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なぜ三笘のドリブルは不発に終わったのか? 新戦術にポジティブな要素は見当たらず【エクアドル戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

基本布陣は4-2-3-1に回帰

 カタールW杯開幕直前にカナダ戦が残されているものの、ゴールレスドローで終わった9月27日のエクアドル戦は、11月1日に予定されるW杯メンバー発表前の最終強化試合。当然ながら、本番用のチーム戦術をテストする最後の機会でもあった。

 9月23日に同じドイツ・デュッセルドルフで行なわれたアメリカ戦で、森保一監督はそれまで採用し続けた4-3-3(4-1-4-1)から一転、かつての基本布陣4-2-3-1に戻し、2-0で勝利を収めた。よって、今回のエクアドル戦の注目ポイントのひとつは、この試合でも同じ布陣で臨むのかどうか、ということだった。

 そしていざ蓋を開けてみると、この試合の布陣も4-2-3-1。結論から言えば、よほどの不測の事態が起こらない限り、これでグループリーグ初戦のドイツ戦を含めたW杯で、日本がこれを基本布陣として挑むのが、ほぼ確実になったと見ていいだろう。

 なぜ森保監督は、6月の国内親善試合(パラグアイ戦、ブラジル戦、ガーナ戦、チュニジア戦)まで採用し続けた4-3-3を止めたのか。

 それぞれの布陣には、それぞれの特性がある。森保ジャパンの場合、ボランチ3人を中盤に配置する4-3-3は守備的にカテゴライズできるため、今回の変更は、攻撃的に方針変更したことを意味するのか。

 思い出されるのは、6月のブラジル戦だ。その試合で露呈したのは、ブラジルが前からのプレスを仕掛けた時、日本にはそれを回避して敵陣まで前進する術が見つからなかったことだった。その結果、自陣で守る時間が必要以上に長くなる現象が起きた。

 また、守備面では試合開始から前からのプレスを仕掛けたものの、すぐにブラジルに対応策を見つけられ、結局は4-5-1の陣形でブロックを形成。自陣ペナルティーエリアで何とかブラジルの攻撃をはじき返すのが精一杯という、厳しい現実に直面した。

 つまり、ブラジル戦の反省から、あのような試合展開は避けたいと考えて、森保監督が方針変更に踏みきった可能性は十分に考えられる。問題は、就任以来、約3年にわたってチームの基本布陣としてきた4-2-3-1を、ドイツ、コスタリカ、スペインと戦うW杯で、どのように運用するかだ。

 その点で、4日前のアメリカ戦では以前の4-2-3-1とは異なる現象が起き、布陣の運用方法に変化が見られた。極論すれば、ボール保持にこだわらず、カウンターベースのスタイルへの軌道修正だ。

 では、今回のエクアドル戦ではどうだったのか。改めて、守備面と攻撃面に分けて検証する。

対3バックの相手に対する守備の課題

 この試合の日本のスタメンは、アメリカ戦から総入れ替えした編成となった。

 GKはシュミット・ダニエルで、最終ラインは山根視来、谷口彰悟、伊藤洋輝、長友佑都の4人。ダブルボランチは田中碧と柴崎岳が初めてコンビを組み、2列目は右に堂安律、左に三笘薫、1トップ下に南野拓実が入り、1トップは古橋亨梧が務めた。

 まず、4-2-3-1の日本に対し、基本布陣を4-3-3とするエクアドル率いるアルゼンチン人グスタボ・アルファロ監督は、この試合でオプションの4-2-3-1を選択。通常はインサイドハーフを務めるホセ・シフエンテス(5番)を1トップ下に配置した。

 ただし、ビルドアップ時にはヘグソン・メンデス(20番)が最終ライン中央に下りて3バックに変形。モイセス・カイセド(23番)がワンボランチとなり、守備時に4-4-2になる日本に対し、数的優位を作って2トップのプレスを回避できる陣形をとった。

 つまり全体は、3-1-4-2もしくは3-1-3-3の陣形に変化させた。

 アメリカ戦では、4-3-3に対して4-4-2の日本が前線からのプレスを仕掛けて主導権を握ったが、後半にアメリカが3バックに布陣変更すると、前からのプレスがかけられなくなる現象が起きた。今回のエクアドルも、実質3バックに可変させて、日本の前からのプレスを回避する対策を施したことになる。

 この戦術は効果てきめんで、またしても日本は前からのプレスがかけられず、ミドルゾーンで4-4-2のブロックを形成。アメリカ戦の前半で見られたような、高い位置でボールを奪取する攻撃的な守備が影を潜めると、日本の狙いでもあるカウンターも機能せず。試合開始から自陣で守備をする時間が長くなってしまった。

 その結果、ボール支配率こそ五分五分だったが、シュート数とコーナーキック数で上回ったエクアドルがゲームを支配。

 前半終了間際の43分、左ウイングのイバーラ(10番)がカットインから放ったシュートはポストを直撃し、アディショナルタイムのコーナーキックからメンデスが放ったヘディングシュートはGKシュミット・ダニエルのビッグセーブにより失点は免れたが、劣勢のままハーフタイムを迎えることになってしまった。

