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遠藤が試合の流れを変えたのか? 相手側の視点で試合を見ると異なる見方が浮上する【パナマ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
写真提供:日本サッカー協会

解決されない森保ジャパンの問題点

 10月の2連戦(カメルーン、コートジボワール)で見えた森保ジャパンの課題は、長友佑都不在で改めて露呈した4バック時の左サイドバック(SB)の駒不足問題と、ビルドアップ時にダブルボランチを封じられた場合の回避方法だ。

 いずれも昨年から継続している問題点だが、果たして年内最後となる11月のパナマ戦とメキシコ戦で、森保一監督がどのような解決策を提示するのか。特に格下と見られる13日のパナマ(FIFAランク77位)戦では、課題を解決すると同時に、相手を圧倒する内容での勝利が期待された。

 現在、18年大会でW杯初出場を遂げたパナマを率いるトーマス・クリスチャンセン監督は、今年7月に就任したばかり。

 しかも前日会見で「パナマ代表は新型コロナウイルスの影響でトレーニングや試合をできていないなかで(10月の2試合で)コスタリカと戦った」、「パナマは国内リーグが完全にストップしてしまった数少ない国」とコメントしていたことが示すように、戦前から日本に大きなアドバンテージがあるのは明らかだった。

 ところが、いざ蓋を開けてみると、日本は予想以上に苦しい展開を強いられた。最終的に日本は南野のゴール(PK)で1-0で勝利したが、親善試合は結果よりも内容が重要になるだけに、日本にとっては厳しい試合だったと言わざるを得ない。

 まず、森保監督がこの試合でチョイスしたシステムは、メインの4-2-3-1ではなく、オプションの3-4-2-1だった。10月のカメルーン戦の後半に使ったシステムであり、試合開始からの採用としては、ヨーロッパ組も含めたA代表では昨年6月のエルサルバドル戦以来のことになる。

 スタメンに名を連ねたのは、GK権田修一、3バックは右から植田直通、吉田麻也、板倉滉、ウイングバックは右に室屋成、左に長友佑都、ダブルボランチは橋本拳人と柴崎岳、2シャドーが三好康児と久保建英、そして1トップには南野拓実。

「2試合を通してより多くの選手を起用しながら戦いたい」とは、前日会見における森保監督のコメントだが、今回招集したメンバーで本職の左SBは長友だけという事情を考えれば、2試合を通して4-2-3-1を貫くのは無理があると考えても不思議ではない。

 しかも、W杯アジア最終予選までに残された時間は限られているため、この段階での3バックのテストはあって然るべき選択だったといえる。

パナマが見せた日本のボランチ封じ

 果たして、試合は立ち上がりこそ日本の勢いが勝ったが、7分に植田のロングフィードから南野がチャンスを迎えた後は、次第にペースはパナマに移っていった。

 その最大の要因となっていたのが、パナマが見せた日本のビルドアップ時のプレス方法にあった。

 この試合におけるパナマのシステムは、4-2-3-1。日本の最終ラインがボールを保持した時、1トップの9番(ガブリエル・トーレス)がパスコースを限定しながらボールホルダーにプレッシャーをかけると、長友へのパスコースは右ウイングの10番(エドガル・バルセナス)が、室屋へのパスコースは左ウイングの19番(セサル・ヤニス)がそれぞれ塞ぐ。

 同時に、橋本に対してはトップ下の8番(アダルベルト・カラスキージャ)が、さらに柴崎にはボランチの5番(アブディエル・アヤルサ)がそれぞれマーク。このかたちを基本にしながら、日本の後方からのビルドアップを防ぎにかかった。

 ちなみに、この時のパナマの布陣は4-1-4-1。センターバック(CB)のふたりとアンカーポジションをとる6番(ビクトル・グリフィス)が南野を包囲しつつ、高い位置をとる両サイドバックが日本の2シャドーを監視するかたちだ。

 ファーストディフェンダーとなる9番と、日本のダブルボランチをマークする8番と5番の動きが生命線で、特に攻守の切り替えのたびに広範囲に動く必要がある5番の役割が重要になる。

 システムは異なるものの、日本にとってはダブルボランチが相手の守備対応によって消されるパターンは、10月の親善試合も含めてこれまで何度も起こった現象だ。そういう意味では、森保監督にとっても想定内だったはず。

 しかし、残念ながらこの試合でも明確な回避方法を提示できないまま、試合を終えることになってしまった。

 実際、前半は7分に植田のロングフィードから南野がチャンスを迎えたあとは、日本が流れのなかからフィニッシュにつながるシーンをつくった回数はゼロ。唯一、前半31分に三好が迎えたシュートシーンも、オフサイドに終わっている。

 逆にペースを握ったパナマは、26分には日本陣内での見事なパス回しから、最後は9番が強烈なシュート。前半アディショナルタイムにシュートにつなげた2つのセットプレーを含め、決定力以外は、ほぼ隙のないパフォーマンスを見せた。

 そんな戦況だったこともあり、日本が前半に見せた敵陣でのくさびの縦パスは、柴崎の2本と植田の1本の計3本のみ。自陣から敵陣に運ぶ縦パスが8本、最終ラインから前線に入れるロングフィードは5本だった。

 その成否にかかわらず、いかに自陣でプレーする時間が長かったかが、これらの数字からも見て取れる。

 象徴的だったのは、前半に記録したサイドからのクロスボールの少なさだった。両ウイングバックの位置が下がってしまったうえ、自陣でプレーする時間が長かったため、その本数は、長友の1本(16分)と久保の2本(23分、35分)の3本のみで、いずれも左サイドからのクロス。右からのクロスボールは1本もなかった。

