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現在も中軸を担うパリ・サンジェルマンのチーム最古参選手は? カタール資本以降に獲得した豪華な面々

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

カタール資本後、最初に獲得した大物

 カタール・スポーツ・インベストメント(QSI)がパリ・サンジェルマン(PSG)を買収した2011年以来、クラブは成績、財政規模、ブランディングと、すべての分野において右肩上がりの成長を続けてきた。

 その間、カタール資本化したPSGは「DREAM BIGGER(より大きな夢)」というスローガンの下、多額の投資によって数々のスーパースターを獲得。彼らワールドクラスたちがクラブの成長を後押しした。

 そこで今回は、QSI買収以降の過去11シーズンのなかで、PSGでプレーした主なスター選手たちをピックアップし、どのようにメガクラブ化してきたのかを改めて振り返ってみたい。

 まず、初年度の2011-12シーズンの夏の補強の目玉は、パレルモ(イタリア)から獲得したアルゼンチン代表MFハビエル・パストーレだった。PSGがパレルモに支払った移籍金は、当時リーグ・アン史上最高額となる4200万ユーロ(現在のレートで約58億円)。

 ただ、その後7シーズンにわたって在籍したパストーレだったが、センセーショナルな活躍を見せたのは、13ゴールを記録した初年度のみ。逆に、パストーレと同時期に補強した新戦力のなかでチームの中軸を担うようになったのが、イタリア代表GKサルヴァトーレ・シリグと、フランス代表MFブレーズ・マテュイディだった。

 ちなみにそのシーズンの12月には、フランス人OBのアントワーヌ・コンブアレ監督からイタリアの名将カルロ・アンチェロッティに政権交代。さっそく冬の移籍市場でイタリア代表MFチアゴ・モッタ、ブラジル代表DFのアレックスとマクスウェルを補強したが、モンペリエに優勝をさらわれてリーグ2位でシーズンを終えた。

フランスを席巻した“ズラタネスク”

 本格的にチームの土台が整備されたのは、アンチェロッティ体制2年目の翌2012-13シーズン。とりわけ、ミランから加入したスウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモヴィッチとブラジル代表DFチアゴ・シウバのふたりは、チームのアイコンとしてPSGの実力と知名度を大きく向上させたクラブのレジェンドである。

 そして、将来の中心選手に育てるべく青田買いしたのが、当時ペスカラ(イタリア2部)から19歳で加入したMFマルコ・ヴェラッティ。現在もチームの中軸を担うチーム最古参だ。

 ミランの大物ふたりに加え、イタリア国内でアンドレア・ピルロの後継者と評されていた若き至宝をPSGが獲得できた背景には、2011年に就任した元鹿島アントラーズのレオナルドSDとアンチェロッティ監督の存在があった。

 最終的にその夏の移籍市場でクラブが投資した金額は、前年から2400万ユーロも上回る総額約1億1100万ユーロ(約153億8000万円)におよんだ。

 そしてもうひとり、同シーズンの冬に加入した超スーパースターの存在も忘れられない。現役引退までの半シーズン限定でプレーした元イングランド代表MFデビッド・ベッカムだ。

 サッカーファンを超えた世界的スーパースターのベッカムがラストマッチで涙を流し、試合後のセレモニーで胴上げをされた映像は、当然ながら全世界に配信された。その効果は絶大で、PSGというフランスの首都クラブの名が世界に知れ渡るきっかけとなった。

クラブ歴代最多得点記録保持者

 2013-14シーズンは、リーグ優勝に導いたアンチェロッティ監督がレアル・マドリードに引き抜かれ、フランス人ローラン・ブランが新監督に就任。3シーズン続いたブラン体制は、カタール資本化したPSGにとって最初の円熟期と言える。新戦力補強も、明らかに量よりも質に移行し、ピンポイント補強が目立った。

 ブラン体制初年度の夏に獲得したのは、ウルグアイ代表FWエディンソン・カバーニ、ブラジル代表DFマルキーニョス、フランス代表DFリュカ・ディーニュの3人。総投資額は、前年夏と同じ総額1億1100万ユーロにおよんだが、のちにクラブ史上最多得点記録保持者となったカバーニと、現キャプテンのマルキーニョスを手にできたという点で、費用対効果は予想以上に大きかった。

