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修正点は中島が攻め残った場合の守備対応。日本はどのように守るべきだったのか【ウルグアイ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

不利な状況で戦いながら大健闘

 来年の東京五輪を目指す実質的U-22代表で「コパ・アメリカ2019」に臨んでいる日本代表が、初戦のチリ戦から中2日でグループC最強のウルグアイと対戦。試合は2-2のドローで終わり、両チームとも勝ち点1を取り合う格好となった。

 繰り返すが、森保一監督率いる今回の日本は本来のA代表ではなく、U-22代表の選手にオーバーエイジ選手を加えたチームだ。南米チャンピオンの優勝トロフィーを目指し、ベストメンバーで戦うA代表のウルグアイとは、そこが違っている。

 しかも、ウルグアイの初戦(対エクアドル)は、現地時間6月16日。17日にチリ戦を戦った日本は、準備期間がウルグアイよりも1日少なかった。

 また、試合会場となったポルト・アレグレのあるリオグランデ・ド・スル州は、ウルグアイと国境を接するブラジル最南部に位置する。地球の裏側から遥々やってきた完全アウェーの日本と比べ、ウルグアイには圧倒的な地の利もあった。

 そんな試合背景のなかで、日本はウルグアイに対して勝ち点1をもぎ取った。決して対等とは言えない条件下で戦った日本の健闘は、だからこそ掛け値なしで称えられて然るべきだろう。

 ただし、試合結果には内容が伴っているケースと、そうではないケースがある。とりわけ今大会の日本には、A代表メンバーを招集できず、やむなく東京五輪を目指すチームで参戦したという特殊な事情がある。東京五輪に向けたチームの強化という観点からして、結果とは別に、試合内容から客観的に評価しておく必要もある。

 ウルグアイ戦の日本は、チリ戦の反省から何を修正し、ピッチ上でどんな現象が起きていたのか。チームのパフォーマンスと森保監督の采配に着目して振り返ってみると、いくつかの問題点が浮かび上がる。

東京五輪では4-2-3-1を採用?

 注目された日本のシステムは、前回のチリ戦と同じ4-2-3-1。今回の招集メンバーには4バック時の純粋なサイドバックが選ばれておらず、U-22代表のメインシステムである3-4-2-1を想定した人選に見えたなか、森保監督は試合前に示唆していたとおり、再び4-2-3-1を採用した。

 チリ戦後、森保監督は4バックにした理由について「今回招集した選手を見て」と表向きの説明をしたが、今回はその理由を「3-4-3と(ウルグアイの)4-4-2はミスマッチ」とした。しかしサンフレッチェ広島時代の森保監督は、対戦相手が4-4-2の場合もシステムを変えることなく、3-4-2-1を使って相手を苦しめた試合が多かったことを考えると、その説明を鵜呑みにはできない。

 そもそも東京五輪を目指すU-22代表は、監督不在のなか、これまで横内昭展コーチが相手のシステムにかかわらず3-4-2-1をメインに強化を続けてきたはず。その横内コーチが右腕としてベンチに座る今大会で、「相手が4-4-2だから」という理由で3バックではなく、オプションの4バックを使ったことは不自然だ。

 おそらく、4-2-3-1を2度続けて採用したことから推測すると、現時点で、森保監督は東京五輪本番で4バックをメインに戦いたいと考えている可能性が高まったと見ていいだろう。

 とりわけコパ・アメリカは、本番までに真剣勝負の場がない開催国の日本にとって貴重な実戦経験の場だ。その舞台で4バックを採用する意味は軽くない。

 いずれにしても、同じ4-2-3-1でウルグアイに挑んだこの日の日本は、いくつかの点でチリ戦とは異なる顔を見せている。

 スタメンはチリ戦から6人が変更され、GKに川島永嗣、右SBに岩田智輝、ボランチに板倉滉、右ウイングに三好康児、トップ下に安部裕葵、1トップに岡崎慎司が入った。中2日の日程で、しかもサンパウロからポルト・アレグレに飛行機移動したことを考えれば、スタメンの大幅入れ替えを行なったこと自体に疑問はないだろう。

 その一方で、この6人のスタメン起用がチリ戦の反省に基づいた修正点かといえば、必ずしもそうとは言えない。なぜなら森保監督は、公式戦のアジアカップを除き、親善試合ではAチームとBチームに分けて2試合を戦う傾向があるからだ。

 2チームに分けないながらも、本来公式戦であるはずのコパ・アメリカでスタメンの大幅入れ替えを行なった意味。じつはそこに、今大会に臨む森保監督の本当の目的が見て取れる。

 大会前に「参加するからには優勝を狙う」と口にした森保監督ではあるが、仮にそれが本心だとすれば、同じくハードな試合スケジュールだったアジアカップのように、少なくともグループ初戦と2戦目はスタメンを固定して戦うはずだ。

 しかし、今回はそうではないことが2戦目ではっきりした。

 たしかに今大会の目的のひとつに勝利は含まれているものの、その割合は半分以下。どちらかといえば、東京五輪世代のチーム強化の場にしたいという部分が半分以上。スタメンの入れ替え人数は、今大会に臨む指揮官の本心を数字で表わしているようにも見える。それは、ここまで2試合の采配ぶりにも大方一致する。

