戦術バリエーションの豊富さは随一。戦術家トゥヘルが変えた新しいパリ・サンジェルマンの強み

(写真:ロイター/アフロ)

第1戦と立場が入れ替わった両チーム

 チャンピオンズリーグ・ラウンド16の第2戦、パリ・サンジェルマン(パリ)対マンチェスター・ユナイテッド(ユナイテッド)の一戦が現地時間3月6日、パルク・デ・プランスで行われる。オールド・トラッフォードで行なわれた第1戦では、手負いのパリが予想以上のパフォーマンスを見せ、0-2で先勝した。

 一方、ホームで敗れたユナイテッドは、終了間際にポール・ポグバが退場処分を受けたことで第2戦を欠場。さらにアンデル・エレーラ、ジェシー・リンガード、フアン・マタ、ネマニャ・マティッチ、アントニオ・バレンシアを負傷で欠き、アレクシス・サンチェス、アントニー・マルシャル、フィル・ジョーンズの出場も危ぶまれているだけに、第2戦での苦戦は必至と見られている。

 3週間前と比べ、両チームはまったく反対の立場で第2戦を迎えることになったわけだが、第1戦を振り返ると、今シーズンのパリの強さと過去との違いが顕著に表れた試合内容だったことが分かる。

 そもそも第1戦時は、ユナイテッドがオーレ・グンナー・スールシャール新監督の下で11戦無敗と好調をキープしていたのに対し、トーマス・トゥヘル監督率いるパリは主力に故障者が続出し、ベストとはほど遠いメンバーを組まざるを得ない状況だったため、戦前はパリが苦戦を強いられると見られていた。

 ところが蓋を開けてみると、0-0で迎えた後半53分に、パリはコーナーキックからプレスネル・キンペンベが先制ゴールを決め、その7分後にカウンターからキリアン・エムバペが追加点。たしかにユナイテッドはジェシー・リンガードとアントニー・マルシャルが負傷交代を強いられたという不運はあったものの、ネイマール、エディンソン・カバーニ、そしてトマ・ムニエも欠いていたパリが、内容でもユナイテッドを圧倒する格好となったことは間違いなかった。

 2アシストを記録したアンヘル・ディ・マリア、「MCN」トリオ(エムバペ、カバーニ、ネイマール)で唯一出場を果たしたエムバペ、攻守に渡って完璧なプレーを見せたマルキーニョスなど、この試合におけるパリのヒーロー候補は複数いる。しかしこの試合の勝因を、満身創痍のチームを勝利に導いた指揮官トゥヘルの存在を抜きにして語ることはできないだろう。

 この勝利こそ、今シーズンのパリの強さを象徴する試合。トゥヘルのチーム作りと戦術プランがズバリ的中した試合だったと言っていい。

第1戦で奏功したポール・ポグバ封じ

 この試合で注目されたのが、長期戦線離脱中のネイマールに加え、直前の国内リーグ戦で太腿を負傷したカバーニ、同じく脳しんとうによりムニエを失ったトゥヘルが、中2日という短い時間で、どのようなメンバーと布陣を採用するかという点だった。

 これまでトゥヘルが試合開始時に使った布陣は6種類。そのうち、この試合で採用したのは、中盤3人が逆三角形となる4-3-3を採用するユナイテッドに対し、ダブルボランチとトップ下が三角形を描く4-2-3-1だった。

 スタメンは、GKジャンルイジ・ブッフォン、4バックは右からティロ・ケーラー、チアゴ・シウヴァ、キンペンベ、フアン・ベルナト。ダブルボランチはマルキーニョスとマルコ・ヴェラッティを組ませ、2列目は右からダニ・アウヴェス、ユリアン・ドラクスラー、ディ・マリア、そして1トップにエムバペという11人である。

 そんななか、トゥヘルがポイントにしたのが、ユナイテッド最大のキーマンで、左インサイドハーフを務めるポール・ポグバを封じ込めることだった。

 そこで、191cmという高身長のポグバに対し、165cmのヴェラッティとのミスマッチを考慮して、通常CBでプレーする183cmのマルキーニョスを右ボランチに配置。過去にこの2人がダブルボランチを形成するときは右にヴェラッティが入ることが定番だったことを考えると、その狙いは明確だった。