 チームが完成形に近づいたこともあり、翌シーズンの夏の補強は約5000万ユーロ(約70億円)で獲得したブラジル代表DFダビド・ルイスと、フリーで加入したコートジボワール代表DFセルジュ・オーリエのふたりのみ。2015-16シーズンは、6300万ユーロ(約87億3000万円)で加入したアルゼンチン代表MFアンヘル・ディ・マリアが目玉となった。

 ブラン体制下、チアゴ・モッタ、ヴェラッティ、マテュイディの鉄板MFトリオを基本とする4−3−3の"プチ・バルサ(小さなバルセロナ)"は、初年度のフランスカップを除き、リーグ・アン、フランスカップ、リーグカップで計8冠を獲得。しかし、肝心のチャンピオンズリーグ(CL)では3年連続でベスト8の壁を破れず、ブラン監督の退任が決定した。

不可能を可能にしたネイマールの強奪

 クラブの野望が欧州制覇に絞られた2016-17シーズン、フロントは当時セビージャ(スペイン)をヨーロッパリーグ3連覇に導いたスペイン人ウナイ・エメリを招聘。クラブのアイコンとして君臨したイブラヒモヴィッチが退団した一方、総額6850万ユーロ(約95億円)の投資でベルギー代表DFトマ・ムニエ、ポーランド代表MFグジェゴシュ・クリホビアクなど、エメリ好みの中堅クラスの補強に集中した。

 ところが、リーグタイトルをモナコに奪われたうえ、CLではラウンド16でバルセロナに屈辱的かつ歴史的大逆転負けを喫したことで、ナーセル・アル=ヘライフィー会長が激怒。翌シーズンの夏、絶対に不可能だと思われたビッグディールを成し遂げる。

 ブラジル代表FWネイマールを、なんと2億2200万ユーロ(約308億円)というサッカー界史上最高額でバルセロナから強奪。さらに、まだ10代のフランスの神童キリアン・エムバペに対しても、翌年に1億8000万ユーロ(約250億円)で買い取ることを条件に、モナコからローンで獲得するという超大型補強を断行したのである。

 ただ、エメリ体制2年目は国内三冠を達成したものの、CLでは再びラウンド16でレアル・マドリードに敗北。ドイツ人トーマス・トゥヘルが新監督に就任した2018-19シーズンは、シャルケ(ドイツ)からドイツ代表DFティロ・ケーラー、バイエルン(ドイツ)からスペイン代表DFフアン・ベルナト、フリーで元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォンらを補強するにとどまり、タイトルはリーグ優勝のみに終わっている。

新銀河系軍団の形成に至るまで

 そこで翌シーズンは夏の予算を9500万ユーロ(約132億円)に増額し、コスタリカ代表GKケイラー・ナバス、セネガル代表MFイドリッサ・ゲイェ、スペイン代表MFパブロ・サラビアらに加え、ローン移籍でアルゼンチン代表FWマウロ・イカルディも加入。選手層に厚みを増すと、国内三冠を達成したほか、CLではクラブ史上初の準優勝。カタール資本になって最高成績を収めることに成功している。

 コロナ禍での開幕となった2020-21シーズンは大幅な予算削減を強いられたため、予算の多くはイカルディの買い取りに使われた。また、シーズン中にはトゥヘルからマウリシオ・ポチェッティーノに政権が交代したが、リーグ優勝をリールに譲り、CLでは準決勝でマンチェスター・シティに敗れている。

 そして"新銀河系軍団"が形成されたのが、昨夏のこと。

 急遽バルセロナ退団が決まったアルゼンチン代表FWリオネル・メッシを筆頭に、レアル・マドリードから元スペイン代表DFセルヒオ・ラモス、ミランからイタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマ、リバプールからオランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥムと、いずれもワールドクラスをフリーで獲得。

 さらに、6650万ユーロ(約92億円)でモロッコ代表DFアクラフ・ハキミを、ローンでポルトガル代表の新星DFヌーノ・メンデスを獲得すると、ワールドサッカー史に残るスター軍団が完成するに至った。

 カタール資本になって12年目を迎える新シーズン。新指揮官にフランス人クリストフ・ガルティエを迎えたPSGは最盛期真っ只中とも言える豪華な陣容で、悲願のチャンピオンズリーグ制覇の野望に燃えている。

(集英社 Web Sportiva 7月15日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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