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【3.11から6年】私が福島で1ヶ月働いて感じたこと

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
ある晴れた日の高野(たかの)病院、玄関

今日3月11日は、6年前に東日本大震災が起きた日です。私は36歳の医師ですが、先月から福島県の高野(たかの)病院というところで働いています。もともと縁もゆかりもない福島に住んで働き、感じたこと、聞いたことを書きました。

記事内には、現地に住む方々のお気持ちを損なう表現や内容があるかもしれません。また、本文中には細かいデータには基づかず、しかもたった一ヶ月の「私の印象」が書かれているため、正確性はやや落ちるかもしれません。しかし、どこにも利害関係のない私が福島のいまを書くことで、他メディアには描きづらいリアルな福島を切り取りたいと思います。

福島に行って感じたこと

1, 地元新聞の一面に「復興」「震災」「原発」の文字が無い日は無い

2, 思ったよりも遥かに、避難生活はまだまだ続いている

3, 東北の他の県から復興作業に来ている人が多い

4, 米と酒が特に美味い

1, 地元新聞の一面に「復興」「震災」「原発」の文字が無い日は無い

私は高野病院の院長として勤務をし、いま1ヶ月とちょっとが過ぎたところです。高野病院に行った経緯や詳しい現地の状況については、私の過去記事をご参照下さい。病院では地元の新聞に目を通すことを日課にしています。そこで私が驚いたことの一つは、地元新聞の一面に「復興」「震災」「原発」の文字が無い日は無いということ。もちろんこの3つは福島にとって重要なキーワードだとは思っていたのですが、それでもまさか毎日毎日、新聞の一面で見るとは思いませんでした。東京にいた時には全くわからなかったことです。その事実だけでも十分、震災と原発事故はまだまだ続いているのだと実感しました。

さらには、通勤中の車で毎日地元のラジオ局、ふくしまFMを聞いていますが、その中でも「避難中のみなさん、〜〜」と呼びかけが毎日されています。事実、福島県内に避難している人は36,770人(平成29年3月6日 ※1)もいるのです。ちなみに福島県の外に避難している方は39,598人(前と同じ)です。

福島の地元では毎日「避難生活をどうしようか」、「避難が解除された時に戻る故郷の町はどうなっているか」、そして「原発事故の影響はどうか」などが毎日の話題になっているのです。そのことを、恥ずかしながら私は福島に行って初めて知ったのです。

2, 思ったよりも遥かに、避難生活はまだまだ続いている

次に私が感じたことは、思ったよりも遥かに、避難生活はまだまだ続いているということ。避難している人の人数も多いです。そして私の病院の外来を受診する患者さんにも「いまは避難中なんですよ」という方がよくいらっしゃいます。

そして患者さんから避難中の生活のお話を伺うことも多いのですが、なかなか不便が多い生活です。医者の視点から見ると健康に悪影響だと感じる、「避難中だから血圧計が無くてね、昔は家で測っていたんだけど今は測らないんだよ」や「寝る環境があまり良くなくて慣れずに、夜あんまり眠れない」といったお話も良く聞くのです。

私のいる高野病院のある広野町(ひろのまち)には、3.11の前には5,490人の住民がいましたが、現在は2,949人にとどまります(※2)。単純に考えても、この数字の差の人数は町の外へ避難をしているのです。

3, 東北の他の県から復興作業に来ている人が多い

広野町には、復興関連の仕事で一時的に住んでいる人が約3,000人いると言われています。町の住民の人口と同じくらいですね。町の中を少しドライブすると、「○○ホテル」という大きな看板をたくさん見ることが出来ます。さらに建設途中のような「○○ホテル」もあります。これらの多くは復興関連の仕事の方のための簡易宿舎です。この関連の人は、怪我で良く病院を受診されます。数としてはだいたい住民の方と同じくらいの数でしょうか。ぎっくり腰から足を打った人、中には原因不明で倒れてしまい救急車で来た人もいます。このような人々は、ほとんどが東北の他の県にもともと住んでいて、福島に1年から数年住んでいる人がほとんどです。この人たちの中には、地元にかかりつけのお医者さんを持っているが福島にいるためあまり受診をしておらず、かといって高野病院を定期受診するわけでもない人がしばしばいます。そうすると何が起きるかというと、持病である高血圧や糖尿病などがかなり悪化してしまうのです。これは問題です。

高野病院からの風景。復興作業の向こうには海が見える
高野病院からの風景。復興作業の向こうには海が見える

4, 米と酒が特に美味い

話は大きく変わりますが、福島に来て一番感じたこと、それは米と酒が特に美味いということ。福島の米は昔から有名ですが、とても美味しいのです。安全性が気になる方は、福島の米は「全袋検査」といって、流通するすべての米袋の放射性物質を検査しています。平成28年産は10,234,023 点の米を検査し、すべてが食品衛生法に定める一般食品の基準値(100ベクレル/Kg)以下でした。詳しくは※3のリンクをどうぞ。

そして福島産の日本酒が実に美味い。酒の味を議論するのもなんだか変なのですが、客観的にも福島のお酒は高く評価されています。

現在、全国規模で開催される唯一の清酒鑑評会である[chrome-extension://oemmndcbldboiebfnladdacbdfmadadm/http://www.nrib.go.jp/kan/h27by/pdf/h27yb_pre.pdf 「全国新酒鑑評会」]では、福島県が4連覇中です。風評被害は日本酒は関係ないみたいです。私は福島に来て、どんどん太ってしまい困っています。こんなニュースもあります。

福島の日本酒、全国4連覇 「金賞」最多のワケは(朝日新聞デジタル 岡本進 2016年6月16日)

以上、福島で1ヶ月医者として働いて感じたことをまとめました。

最後になりますが、あの未曾有の大災害で亡くなった方、そして被災されたすべての方へ心よりのお祈りを申し上げます。私は現地に住み、発信することを続けます。

※1[chrome-extension://oemmndcbldboiebfnladdacbdfmadadm/http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/life/262642_619095_misc.pdf 平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報 (第1684報)平成29年3月6日]

※2広野町ホームページ

※3ふくしまの恵み安全対策協議会 放射性物質検査情報

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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