医者になるための国家試験は簡単なのか?~今年の合格率は91.5%だった~

合格者のみなさん、合格してからも地獄ですよ・・・(写真:アフロ)

厚生労働省は3月18日、第110回医師国家試験の合格発表を行った。受験者数9,434名のうち合格者数は8,630名で、合格率の全国平均は91.5%だった。新卒者の合格率が100%だった大学は和歌山県立医大、順天堂大、慈恵医大、近畿大だった。

なぜ、医者を作るための医師国家試験はこれほど高い合格率なのだろうか。この問題について、かつて同じ試験を受けた者として、また医師としての立場から論じた。

なぜ合格率はこれほど高いのか?

医師国家試験の合格率は毎年90%前後と、高い合格率である。これは他の国家試験である司法試験(23%、平成27年)や公認会計士(10.3%、平成27年度)と比べてもかなり高い数字だ。

医学部は医師という職業養成機関である

この理由の一つには、医学部の特殊なカリキュラムと医師国家試験の受験資格にある。医師国家試験は誰でも受験することができるわけではなく、基本的には日本国内の大学医学部の卒業見込み(=卒業試験に合格)でなければ受験できない。例外として外国の医学部出身者や海外で医師免許を取得した人のための予備試験というものもあるが、受験者数は118人と少数で合格率は53.4%であり、ここでは論じない。

医学部という学部では、医学という学問を修めるのみならず、医師になるための専門的な職業トレーニングを行っている。これは他の学部やロースクールとの大きな違いだ。すべての大学医学部は6年間のカリキュラムで、多くは1.5~2年間の教養課程ののち、4年間の専門課程つまり医学を学ぶ。そのカリキュラムの中には実際に白衣を着て大学病院などで外来の初診患者さんの問診を行ったり、手術室に入り実際に手術着を着て手術に参加したりと、極めて実地的で実戦的なのだ。つまり、医学部という学部は「医師」というプロフェッショナルを養成する訓練機関である側面を持つのだ。

試験だらけの医学部カリキュラム

そしてすべての大学医学部では30科目を超える卒業試験 (例えば「整形外科学」「皮膚科学」「消化器外科学」といった科目)があり、そのすべてに合格しなければ卒業できない。さらには、CBT(Computer Based Testing)と呼ばれる、プレ国家試験のようなものが大学4年生次にあり、これに合格せねば進級することができない。つまり、大学医学部ではかなり実際的な職業訓練が行われる上に、CBTと大学卒業試験に合格しなければ国家試験が受験できないのである。単位を履修し卒業論文を提出すれば卒業資格を得られる他学部と、この点で大きく異なる。

筆者の卒業大学でも卒業試験で10%近い医学生が不合格となり、その年には医師国家試験を受験できなかった。それ以外の試験も考えると、入学時から15%ほどはストレートで医者になっていないだろう。余談だが、多くの大学医学部で最も留年の多い試験は、本物の人間の解剖を行って構造を学ぶ「解剖学」であると聞く。

もう一つの理由として、医師数は国策としてコントロールされているという面がある。医師は毎年新しく8000人-9000人ほど誕生していて、この数は厚生労働省により厳密に調整されているのだ。仮にもし、ある年だけ合格率が50%となり新医師数が4000人になってしまったら、特に医師の少ない地方などでは直接的に医師不足の打撃を受けるだろう。

私立大学医学部は国家試験合格率が命

また、私立大学医学部では国家試験の合格率が受験生集めにつながり、ひいては大学経営に直結する。そのため合格率を引き上げることは死活問題になりうる。この数字をコントロールするために、合格見込みの低そうな医学生は卒業試験を通さず、その結果受験者数という分母が減り合格率が上がるという側面も持つ。これはなにも恣意的に卒業試験合格を操作するのではなく、卒業試験を国家試験並み、或いはそれ以上の難易度に設定すれば良い。なお、私大医学部卒業生の国家試験合格率は91.6%と、全国平均の91.5%を上回っている。

実際の医師国家試験問題(第109回)より抜粋
実際の医師国家試験問題(第109回)より抜粋

なお、前回の医師国家試験からは初めて英語の問題も出現したことは特記に値する。「出張で行った海外で具合が悪くなり、現地の診療所を受診し英文の紹介状を持参した患者」というなんともリアルな設定であった。問題の医学的な難易度は平易なものであったが、「医学生には医学英語も学ばせたい」という意図の込められた問題であった。「世界中で英語ができない医師は日本人医師だけ」と揶揄される昨今、国際化を睨んだ良い傾向だ。

絶対評価と相対評価の両方の顔を持つ試験

医師国家試験は「絶対評価」部分と「相対評価」部分があると言われている。「絶対評価」とははある一定以上の水準に達しなければ、人数いかんにかかわらず合否が決まるというものであるが、医師国家試験には「必修問題」という「絶対評価」部分があり、ここでは80%以上を得点出来なければ他でどれほど高得点でも不合格となる。

さらに、医師国家試験には特有の「禁忌肢」という不合格トラップがある。これは「もしこの選択肢を解答として選んでしまった場合、実際に患者が死亡するような結果になる」というものであったり、「同意を得ずに薬を投与する」といったような倫理的に問題があるようなものだ。この「禁忌肢」を選んでしまうミスは2つまで許容されており、3つ以上で無条件に不合格になる。「禁忌肢」は、この試験の全500問×5つのどこに潜んでいるかはもちろん明示されない。

医師国家試験前には医学生が猛勉強をしていることもあるかもしれない。筆者は大学6年生(医学部は6年制である)の後半約8ヶ月の間、平均して1日15時間、つまり3600時間ほどを医師国家試験の勉強に費やしたが、それでも他の医学生と比べるとかなり少ない方だったと認識している。都内の私立大学医学部では医師国家試験対策の大手予備校の有名講師を雇い一人一人医学生を面談したり、全科目の100時間を超える講義を受講して国家試験対策をすると聞く。これによって、試験の「絶対評価」部分は受験者ほぼ全員がクリアしているのではないかと推察される。

以上、医師国家試験の合格率がなぜ高いのかについて論じた。

(参考)

厚生労働省 第110回医師国家試験の合格発表について

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