先陣を切ったのはブンデスリーガ勢だった! 選手の給与削減で当面のクラブ財政危機は乗り越えられるか?

ドイツのボルシアMGは無観客試合に備えてスタンドにファンのパネルを設置(写真:アフロ)

コロナ渦でクラブ財政がひっ迫

「サッカー界は、想像を絶する経済的な問題に直面している。クラブやリーグに経営破綻の危険があり、仮に消滅すれば、復活できる見込みもない。

 未曽有の事態のなかでサッカーが生き延びるためには、選手、ファン、クラブ、オーナーなど、サッカーに関わるすべての人が協力し、痛みを共有する必要がある」

 FA(イングランドサッカー協会)理事会でグレッグ・クラーク会長が警鐘を鳴らしたように、新型コロナウイルスの影響はあらゆる社会経済活動に影響を及ぼし、サッカー界もかつて経験したことのない経済危機に直面している。

 とりわけヨーロッパでは、3月の第2週から各国のサッカー活動が次々と停止され、ついにベルギー、スコットランド、オランダ、フランスでは今シーズンの終了が決定。5月16日からリーグ戦再開が決まったドイツ以外の主要国では、まだ出口が霞んだ状況が続いている。

 そのため、各クラブは今後の収入の見込みが立てられず、毎月の固定経費が懐から流出するという苦悩の日々を過ごしている。

 そんななか、世界最大級の会計事務所「KPMG」は、仮に今シーズンの残りの全試合が中止された場合、ヨーロッパ5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)は合計約40億ユーロ(約4700億円)の収益を失うと試算した。

 また、最も大きな経済規模を誇るプレミアリーグは、約12億5000万ユーロ(約1470億円)という莫大な損失を被ると予測。そのような事態に陥れば、クラーク会長が語るように、多くのクラブが破産の危機に立たされることは避けられそうにない。

 そこで、その最悪のシナリオを回避するために、当事者であるリーグ、クラブ、選手たちはお互いが痛みを分かち合うことで、この苦境を乗り切るべく動き始めた。そのひとつの手段として注目されているのが、選手や現場スタッフのサラリー削減交渉だ。

先陣を切ったドイツのブンデスリーガ

 積極的に動いたのは、どこよりも先にリーグ戦再開が決定したドイツのブンデスリーガ勢だった。

 先陣を切るように、ボルシア・メンヘングラードバッハの選手たちが給与の一部を放棄することをクラブ側に提案。それに賛同したコーチ陣も含め、高給取りの現場の人間が身を削ることによって、クラブ財政の負担軽減に協力した。

 すると、ブレーメン、シャルケ、ドルトムント、バイエルンもそれに続く。たとえばバイエルンでは、選手とコーチングスタッフが20%の給与カットに合意。その後も、ブンデスリーガ1部のほとんどのクラブで同じような動きが見られ、削減割合や条件などはそれぞれ異なるものの、選手やコーチングスタッフのサラリー削減または一定期間の一部返上によって、当面の危機を乗り越えようとする点で一致した。

 そのほか、今シーズンのチャンピオンズリーグに出場したバイエルン、ドルトムント、レバークーゼン、ライプツィヒの4クラブは、リーグ機構にあわせて2000万ユーロ(約23億円)を提供。ブンデスリーガ1部と2部のクラブ救済のための財源として、リーグ機構にとって心強いサポートが続いた。

 結局、ブンデスリーガ1部と2部は、政府と行政の許可が下りたことで、5月16日からリーグ戦の再開が実現するに至ったため、無事シーズンを終了することができれば、クラブによってはサラリーを返還するケースも出てくるだろう。

スペインとイングランドの現状

 クラブの対応策と政府の雇用制度との狭間で給与削減交渉が行なわれているのが、スペインとイングランドだ。

 まず、世界一多額の人件費を抱えるバルセロナは、クラブの全職員の雇用と給与を保障するための国の制度「ERTE」を申請。それによって、一般職員の給与70%を政府に補償してもらったうえで、残り30%分を選手の給与削減で賄うことによって選手側と合意した。

 ただし、そのために選手が受け入れた給与70%カットは、年額ではなく非常事態が宣言されている間に対象を限定し、その期間の長さによってその割合も変化するとされている。ちなみに、スペインではアトレティコ・マドリード、エスパニョール、セビージャ、アラベスといったクラブが、バルセロナのように「ERTE」を使って危機を乗り越えようと決めている。

