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ドイツ戦で日本が失ったもの。本気でW杯8強以上を目指しているのか?【ドイツ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

カタールW杯と違っていたDFライン

 監督ともども崖っぷちに立たされていたドイツは、当然ながら必死になって勝利を目指していたはずだ。そのドイツに対し、敵地で白星を飾ったことは、森保ジャパンにとって大きな収穫であり、今後に向けた自信にもつながった。

 試合翌日、ドイツのフリック監督は解任の憂き目に遭った。現在のドイツはそれほど最悪な状況の中にあり、チームは崩壊しかけていた。負のサイクルから脱出できないチームを見て、協会幹部が指揮官の解任という決断に至ったのも当然だ。

 だからと言って、日本がドイツに勝利したことの意味が薄れることはないが、FIFAランキングで20位まで下降している現在のドイツが普通の状態ではなかったことは間違いなく、その意味で、勝敗や1-4というスコアだけに目を向けると、この試合で見えた本質の部分を見失ってしまう。

 この試合で改めて痛感させられたのは、「経験」がいかに大事か、ということだった。

 何を今さらという話ではあるが、仮にカタールW杯でドイツと対戦していなければ、たとえ今回のドイツが最悪のチーム状態だったとはいえ、日本がこれだけのパフォーマンスを見せられていたかどうか。そう考えさせられるほど、序盤から日本の戦い方に迷いは感じられなかった。

 とりわけ目についたのは、冨安と板倉のCBコンビの充実ぶりだ。この2人がDFライン中央でプレーすることで、日本はカタールW杯時よりもかなり高い位置でDFラインをコントロール。伊東の先制ゴールも、上田の追加点も、DFラインが低ければ生まれていないゴールだった。

 カタールW杯のドイツ戦。日本は前からプレスを仕掛けようとして試合に入ったが、それを実行できず、結果、ほとんどの時間帯を自陣で守ることになった。トップ下のミュラーが日本の左サイドで数的優位な状況を作ったことで、その対応に四苦八苦。DFラインは、ゴール前でしのぐしかないという状態だった。

 しかし今回は、そうならなかった。日本は敵陣で攻撃する時間をしっかり作れていた。なぜなら、DFラインが高かったからだ。ほぼ互角、むしろ日本の方に勢いがある印象を与えた最大の要因はそこにある。

 それは、カタールW杯のドイツ戦を経験して、日本が学んだことのひとつだった。選手の違いもあるが、あの試合を経験していなければ、おそらくこの試合で冨安と板倉がここまで高い位置で踏ん張ることはなかったと思われる。

 それだけに、後半開始からの布陣変更が残念でならない。

 確かに、前半の日本が唯一問題を抱えていたのは、4枚のDFラインの前に立った5人のドイツの選手に対する対応だった。詳細は省くが、このミスマッチによって大外のサネという武器を最大限に生かそうとしたのがドイツであり、それによって難しい対応に迫られたのが日本の左サイドだった。

 実際、サネが決めた同点ゴールのシーンをはじめ、それ以降もサネの突破からドイツはゴールチャンスを作っていた。

 ただ、失点の可能性はあったが、日本は十分に攻撃ができていた。事実、2ゴールを挙げてリードした状態で前半を終えていた。

 ところが日本は、その綻びの修正をするためにハーフタイムに戦術変更を決断。守備時に5-4-1になる3-4-2-1に舵を切った。なぜなら、この試合に勝利することを目指したから。目先の勝利にこだわったからだ。

 確かに敵地でドイツに勝つことで得られるものもある。しかし、6月の国内親善試合時にも敢えて指摘させてもらったが、目先の勝利に目を奪われてばかりいると、チャレンジした者だけが得られる大事な「経験」の機会を逃すことになる。

 後半、日本は目論見通りに守備の修正に成功し、最後にダメ押しゴールを2つ決めて改心の勝利を収めた。しかし、後半の日本は自陣で守る時間が圧倒的に長くなり、ボールを握れず、カウンターでゴールを狙った。カタールW杯で上手くいった方法を選択した。

 しかし、カタールW杯ではベスト16の壁を破れなかった。

 何が足りなかったのか。守ってカウンターだけでは限界があるのか。現在は、それを知るためのプロセスにあるはずだ。

 今回のドイツ戦は、その「経験」をするための貴重な機会でもあった。

 高いDFラインで、どこまで踏ん張れるか。最終ライン4人を維持した状態で、どこまで守備に綻びを見せずに済むか。ベンチに控えていた豊富な攻撃の武器を、いかに有効に使えるか。

