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マンC移籍の板倉滉はレンタル先のフローニンゲンで成功への第一歩を踏み出せるか

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

欧州で目立つ日本人選手の青田買い

 2019年冬、日本の若手Jリーガーが次々とヨーロッパに旅立った。

 柏レイソルのDF中山雄太(21歳)がオランダのズヴォレに、同じく柏のMF安西海斗(20歳)がポルトガルのブラガに、そして川崎フロンターレのDF板倉滉(21歳)はイングランドのマンチェスター・シティにそれぞれ完全移籍。以前にも同じようなケースはあったものの、同じ移籍期間に同年代の若手3人が一気にヨーロッパへ流出したことは過去になかったと記憶する。

 そのなかでも板倉の移籍先は、近年世界屈指のビッグクラブへと成長を遂げた強豪マンチェスター・シティである。就労ビザ取得の規定を満たしていないため、当面は堂安律がプレーするオランダのフローニンゲンにレンタル移籍(2020年夏まで)することが発表されているが、現プレミアチャンピオンが100万ポンド(約1億4000万円)を支払って日本の若手DFを獲得したこと自体が、ある意味で画期的と言えるだろう。

 昨シーズンはレンタル先のベガルタ仙台でプレーした板倉は、センターバックを主戦場とする一方で、守備的ミッドフィルダーでもプレーするなど、技術とセンスを兼ね備えた大型ディフェンダーだ。おそらく、去年のアジアU-23選手権やアジア大会という国際舞台でのパフォーマンスも評価されたうえでの移籍だと思われる。

 一方、獲得した側のマンチェスター・シティは、近年は将来有望な若手選手に積極的な投資を続け、自国およびEU圏内はもちろん、南米を筆頭とする世界のあらゆる地域にスカウト網を伸ばし、”ダイヤの原石”を囲い込んでいる。

 マンチェスター・Cをはじめ、スペインのジローナ、アメリカのニューヨーク・シティFC、オーストラリアのメルボルン・シティという4つのクラブに出資し、日本では法人を設立している「シティ・フットボール・グループ」が、それを後押しする。

 実際、マンチェスター・Cは昨年12月にMLSコロンバス・クルーのアメリカ代表GKザック・ステッフェン(23歳)を700万ポンド(約10億円)で獲得。今後半年間はコロンバス・クルーにレンタルし、今年の夏に加入する予定だ。獲得金額は異なるが、彼も板倉のケースと同様に、ヨーロッパ以外の地域から青田買いされた格好である。

 もっとも、チェルシーやアーセナルに代表されるように、プレミアリーグのビッグクラブがまだ世界的に名前の知られていない有望株を青田買いする例は多い。日本人では、アーセナルに移籍した稲本潤一(2001年)や宮市亮(2010年)、最近では浅野拓磨(2016年)が青田買い移籍でイングランドに渡っている。

 ただし、いずれも移籍先のアーセナルでは活躍できていないという、日本人選手にとっての厳しい現実もある。

 たとえば、ガンバ大阪からのレンタル移籍でアーセナル入りした稲本は、結局リーグ戦に出場できないまま、翌年に同じプレミアリーグのフラムに再びレンタル移籍。就労ビザの規定を満たしていなかった宮市は、オランダのフェイエノールトで半年間のレンタルでプレーした後に復帰するも、出場はリーグカップ2試合の出場のみ。

 宮市はその後、ボルトン(イングランド)、ウィガン(イングランド)、トゥウェンテ(オランダ)とレンタル移籍を繰り返し、2015年に完全移籍で現在所属するザンクトパウリ(ドイツ)に活躍の場を移している。度重なる故障がなければ異なる道を歩んだと思われるが、アーセナルというビッグクラブで成功できたかどうかはわからない。

 また、現在アーセナルに所属する浅野も、就労ビザの関係で即レンタル移籍。初年度こそシュトゥットガルト(当時ドイツ2部)で結果を残したが、1部に昇格した昨シーズンは出場機会を減らし、3年目の今シーズンもレンタル先のハノーファーで苦しんでいる。

 このような例に加え、チェルシーからの青田買いオファーを断って移籍先をマインツ(ドイツ)に決めた武藤嘉紀(現ニューカッスル・ユナイテッド)がその後に歩んだ道を考えると、ビッグクラブの青田買いについて疑問の声が上がるのも当然なのかもしれない。

 しかし、だからと言ってそれほど悲観する必要はないだろう。青田買い移籍を果たした板倉にも、希望の光は十分にある。まず、レンタル先がフローニンゲンであることが好材料のひとつだ。

 今シーズンのフローニンゲンは開幕から苦戦を強いられ、現在も残留争いから抜け出せていないという厳しい状況にある。今シーズンから監督がダニー・バイスに替わったこともあるが、なにより昨シーズンの主軸中の主軸だったボランチのジュニーニョ・バクーナをハダースフィールド・タウン(イングランド)に引き抜かれてしまったことが痛手となった。

 システムが定まり始めた秋口からは、センターバックのサミル・メミシェヴィッチを1列上げてボランチで起用し、ルドヴィート・レイスと組ませることでようやく落ち着くようにはなったが、攻守両面においてこのコンビが盤石というわけではけっしてない。

 早くもクラブ幹部からは「板倉を中盤で起用したい」というコメントが伝えられているが、そういう点では板倉がボランチのポジション争いに食い込む可能性は高いと見ていいだろう(板倉は2月2日のエールディビジ第20節、対ヴィレムII戦でベンチ入りを果たした)。しかも、レンタル期間は半年ではなく、1年半用意されている。これも、ヨーロッパ初経験の板倉にとってはプラス材料だ。

 オランダのクラブへのレンタルという点では、アーセナルからフェイエノールトにレンタル移籍した宮市のケースと似ている。同じように初めてヨーロッパでプレーした当時の宮市は、フェイエノールトでセンセーショナルな活躍をしてレギュラーを確保。市場価値を一気に上げたことは、サッカーファンの記憶に新しいところだ。

 要するに、フローニンゲンで地位を築くことさえできれば、自ずとその後の道は開けるということである。

 フローニンゲンを足がかりに他のクラブへステップアップを目指し、必ずしもマンチェスター・Cに戻らなくてもいい。また、青田買い移籍で加入し、オランダの名門PSVでの武者修行を経てマンチェスター・Cのトップチームに定着したウクライナ代表MFオレクサンドル・ジンチェンコのようなケースを追い求めてもいいだろう。

 いずれにしても、目の前にあるチャンスをモノにできるかが勝負だ。

 サウサンプトン(イングランド)の吉田麻也、シント・トロイデン(ベルギー)の冨安健洋、そしてこの冬にフランスのトゥールーズに渡った昌子源と、現在日本人のセンターバックの評価は右肩上がりだ。はたして、板倉もその波に乗れるのか。東京オリンピック代表チーム、そして将来の日本代表を考えても、今後の成長に大きな期待がかかる。

(集英社 Web Sportiva 1月20日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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