 事実、前半20分前後にマルキーニョスのマークを嫌い、ポグバがアンデル・エレーラと左右のポジションを入れ替えたとき、マルキーニョスもヴェラッティと入れ替わってポグバをマーク。それに気づいたポグバはしばらくして左サイドに戻ったが、そのシーンからもトゥヘルの狙いは見て取れた。

 さらに、右ウイングに元々右SBで守備力も高いダニ・アウヴェスを起用することで、右サイドの守備力を強化した。これは、右SBケーラーとともに、ユナイテッドの左ウイングを務める好調アントニー・マルシャルを封じることにもつながった。

 この策は見事に功を奏し、ポグバは前半に1度だけ個の力で右サイドを突破してチャンスを作ったものの、それ以外は見せ場を作れないまま。そして、89分に2枚目のイエローカードをもらって退場処分となり、次の試合は出場できなくなった。また、ハーフタイムに負傷交代したマルシャルも、沈黙したままピッチを去っている。

 まさに監督采配が見事に的中したわけだが、ここで見逃せないのが、マルキーニョスのボランチ起用も、4-2-3-1の選択も、負傷者が続出したことで突発的に考案した苦肉の策ではなく、あくまでも今シーズン積み上げてきた戦術バリエーションのひとつだったという点である。

戦術バリエーションの豊富さは欧州一

 たとえば4-2-3-1にしても、昨年10月に頻繁に使った布陣ではあるが、11月以降3バックをメインに採用するようになってからは、チャンピオンズリーグおよび国内リーグ戦では封印されていた布陣。また、カバーニの負傷がなければ、このユナイテッド戦ではエムバペと2トップを組ませる3-5-2(3-1-4-2)、もしくは最近メインにしていた4-4-2を採用すると見られていた(直前の国内リーグ戦でも4-4-2を採用していた)。

 結局、トゥヘルは限られた選択肢のなかから4-2-3-1を採用したわけだが、戦術練習もままならない中2日というスケジュールでその決断を下し、またそれを実行できるだけの戦術の浸透がなされていることこそが、今シーズンのパリの最大の強みと言えるだろう。

 仮にユナイテッドに先制されて、パリが追う展開になった場合は、右ウイングバックにダニ・アウヴェス、左にベルナト、前線は右からディ・マリア、エムバペ、ドラクスラーと並べ、3-4-2-1の攻撃的布陣にシフトチェンジする。おそらくトゥヘルなら、そんなプランBも用意していたはずだ。

 今シーズンのチャンピオンズリーグで優勝候補とされるバルセロナ、レアル・マドリー、ユベントス、あるいはマンチェスター・シティやリバプールにしても、ここまで豊富な戦術バリエーションは持ち合わせてはいない。

 パリはカタール資本となって以来、過去6シーズン連続でチャンピオンズリーグ8強の壁を乗り越えられずにいる。

 とりわけロラン・ブラン監督が率いた2013-14シーズンからは5シーズン連続でほぼ4-3-3のみで戦い続けた結果、ズラタン・イブラヒモヴィッチ(現ロサンゼルス・ギャラクシー)や昨シーズンのネイマールなど、大一番で大黒柱を欠いたときや主力が欠場したときはチーム力が一気に低下し、それが原因で敗退するという苦い歴史を繰り返してきた。

 そういう意味では、トゥヘル就任によって新しく生まれ変わった今シーズンのパリは、単なるタレント軍団の域を超え、チャンピオンズリーグを勝ち取るために必要ないくつもの手段も手にしたと見ていい。とりわけ監督と選手の関係が極めて良好な今シーズンこそ、実は悲願達成のチャンスかもしれない。

 このホームでの第2戦を無事に終えて準々決勝に進出することができれば、次はいよいよパリにとっての鬼門である8強の壁に挑むことになる。カルロ・アンチェロッティ(現ナポリ監督)、ロラン・ブラン、ウナイ・エメリがなしえなかった偉業を達成できるのか。ユナイテッドとの第2戦も、トゥヘルの采配ぶりに注目が集まる。

(集英社 Web Sportiva 2月14日掲載・加筆訂正)