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久保建英のパリ・サンジェルマン移籍をシミュレーション! そこに浮上するメリットとデメリットを考える

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

スペイン発のニュースの信憑性

「パリ・サンジェルマン(パリ)が約30億円で久保建英に獲得オファー!」

 現在レアル・マドリードからマジョルカにローン移籍中の久保の移籍話を日本の複数メディアが一斉に報じたのは、ゴールデンウィーク真っ只中のこと。そのニュースの出どころは、いずれもスペインの某インターネットメディアだった。

 パリが久保の獲得を熱望するといった類のニュースが報じられるのは、今回が初めてのことではない。久保がレアル・マドリードに移籍する前にも報道されたことがある。しかしながら、コロナ禍に揺れるヨーロッパサッカー界の現状を考えれば、今回の報道の信憑性は限りなく低いと見るのが妥当だろう。

 ましてやフランスサッカー界は今季のリーグ戦が打ちきりになったことで、各クラブが財政危機を乗り越えることが喫緊の課題。金満クラブと言われるパリにしても今季の大幅減収は必至で、まだ来季に向けた算盤を弾くに至っていないというのが実情だ。

 実際、スペインで報じられたその小さなニュースに追随したフランスメディアは存在しなかった。そのことを見ても、現実味の薄い話と言わざるを得ない。

 しかし、その可能性は別として、久保とパリの相性について考察する意味はあるかもしれない。少なくとも「久保がパリに移籍したら……」というシミュレーションは、今後の久保の進路を予測するうえで、何かしらのヒントになるはずだ。

パリの布陣に久保を当てはめると…

 まず、今季のマジョルカとパリの基本システムを比較して、久保がパリのサッカーにフィットする可能性を探ってみる。

 ビセンテ・モレーノ監督率いる今季のマジョルカは、4−2−3−1をベースにチームを構築。しかし、思うような結果を残せないでいると、シーズンの中盤から4−3−3、4−4−2、あるいは3−5−2を併用しながら建て直しを図っていた。

 そのなかで久保に与えられたポジションは、右ウイングの位置。時に左サイドやトップ下でプレーすることもあったが、右サイドから中央へカットインするプレーを得意とする久保を、指揮官は基本的に右サイドに配置することを好んでいた。

 ただし、久保が一度失いかけていたスタメンの座を取り戻す過程で見え始めた変化もあった。たとえばそれは、中央や左サイドへの流動的な動きである。試合を重ねるごとにクチョ・エルナンデスとの連係が増えたことで流動性が高まり、お互いがより持ち味を発揮しやすい環境ができ上がった印象だ。

 一方のパリは、今季は戦術家トーマス・トゥヘル監督が珍しく4−3−3にほぼ固定してチーム作りをスタートさせた。そして、故障者が復帰した12月に入ってから、ネイマール、アンヘル・ディ・マリア、マウロ・イカルディ、キリアン・エムバペの「ファンタスティック4」を同時に起用する4−4−2にシフトチェンジ。実はここからが、本格的なチーム戦術の構築開始だった。

 もしそのシステム(4−4−2)に久保が加わったとすると、有力視されるポジションは中盤の右サイドになる。主にディ・マリアがプレーするポジションであり、バックアップにはユーティリティプレーヤーとして重宝されるパブロ・サラビア、同じくアンデル・エレーラ、あるいはユリアン・ドラクスラーといった代表クラスの選手が多数控えるという超激戦区だ。

 経験豊富な彼らと18歳の久保を単純に比較しても意味はないが、しかしその一方で、パリの攻撃も流動性を重視しているため、その点においてはマジョルカでの久保のプレースタイルに通じるものがあることは間違いない。また、伸び盛りの久保にとっては守備機会が多いマジョルカよりもプレーしやすい環境と言うことはできるだろう。

 とりわけフランスでは突出した戦力を誇るパリの場合、国内の試合ではほとんどの時間を攻撃局面に費やす傾向がある。右サイドアタッカーにも高い守備力が問われるマジョルカよりも、自身の武器を発揮しやすいはずだ。

パリ移籍にともなうリスクとは?

 とはいえ、懸念材料もある。それは、リーグアンはヨーロッパでも屈指のフィジカルバトルが特徴のリーグであるという点だ。しかも、チーム戦術よりも個人の能力を最大限に生かすことを優先するサッカーが主流なので、たとえば久保が得意とするドリブルを止めるために、相手はイエローカードも辞さないハードなデュエルで潰しにかかってくることが予想される。

 パリ加入後のネイマールがリーグアン独特のデュエルに悩まされ、バルセロナ時代よりもケガが増えてしまった理由はそこにある。久保にとっても、おそらくそれが最初のハードルになるはずだ。

 もっとも、ル・マン時代の松井大輔の成功例を見た場合、突出したテクニックとセンスを兼ね備える久保がそのハードルを乗り越えられないとは思えない。それなりのフィジカルを身につければ、日本人にありがちなアフリカ諸国の選手に対するコンプレックスを取り除くことにもつながるはずだ。

 それは、今後のキャリアを考えてもメリットになる。

 そう考えると、久保がパリに移籍する時の最大の懸念材料は、やはり伸び盛りの10代後半の時期に「プレー機会を失う可能性が高い」という点だろう。

 キングスレイ・コマン(バイエルン/23歳)、ジャン=ケビン・オーギュスタン(リーズ/22歳)、ジョナタン・イコネ(リール/22歳)、クリストファー・エンクンク(ライプツィヒ/22歳)、ムサ・ディアビ(レバークーゼン/20歳)、ティモシー・ウェア(リール/20歳)……。

 ざっと挙げただけでも、厚い選手層を前にパリを離れた才能豊かな若きタレントはこれだけいる。

 今季もタンギ・クアシ(17歳)、アディル・アウシシュ(17歳)、ロイク・ムベ・ソウ(18歳)ら10代のタレントがトップチームの試合に出場した。しかし、いずれもレギュラー獲得までの道のりは長く、いずれは他クラブへ完全移籍する可能性も囁かれている。

 彼らはパリのフォルマション(育成)出身なので新天地への道は開かれているが、獲得に多額の移籍金を伴う久保の場合は同じようにはいかない。パリ行きを決断するのであれば、その後に新たな移籍先を探すのが困難になるという可能性を考慮する必要もある。

 いずれにしても、久保にとってはこれから2、3年が将来を決定づける大切な時期にあたるため、なによりも重視したいのはプレー機会だ。そういう意味では、慣れ親しんだスペインを離れてパリに移籍するリスクは、予想以上に高いと言えるだろう。

(集英社 Web Sportiva 5月11日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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