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柴崎、原口、旗手の4-3-3はなぜ機能しないのか? 6月の強化試合に残された課題【ベトナム戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

Bチームで先発を編成した森保監督

 ホームで有終の美を飾るべく臨んだベトナム戦。すでにカタールW杯本大会出場を決めていた日本だったが、グループ最下位のベトナムにホームで1-1のドローを演じ、お祝いムードに水をさす格好に終わった。

 ただ、森保ジャパンの対ベトナム戦の戦績を振り返ると、2019年アジアカップ準々決勝と今回のアジア最終予選第5節のアウェー戦で対戦し、いずれも日本が攻めあぐねる格好で1-0の辛勝に終わっている。そういう意味では、前半にコーナーキックから先制を許した段階で、この結末は十分に予測できたことだった。

 もちろんその要因のひとつとして挙げられるのが、センターバック吉田麻也と右サイドバック(SB)山根視来以外の9人を入れ替えた、森保一監督のスタメン編成だ。

 この試合のスタメンを飾ったのは、GK川島永嗣、DFに山根、吉田、谷口彰悟、中山雄太、中盤3枚はセンターに柴崎岳、右に原口元気、左に旗手怜央をそれぞれ配置し、前線は右ウイングに久保建英、左に三笘薫、1トップに上田綺世という11人。

 これまで途中出場に限られていた中山と三笘は代表初先発で、旗手にとっては代表デビュー戦がスタメン出場となった。

 過去の森保ジャパンの親善試合を振り返ると、2連戦をAチームとBチームに分けて戦うことはよくあった。しかし、公式戦で大幅変更に踏みきった例は、2019年アジアカップのグループリーグで2連勝をしたあと、スタメン10人を入れ替えたウズベキスタン戦しかない。

 グループリーグ突破を確定させたあとの3戦目でローテーションを採用するのは、優勝を狙うチームの常套手段。しかし、今回のケースはシチュエーションが違う。

 それだけに、珍しく試合前日にスタメンの大幅変更を公にしていた点も含め、今回の森保監督が通常とは異なる基準でスタメンを編成した可能性は高い。

 いずれにしても、中途半端なかたちで選手のテストと勝利の"二兎"を追った采配が失策に終わったことだけに焦点を当てると、この試合で見えた大事な部分がかすんでしまう。

 試合前日会見で、森保監督は「戦術的コンセプトに変わりはないが、出場選手が違えば戦い方も変わってくる部分もある」「スカウティングどおりなら明日のベトナムは3バック。オーストラリアとは違うシステムなので、我々も違うオプションを見せないといけない」と語っていたが、実際、試合はほぼそのとおりの展開になったからだ。

従来の4-3-3との決定的な違い

 まず、今回のベトナム戦の内容を掘り下げると、大きくふたつに分けられる。

 フレッシュなメンバー編成で、最終予選中に変更した新布陣の4-3-3をテストした前半と、今回の予選で初めて1点のビハインドを背負ったなか、「攻撃力を上げるために」(森保監督)布陣と選手を変更した後半。ここに、森保監督の頭の中にある、現時点における本大会に向けた青写真がうかがえた。

 ベトナムの布陣は、予想通り、守備時は5-4-1になる3-4-2-1だった。負傷やコロナ感染などで多くの主力を欠いたうえ、来日メンバーも20人のみ。コロナ陽性反応により通訳も不在になるなど、かなり厳しい状況でこの試合を迎えた韓国人パク・ハンソ監督だったが、基本布陣を変えることはしなかった。

 試合は、ベトナムが開始から積極的に前からの守備を遂行したこともあり、14番(グエン・タイン・ビン)のヘディングシュートがネットを揺らした前半20分までは、自陣に引きこもって5バックで守る時間は少なく、ボール回収後は、日本陣内に前進するシーンも作り出していた。

 逆に、五分五分とまでは言わないまでも、この時間帯は明らかに日本は思いどおりの戦いができなかった。その間、日本が作ったチャンスは2度(6分、17分)あったが、いずれも三笘の単独ドリブルから生まれたカウンター後のシュートシーンだった。

 選手が変われば戦い方も変わることは想定済みとはいえ、その変化は攻守両面にわたって影響し、チーム戦術の機能不全を招いてしまった。

 4-3-3を採用した過去6試合の日本は、守備の安定化を図るべく、中盤にボランチタイプの3人を配置した。

 しかし、今回の試合で中盤を務めた3人で、ボランチを本職とする選手はいない。これまでダブルボランチの一角を担った柴崎岳に関しても、低い位置から攻撃の起点となるパス供給と全体のゲームメイクを武器とするタイプだ。

 しかも、初めて一緒にプレーする選手が多いため、お互いの共通理解が浅かったことも、機能不全に拍車をかけた。

 たとえば、レギュラー組の場合、左ウイングの南野拓実が中央寄りでプレーするため、左で幅をとるのは左SB長友佑都が担い、右サイドは主にウイングの伊東純也が大外に立つ。

 その際、カウンター対策として、主に左インサイドハーフが左に空いたスペースを埋めるのが基本。右SB酒井宏樹は、カウンターを浴びないよう、機をうかがいながら攻撃に参加する。