横幅をとったことで縦パスが増加

 そんななか、初戦のエクアドル戦のスタメンから負傷したベシーノ1枚のみを変更したウルグアイに対し、日本は立ち上がりから積極的な攻撃を仕掛けた。前線4枚にフレッシュな選手がプレーしていた影響もあるが、チリ戦と比べて攻撃面における明らかな変化も見られた。

 それは、両ウイングが横幅をとって、何度もサイドからの攻撃を仕掛けていた点だ。たとえば開始3分、柴崎岳の縦パスを右サイドで受けた三好がクロスを入れ、ニアで岡崎が合わせたシーンはその典型だ。

 また、25分の先制ゴールのシーンも、柴崎が右サイドでフリーになっていた三好に絶妙なロングパスをつなぎ、そこから三好のドリブルシュートが決まっている。

 もっとも、このシーンでは柴崎のロングパスの直前にあったウルグアイのコーナーキック後、左サイドバックのラクサールが臀部を痛めたことが幸いしたことも付け加えておく必要がある。三好がシュートを放つ直前、ラクサールが体を寄せられずに動きを止めて座り込んでしまったことは、ニアを射抜いたシュートに少なからず影響したことは否定できない。

 それはさておき、この試合で日本が前半で記録したクロスは計8本(後半3本)だった。チリ戦の前半が1本(後半6本)だったことを考えると、改善された点のひとつだ。それは、サイドの選手(三好、中島翔哉)がワイドにポジションをとってプレーしたことで生まれた。

 サイドの選手が横幅をとれば、相手の守備網も横に広がりパスコースが生まれる。当然縦パスの本数は、前半で5本だったチリ戦と比べ、前半だけで20本に増加した。たしかに相手の守備対応がうまく多くのチャンスを作れなかったこと、防戦一方だった後半は3本に激減したことは事実だが、少なくとも初戦との違いは明白だった。

 同時にそれは、守備面でも変化をもたらしていた。

 サイド攻撃を再三許したチリ戦の問題点を考えれば、こちらのほうが重要だ。顕著だったのは、守備時における中島のポジショニングだ。チリ戦では相手ボールになっても前線に残ったままだった中島が、この試合ではほとんどのケースで杉岡大暉の前まで戻って4-4-2のブロックに加わっていた。また、右の三好も守備時には2列目右サイドで構えた。

中島が攻め残ったときの守備対応

 しかし、その問題が完全に解決されていたかといえば、そうではなかった。

 いくつかのシーンにおいて、次の試合に向けて守備戦術の修正を図らなければならない点が浮上している。それが、相手のカウンターアタックを受けたとき、あるいは縦に速い攻撃を受けたときの左サイドの守備対応だ。

 前半8分、13分、16分、18分に迎えたピンチは、ウルグアイの素早い縦攻撃から日本の左サイドを破られたシーンである。それぞれシチュエーションは異なるが、いずれのシーンにおいても、中島はディフェンスに戻れていない。

 とはいえ、中島を生かすには、常に守備を考えてポジショニングさせても意味はない。彼が持つ特別な能力を半減させるからだ。問題は、彼が戻れない場合の対応を、チーム戦術として整理できていない点にある。

 たとえばレアル・マドリードの場合、左サイドバックのマルセロが前線に攻め残ったときに左のスペースを突かれたら、左センターバックのセルヒオ・ラモスがスライドしてそのスペースを埋め、アンカーのカゼミーロが中央に落ちてセルヒオ・ラモスが空けたスペースを埋めるという守備方法で対応する。

 日本の場合、中島はマルセロより1列前のポジションなので、ダブルボランチが横にスライドし、逆サイドウイングが下がりながら内に絞る方法もある。重要なことは、チームとして中島が攻め残りしたときの守備対応を整理しておくことだ。これは、次のエクアドル戦に向けた重要な修正ポイントになる。

 試合運びについて大きな課題を残した点も見逃せない。

 初キャップの選手を含め、若く経験の少ない選手が多いゆえ、リードした直後に追いつかれてしまうことは仕方のない部分もある。それだけに、2-1とリードしたあと、ほぼ一方的に押し込まれてしまった60分以降の試合運びについては、指揮官のベンチワークの問題が問われて然るべきだ。

 2-2に追いつかれた66分のシーンを含め、終了までの約30分間は、いつウルグアイに逆転ゴールが生まれてもおかしくない戦況が続いた。それを最後まで耐え抜いたとしてポジティブに見るか、それとも危機感を持つかで、成長の速度は大きく変わる。当然、指揮官なら後者であるべきだ。

 もっとも、これは森保監督が今大会をどのような目的意識で臨んでいるかという根本的な話にもつながってくる。勝利と経験が4対6、もしくは3対7の割合であるとしたら、たしかにこの2試合のスタメン選びと試合中のベンチワークに頷ける部分もある。

 ただ、東京五輪本番に向けた実戦経験を求められるのは選手だけではない。国際経験の少ない森保監督もそれは同じなはずで、コパ・アメリカという真剣勝負の場で本番に向けた自分自身のテストをしなければ、再びアジアカップと同じようなぶっつけ本番の采配になってしまうことは火を見るより明らかだ。

 引き続き、森保監督の采配に注視する必要がありそうだ。

(集英社 Web Sportiva 6月23日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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