 試合後、パナマのクリスチャンセン監督が「前半は我々も良かったと思う。日本よりもシュートが多かったし、ポゼッションもできていた」と振り返ったのも当然といえた。

後半に試合の流れが変わった理由

 そんななかで迎えた後半、「元々のプランだった」と試合後に語った森保監督は、橋本に代えて遠藤航をボランチに投入し、引きつづき3バックを継続。10月のカメルーン戦では、「試合の流れを見て」(森保監督)4バックから3バックへシステム変更を断行したが、今回はリズムの悪い前半を終えてもシステム変更は行なわなかった。

 この采配については、これまで3バックを使う機会が少なかったことを踏まえ、目先の勝利よりも来年以降のチームづくりを考えての選択だとすれば、現段階においては問題視する必要はないだろう。

 しかしながら、この選手交代以外、プレスを回避して敵陣にボールを運ぶ方法について修正された部分が、特に見当たらなかった点は問題だった。

 後半も立ち上がりからパナマの攻勢を許してしまい、47分には9番に、48分には10番にそれぞれシュートを放たれるなど、引きつづきパナマのペースで幕を開けてしまったからだ。

 とはいえ、後半はパナマに変化が見られた。前半のハードワークによる疲労の影響なのか、とりわけファーストディフェンダーの9番と、日本のボランチのひとりをマークする5番の動きが、急に緩慢になり始めたのである。

 54分、日本は植田、三好、南野と素早く縦パスをつなぎ、南野が右からクロスを入れると、ゴール前に走り込んだ長友がシュート。惜しくも長友のシュートは枠をとらえられず、これを最後に長友は原口元気と交代したが、このシーンはパナマの守備がほころびを見せ始めた合図と言えた。

 事実、長友から原口元気に交代した直後の58分、日本は54分と同じようなかたちで、ノープレッシャーの植田からフリーの遠藤にパスがわたると、遠藤は素早く南野に縦パスを供給。南野がダイレクトで久保に預け、久保から左の原口に展開し、原口のクロスを室屋がシュートするというチャンスを作っている。

 このシーンをパナマ側から見ると、本来植田にプレッシャーをかけるはずの9番が歩いてしまい、さらに遠藤をマークするはずの5番も足を止めていたため、ひとりで柴崎と遠藤を見なければいけなくなった8番のポジションが中途半端になっていた。

 こうなると、パナマが前半のような前からのプレスを機能させることはできない。

 その1分後、同じような自陣からのビルドアップで、植田、遠藤、久保、南野と縦パスをつないだ後、GKと1対1になった南野が相手ボックス内でファールをもらい、日本がPKを獲得。結局、このPKによる1点が決勝点となった。

3バックシステムの修正点も山積み

「後半は選手の地力の差が出てしまい、自分たちのミスから失点してしまった」と言うクリスチャンセン監督の試合後のコメントどおり、そこからはパナマが空けたスペースを日本が自由に使ってゲームを支配。77分のGKルイス・メヒアの退場劇も、起こるべくして起こったと言うべきだろう。

 もちろん日本にとっては、相手の隙を見逃さず、的確なポジショニングと精度の高いパスを前線に供給した遠藤の働きぶりが際立っていたのは間違いない。その高いパフォーマンスは、所属クラブでの充実ぶりを物語っていた。

 ただし、仮に橋本がそのまま後半も出場をつづけたとしても、後半のパナマの状況を考えると、橋本が同じようにスペースを見つけて縦パスを供給できていた可能性は十分にある。

 少なくとも、遠藤のプレーがすべての流れを変え、3バックが機能するようになったととらえると、今後の修正ポイントを見誤ってしまうことになるだろう。

 いずれにしても、後半は日本の攻撃スタッツが改善し、敵陣でのくさびの縦パスは4本(いずれも遠藤)、自陣から敵陣への縦パスが6本、自陣から相手DFラインの間や裏を狙った長めのフィードは12本を記録した。

 その一方で、多くのチャンスを構築した後半も、日本のクロスボールは5本(右3本、左2本)にとどまったが、この現象は、パナマが10人になっても引いて守らなかったことと、72分からスピードスターの浅野拓磨が1トップに入ったことが大きく影響したと見ていいだろう。

「前半は、特に相手が体力面、フィジカル面も含め、僕たちのサッカーに対応できていた。後半は相手も(体力的に)落ちて、日本のほうがコンディションもよく、うまく行き始めたと感じます。もちろんピッチ状態だったり、メンバーが変わったり、フォーメーションが変わったりしたので、前半はみんなが迷いながら、意識がつながっていない状態でプレーしていた感じがしました」

 試合翌日、左ウイングバックを務めた長友はこの試合をそう振り返ったが、そのコメントと実際にピッチで起こっていた現象を重ねると、やはり後半から試合の流れが日本に大きく傾いた原因の多くは、日本よりもパナマ側にあったととらえるべきだろう。

 その意味でも、森保監督が約1年半ぶりに試合開始から採用した3バックシステムは、まだ多くの課題を残したままといえる。W杯アジア最終予選ではパナマ以上の実力者と戦わなければならないことを考えても、修正ポイントは山積み。引き続き改善する必要がある。

(集英社 Web Sportiva 11月17日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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