 それに対して、この試合の日本は、左の三笘が幅をとるポジションに立ち、右の久保建英は外と内を使い分けながらプレー。しかし、久保が中央寄りに立ち位置をとった場合、右SB山根が高い位置に出て幅をとり、右インサイドハーフの原口元気が右に落ちてスペースを埋めるという動きはなく、特に右サイドでバランスを欠いた。

 失点後、相手が自陣に引きこもるようになってからは、原口が山根を押し出すようなポジションをとるシーンが何度かあったが、それは攻撃を活性化させるために原口個人が判断したプレー。

 つまり、この日の日本はベトナムの戦い方を見ながら、同時に味方の意図も探りながらプレーすることを強いられていた。

「もっと絵を合わせていけるように準備しなければいけない」とは、試合後の森保監督の反省の弁だが、前半の日本が攻守にわたる不安定さを露呈した主な理由はそこにある。

 結局、失点後も含めて前半に計12本のシュート(公式記録11本)を記録した日本だったが、決定機と言えるチャンスはなく、クロス供給も9本(成功3本)のみ。

 また、4-3-3に変更してから激減した敵陣でのくさびの縦パスも4本で、1トップの上田綺世が収めたシーンは1度もなかった。受け手は、主に左インサイドハーフの旗手怜央だった(3本)。

4-2-3-1に布陣変更した効果

 1点ビハインドの日本は、後半開始から旗手を下げて右ウイングに伊東を起用し、布陣を4-2-3-1に変更。ダブルボランチを柴崎と原口が務め、1トップ下に久保を配置した。

「ダブルボランチにして後ろを安定させたうえで、サイド攻撃を右の伊東と左の三笘として、攻撃力を上げようと考えた。久保を中央に移してライン間でチャンスを作ってもらうことを考えて、そのかたちにした」(森保監督)

 昨年11月16日の第6節オマーン戦でも、ハーフタイムにインサイドハーフの柴崎に代えて三笘を左ウイングに起用して、布陣を4-3-3から4-2-3-1に変更したことがあったが、今回も攻撃的に戦うための手段として、森保監督は布陣変更に踏みきった。

 守備バランスに重きを置く場合は4-3-3、攻撃重視のオプションとして4-2-3-1。少なくとも、これが現段階における本大会に向けたイメージだと思われる。これは、本番までの強化プロセスを見ていくなかで、基準とすべきポイントになる。

 そして、吉田のゴールで追いついたあとの61分、ダブルボランチを本職の守田英正と田中碧に、1トップ下を南野拓実に代えて、布陣変更の効果はより顕著に表れた。

 ひとつは、両ウイングが幅をとり、前線中央のターゲットが増えたために、くさびの縦パスが増加したこと。とりわけ右SB山根が斜めに入れるくさびは4本を数え、そのうち3本を1トップの上田が収め、そのほかにも上田は3本の縦パスを受けている(計6本)。

 後半に日本が記録した敵陣での縦パスは計12本あり、そのうち11本が成功。自陣高い位置からの縦パスも、3本あった(前半は0本)。

 もうひとつ目立っていたのが、クロスの本数だ。日本が後半だけで供給したクロスは、前半の9本から33本に急増し、右から18本、左から15本と、左右のバランスも偏ることはなかった。そのなかで、伊東が9本のクロスを供給したのはいつもどおりの傾向だが、左の三笘も8本を供給した。

 後半は一方的に日本が敵陣でプレーしていたとはいえ、ドリブル突破が主体だった三笘のプレーも、後半からは周囲とのパス交換をメインとするプレーに変化。それは、布陣変更の効果のひとつとして見落とせない現象と言えるだろう。

 33本のクロスのうち、成功したのが11本だったこと、シュート12本を後半に記録しながら1点止まりだったことは、今後の課題として残ったが、攻撃力を上げて勝ちにいく戦術変更の狙いは、それなりの効果を示したと言える。

6月の強化試合に残された課題

 その一方で、以前4-2-3-1を基本布陣としていた時期のような、連動性のある攻撃を見せるには至っていない。

 この試合でダイレクトパスを3本以上つないで作ったチャンスは1度もなく、それが引いて守る相手を崩しきれず、クロスに頼った単調な攻撃に陥ってしまった原因のひとつになっていた。

 しかしながら、その問題を今後の課題として取り組むべきかどうかは、一考の余地があるだろう。なぜなら、W杯本番で、今回のベトナム戦のように日本が一方的に攻め立てる試合展開は考えにくいからだ。

 そういう意味では、攻撃的にシフトチェンジするための手段として採用する4-2-3-1を、互角以上の相手に対してどのように運用するかは未知数と言える。しかも4-2-3-1は、今回の予選で攻撃面でも機能しなかった布陣であり、守備バランスにおける問題も解決できないまま、一度は諦めた戦い方でもある。

 果たして、本番までの限られた時間のなかで、森保監督は4-3-3のブラッシュアップに重きを置くのか、4-2-3-1の再修正に力を注ぐのか。それとも、この2つの布陣以外のオプション作りにも取り組んでいくのか。

 6月に予定される4試合は、いろいろな部分で注目すべきポイントが多い。

(集英社 Web Sportiva 4月1日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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