 対照的に、レアル・マドリードは「ERTE」を申請せずに選手との交渉を進め、このままシーズンが中止になった場合は年間給与の20%カット、再開した場合には10%カットすることで合意に達している。ちなみにレアル・マドリードの場合、削減対象の期間は設けられていない。

 その他、スペインではバレンシアやマジョルカなども選手および監督らがサラリー削減に合意。しかしリーグ戦再開までのプロトコルが発表されたものの、まだリーグ戦再開は未定という現状を考えると、まだクラブは財政危機を脱するまでには至っていない。

 一方、イングランドのプレミアリーグでは、政府が職員の給与8割を補償する「一時帰休」制度の使用が論争となり、現時点ではリバプール、トッテナム・ホットスパー、ボーンマスといった当初申請を表明していたクラブが世間の批判を浴びたことで、次々とそれを撤回する事態が起きた。

 また、リーグ機構とプロサッカー選手協会による給与削減交渉も難航。リーグ機構側は選手の年間給与の30%削減を提案したが、選手側は一律で30%削減することに反発した。

 その理由として、プロサッカー選手協会側は「選手の12カ月間の給与を30%削減すればその額は約5億ポンド(約666億円)に及び、政府の税収は約2億ポンド(約266億円)も減少する。そうなれば、国民保健サービスに悪影響を及ぼす」と主張。その一方で自ら国民保健サービスを支援するための基金を設立し、独自の社会貢献を行うことを決めている。

 とはいえ、そうこうしているうちに各クラブの財政は逼迫する。

 そこでサウサンプトンでは選手とコーチングスタッフが4月からの給与3カ月分の受け取りを延期。ウェストハムでも選手がリーグ中断期間中の一部の給与受け取りを延期することを受け入れ、デイビッド・モイーズ監督とフロント陣の給与30%カットも発表された。また、ワトフォード、シェフィールド・ユナイテッド、アストン・ヴィラといったクラブもそれに追随している。

 このように、イングランドではそれぞれが独自の延命策をとって危機脱出を図っているが、肝心のリーグ戦再開の見通しは立っておらず、クラブの台所事情は厳しい状況が続いている。

今季終了のフランスは本格的な危機

 その傾向はイタリアも同じで、各クラブの給与削減交渉は難航した。

 セリエAのクラブの首脳たちは、選手の給与を削減することで意見が一致。リーグが中止となった場合は年間給与の3分の1を、再開した場合は6分の1を削減する方針をまとめている。

 しかし、この提案に対して選手協会側は反発した。合意までにはまだ時間を要すると見られており、今後も交渉が紛糾することは必至。今回の交渉ではいち早く選手と4ヵ月分に相当する給与削減に合意したユベントスは除外されていたが、その後ローマやパルマでも選手や現場スタッフのサラリー削減合意が発表されるなど、各クラブの交渉は少しずつ前進している。

 一方、リーグと選手組合の交渉が早い段階で合意に達したのがフランスのリーグアンだ。

 その交渉の内容は、リーグ中断期間中の選手とコーチングスタッフの給与の一部の支払いを一時的に延期することで財源を確保し、一般職員の給与にあてるというもの。仮にリーグが再開されてシーズンが完了した場合は、削減された分の給与はシーズン後に支払われることになっていたが、残念ながらシーズンの打ち切りが決定したことでその条項は履行されずに終わった。

 また、その削減割合は一律ではなく、月給1万ユーロ(約117万円)から2万ユーロの選手は20%削減、月給2万ユーロから5万ユーロの選手は30%削減、月給5万ユーロから10万ユーロの選手は40%削減、そして月給10万ユーロ以上の選手は50%削減と、それぞれ段階を設けている。月給1万ユーロ以下の選手は削減の対象外で、全額が支払われる予定だ。

 いずれにしても、これら5大リーグで見られる給与削減の動きは一定の延命策となり得るものの、その効果は限定的だ。たとえばシーズンを打ち切ったフランスでは、さっそく損失補てんの要求が各クラブから寄せられ、リーグが政府に融資を要請する事態となっている。仮に融資を受けられなければ、リーグは新たな財源確保に動かなければならない。

 果たして、ヨーロッパサッカー界は未曾有の経済危機をどうやって乗り越えるのか。世界の最先端に位置する彼らの動向に、世界中の注目が集まる。

(集英社 Web Sportiva 4月18日掲載・加筆訂正)