救命のためならじゃんじゃん他の科の医者を電話で起こして呼び出します。それが医者のアイデンティティだからです。他にも、交通事故などの時にはすぐに受診しましょう。

 この記事で、平日の日中の受診をおススメしているのは、例えばこんなケースです。

 「いつもの風邪の症状でそんなにきつくないけど、明日から仕事だから夜中行っておくか」

 「前から便秘で今回も3日前から便秘だ。日中は出かけてて忙しかったから、夜中だけど便秘薬もらいにいくか」

 「適正な受診」というのは非常に難しい問題です。ですが、本記事では患者さんの利益・不利益という点からいつ受診するべきかを論じました。

(参考)

全国健康保険協会ホームページ

救急安心センター事業(#7119)の全国展開

http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2904/2904_20.pdf

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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