 守備時に4-4-2になる森保ジャパンが、3バックの相手に対して前からのプレスを回避されてしまうのは過去にもよく見られた現象だが、今回も"対策に対する対策"は、用意されていなかった。

 もちろん、失点ゼロでしのいだのだから問題はないという見方もできるが、問題点がはっきりしているにもかかわらず、まったく修正を加えていない点は心配だ。

 これについては、後半も目立った変化が見られなかったことも含め、本番までに残された大きな課題としてしっかり押さえておく必要がありそうだ。

ポジティブな要素が見当たらない

 一方、攻撃面はどうだったのか。アメリカ戦とは比較して何か変化はあったのか。

 まず、日本のビルドアップに対して、守備時のエクアドルは4-4-2に陣形を変形させ、前からのプレスをほとんどかけずにブロックを形成した。

 したがって、プレッシャーを浴びないセンターバック(CB)の谷口彰悟と伊藤は比較的自由にボールを保持できたのだが、一方で、そこから前進するのに苦労した。フィールド10人がそれぞれマッチアップする状況が生まれていたからだ。

 ボランチの田中と柴崎のどちらかが、相手2トップの間でパスコースを作ったが、2人には相手のダブルボランチ(20番と23番)のどちらかが付いていくので、ボールを受けてもバックパスで戻してしまうか、横パスでサイドバックにつけるのが精一杯。CBが圧力を浴びた場合は、ロングボールを蹴るといった状況が続いた。

 また、1トップ下の南野がミドルゾーンに下りて縦パスを受けるシーンも見られたが、ボールを受けたあとにロストするケースが多く、ボールの出口としての効果は薄かった。

 6月のブラジル戦では、ボールを蹴らずにパスをつないで前進を図ろうとしていた森保ジャパンだが、今回の9月シリーズでは、そういった方法はとっていない。

 それを証明するのが、以前は4-2-3-1の機能性を測るバロメーターでもあった、敵陣でのくさびの縦パス本数だ。

 この試合の日本が記録したそれは、前半5本(成功3本)、後半1本の計6本のみ。敵陣でボールを保持し、ボランチが縦パスを狙う状況がほとんど生まれなかったからだ。つまり、アメリカ戦と同じ現象である。

 それはサイドからのクロスボールの本数にも言えることで、前半4本(成功2本)、後半5本(成功3本)の計9本と、アメリカ戦の10本とほとんど同じ。さらに言えば、この試合で最もクロスを入れたのは、2本の三笘、山根、相馬勇紀の3人で、左サイドバック(SB)長友のクロスはゼロだった。

 この現象も、中央が閉じられている場合はサイドから攻めるという、以前の森保ジャパンの攻撃コンセプトとは異なっている点だ。

 日本の頼みの綱は、この試合で先発した左ウイングの三笘によるドリブル突破だったが、残念ながら、その武器はほとんど不発に終わってしまった。

 この試合で、三笘が前を向いてドリブルを仕掛けられる状況は、前半で9回あった。しかし、アタッキングサード手前で前を向けたのは、早いタイミングでクロスを供給し、ゴール前で南野がヘディングシュートした前半7分のシーンを含め、3回だけ。

 それ以外はハーフライン前後の左ミドルゾーンでボールを保持したシーンだったため、三笘の前にはエクアドルの右ウイングのアンヘル・メナ(15番)とその背後に右SBバイロン・カステージョ(6番)が構えたシチュエーションに限られていた。

 さすがに相手2人がセットした状態で構えていれば、三笘のドリブルをもってしても、勝機は少ない。

 その際、パスコースを増やすべく、長友が三笘の内側にポジションをとっていたものの、メナやカステージョを動かすような立ち位置にはなっておらず、逆に三笘のドリブルルートを限定。結局、三笘は仕掛けを諦めて、横パスやバックパスで味方に預けるだけに終わっている。

 後半は、67分に退くまで三笘が仕掛けるシーンが2回あった。2分のシーンでは田中が左サイドでフォローしていたことにより、ボールを下げずに済んだ。もうひとつの12分のシーンでは、カウンター発動後のドリブルだったため、カステージョ1人を突破してボックス内に進入し、マイナスのクロスを供給。

 南野のシュートはゴール左に外れたが、それがこの試合で唯一、三笘の突破力が効果を示したシーンだった。

 確かに後半は、途中出場の上田綺世をターゲットに、辛うじて自陣から敵陣に前進する手段を見つけることができたが、その回数も限られた。縦パスもなく、クロスもなく、三笘個人のドリブル突破も封じられたのだから、日本の攻撃が機能するはずもない。

 ボールを奪ったあとに、どういった方法で敵陣に前進するのか。布陣を変更したのはいいとしても、その具体的な狙いが見えないまま、貴重な2試合を消化してしまった印象は拭えない。

 さらに言えば、この布陣と運用方法で、グループリーグ突破のために最も重要な試合となる初戦のドイツ戦をいかにして戦うつもりなのか、という疑問も残された。

 少なくとも、攻撃に関してはアドリブが基本で、再現性は低い。選手のアドリブだけに頼って、本当に過去のW杯で最も難しいグループを勝ち上がれるのか。

 最終テストを終えたいま、攻守両面において、現状のチーム戦術にほとんどポジティブな要素は見当たらない。

(集英社 Web Sportiva 9月30日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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