 いろいろな可能性が残されていたにもかかわらず、しかし目先の勝利に目を奪われたことで、W杯ベスト8を本気で目指すための経験をすることができなかった。次のステップを目指すための基準を持つための、数少ないチャンスを失った。

 現在トップ10外で最悪な状態のドイツに敵地で勝つことで得られる経験や自信と、挑戦することでしか得られない経験と課題。現在本当に必要とされているのは、どちらなのか。

 後半の布陣変更は、だから残念でならなかった。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】大迫敬介=5.5点

無失点で乗り切ったものの、ビルドアップ時にパスミスを2度してしまい、ピンチを招いた。今後を見据えれば、それ以外は大きなミスがなかったことをプラスにとらえるべきか。

【右SB】菅原由勢(61分途中交代)=7.0点

11分に絶妙なクロスを入れて伊東の先制ゴールをアシストし、22分にも上田のゴールにつながる右からのクロスを供給した。守備面でも対峙したニャブリをしっかりとおさえた。

【右CB】板倉滉=6.5点

失点シーンでは相手に釣り出されて背後にスペースを空けてしまったが、90分を通して安定した守備を遂行。冨安とのCBコンビも上々で、3バック移行後も問題なくプレーした。

【左CB】冨安健洋=7.5点

攻撃では2ゴールの起点となるパスを供給。守備ではサネの決定機を驚異的なシュートブロックで防いだ他、終始ハイパフォーマンスを披露。別格の存在感を示し、文句無しのMOM。

【左SB】伊藤洋輝=5.5点

4バック時の守備ではビルツとサネの間で惑わされ、難しい状況にさらされた。3バックに布陣変更してからは落ち着きを取り戻したが、守備に追われたために攻撃面で貢献できず。

【右ボランチ】遠藤航=6.5点

ドイツのキーマンであるギュンドアンを監視しながら、危険な場面を作られる前に相手の攻撃の芽を摘んだ。自身が長くプレーしたドイツとの試合とあって、余裕さえ感じられた。

【左ボランチ】守田英正(74分途中交代)=6.0点

遠藤との安定したコンビネーションで相手の中盤をおさえ込み、最終ラインと前線のつなぎ役としての任務を果たした。後半早々のチャンスでは惜しくもシュートを決められず。

【右ウイング】伊東純也(74分途中交代)=7.0点

リュディガーの足をかすめたものの、11分に先制点を決め、22分にはシュートミスが上田の得点のお膳立てとなった。右からのクロス供給も相手の脅威となり、存在感を発揮した。

【左ウイング】三笘薫(84分途中交代)=6.0点

ドリブルで相手を翻弄するシーンは限られたが、左大外でボールを受けてからのプレーは相変わらずの効果を示した。キミッヒとサネの守備対応に追われ、実力を発揮できず。

【トップ下】鎌田大地(58分途中交代)=6.5点

上田や伊東とよく絡み、相手の嫌がるポジションでチャンスの起点となった。何より、前半41分のビルツのシュートをブロックしたシーンが最近の成長ぶりを顕著に示していた。

【CF】上田綺世(58分途中交代)=6.5点

22分に伊東のシュートミスに素早く反応し、ネットを揺らすことに成功。前線でボールを収めるシーンもよく見られ、上々の内容だった。2度の決定機を逃したことは反省点だ。

【DF】谷口彰悟(58分途中出場)=6.0点

鎌田に代わって後半途中から出場して3バックの中央でプレー。4バックから布陣を変更した後の出場だったが、両脇の冨安と板倉と連係しながら上々のパフォーマンスを披露した。

【FW】浅野拓磨(58分途中出場)=6.5点

上田に代わって後半途中から1トップでプレー。相手に押しこまれる時間帯が多い中、5-4-1の1トップとして守備に併走。90分には久保のお膳立てでダメ押しゴールを決めた。

【FW】久保建英(74分途中出場)=6.5点

伊東に代わって後半途中から右シャドーでプレー。リードした状況での出場となったが、守備で綻びを見せることもなく、逆に2アシストを記録。短い時間で存在感を示した。

【MF】田中碧(71分途中出場)=6.5点

守田に代わって後半途中から3-4-2-1のダブルボランチの一角でプレー。守備者として試合を終わらせる役目を果たし、アディショナルタイムにヘディングシュートも決めた。

【DF】橋岡大樹(84分途中出場)=採点なし

菅原に代わって後半途中から右ウイングバックでプレー。出場時間が短く採点不能。

【DF】堂安律(84分途中出場)=採点なし

三笘に代わって後半途中から左シャドーでプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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