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相手の日本対策に苦戦した前半と、打開に成功した後半との違いは何か?【トルクメニスタン戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:松尾/アフロスポーツ)

グループ最弱国相手に予想外の大苦戦

 終わってみれば、冷や冷やの辛勝。森保ジャパンのアジアカップ初戦は、グループ最弱と目されるトルクメニスタンに対して3-2で勝利したものの、勝ち点3を手にできた以外は見どころの少ない試合内容に終わった。

 直前にメンバーの入れ替えを強いられ(中島翔哉[ポルティモネンセ]と守田英正[川崎フロンターレ]が故障し、急きょ乾貴士[ベティス]と塩谷司[アルアイン]がメンバー入り)、各選手のコンディション調整にばらつきがあったことを踏まえれば、森保一監督もある程度の苦戦は想定していたかもしれない。

 しかし、確実に勝たなければいけない相手に対し、最後に追いつかれそうな展開に持ち込まれたことについては不本意だったに違いない。

 優勝候補としては不安を残すスタートとなったわけだが、長丁場のトーナメントを勝ち抜くためにはそこで浮き彫りになった問題点を修正していく必要がある。

 苦戦の原因は何か? アジアカップを見ていくうえでも、そこをひとつひとつ整理することで、森保ジャパンが大会中にどのような変化を見せるかが見て取れるはずだ。

 まず、この試合の日本の布陣はいつもの4-2-3-1。遠藤航(シント・トロイデン)と青山敏弘(サンフレッチェ広島)が調整不足で起用できない事情があったため、本来はセンターバックの冨安健洋(シント・トロイデン)をボランチに抜てきしたほか、GKには権田修一(サガン鳥栖)を選択した。

 その権田と冨安を含め、堂安律(フローニンゲン)、南野拓実(ザルツブルク)以外はロシアW杯組を並べたことから考えると、経験を重視したセレクトと言える。

 一方のトルクメニスタンは、予想された4バックではなく、5-4-1。日本にとっては昨年11月の対戦相手のキルギスと同じ布陣と相見えることになったわけだが、試合が始まると、トルクメニスタンがしっかり日本対策を練ったうえでこの布陣を採用したことが見て取れた。とりわけ前半は、そこがポイントとなって試合が推移した。

前半はトルクメニスタンの狙い通りに

 圧倒的にボールを支配したのは、予想どおり実力で上回る日本。序盤から相手陣内に押し込みつつ、森保ジャパンの調子のバロメーターとなる縦パスを積極的に入れようと試みる。とくに攻撃のスイッチを入れるパスを供給していたのが、前半だけで10本以上の縦パスを試みたボランチの柴崎岳(ヘタフェ)だった。

 ところが、両ウイングの堂安と原口元気(ハノーファー)がいつものように内に入って中間ポジションをとるものの、相手が5バックだったため、そこにパスを受けるスペースは見つからない。無理をして縦パスを入れても、それを狙う相手ディフェンスにインターセプトされ、パスがつながったとしても、5バックと2列目4枚がコンパクトな陣形を保っているため、パスの受け手がすぐに囲まれ、ボールロストするシーンが目立った。

 さらに、負傷により別メニュー調整を続け、無理を押して出場した大迫勇也(ブレーメン)がいつものようにボールを収められなかったことも、前半の日本の攻撃を滞らせてしまった要因のひとつとなった。

 大迫のポストプレーは縦パスを多用する森保ジャパンの生命線だ。その肝の部分が定まらなければ、その後の連携プレーから中央突破を図ることは困難になる。

 また、その大迫に限らず、慣れないピッチと相手のプレッシャーに苦しみ、レシーバーの南野や堂安がボールを失うシーンも少なくなかった。これについては試合を重ねるなかで修正されるだろうが、少なくともこの試合の前半は、効果的な縦パスからチャンスを作ることができずに終わっている。

 逆に、日本が作った前半唯一の決定機と言えるチャンスは前半30分、左サイドから長友佑都(ガラタサライ)がアーリークロスを入れ、堂安が競り合った後のボールを大迫が左足で振り抜いたシーンだった。

 長友は、それ以外にも22分にクロスを入れて堂安のヘディングシュートにつなげるなど、前半だけで4本のクロスを供給。一方、右サイドからは38分に堂安が左足でクロスを入れて、南野が反転しながらダイレクトでシュートしたシーンのみだった。

 そんななか、前半はトルクメニスタンのもうひとつの狙い、すなわちボールを奪った後のロングカウンターも何度か効果を発揮した。

 ほぼ全員が敵陣に入って崩しにかかっているときの日本の陣形は2センターバックを最後尾とする2-4-4。これに吉田麻也(サウサンプトン)も持ち上がってビルドアップに参加したときは、槙野智章(浦和レッズ)ひとりが後方に残ったかたちになる。トルクメニスタンにとっては、そこがカウンターの狙い目になっていた。

 まずは立ち上がり4分。柴崎が左から中央の大迫に入れた縦パスを、大迫がコントロールミスしてロストした直後のシーンだ。ボールを奪った7番アマノフが、左のオープンスペースに走り込んだ9番オラジャヘドフへ素早くロングパス。

 幸いオラジャヘドフが逆サイドに入れようとしたボールが対応した槙野に当たったことでピンチを免れたが、これが逆サイドに入ってきた8番ミンガゾフに通っていれば決定機になっていたはず。そして、これがその後のロングカウンターの伏線となった。

 17分には柴崎が南野を狙って入れた縦パスがインターセプトされたところからロングパス1本でチャンスを作られ、さらに26分には堂安のミスパスで始まった相手のカウンターから、最後はルーズな守備により日本が先制点を献上。トルクメニスタンにとっては、攻守にわたって狙いどおりのプレーができた前半45分となった。

森保ジャパンが提示した打開策とは?

 トルクメニスタンの術中にはまりかけた日本は、しかし後半に入ると戦術を修正。縦パスによる中央攻撃をあきらめ、ロングパスを使ったサイドチェンジや吉田からサイドに展開するロングフィードによって、サイドから相手守備陣を揺さぶる作戦に切り替えた。

 攻撃の起点がサイドに移ったことにより、強固だったトルクメニスタンの守備陣形も横に広がり、少しずつ中央にスペースが生まれ始める。

 同時に、日本は後半49分に左から冨安が、同じく50分と51分にも左から長友が、続けて52分には堂安が右から中央にボールを供給し、立て続けにサイド攻撃でチャンスを構築。明らかに前半とは異なる方法でトルクメニスタンを攻略し始めた。

 そして56分。左からドリブル突破を図った原口がカットインして、中央の大迫へクロスをつなぐと、大迫が反転してテクニカルなゴールを決めて同点。さらにその4分後には吉田の左サイドへのロングフィードから原口が頭で内に落とし、インナーラップした長友が相手と入れ替わって中央にクロスを送ると、詰めた大迫が無人のゴールにプッシュして逆転に成功する。まさに怒涛の連続サイド攻撃だった。

 このあたりから、前半から飛ばしていたトルクメニスタンの動きが止まり、日本の揺さぶりについていくのが精一杯という時間帯が続いた。疲れを隠せないトルクメニスタンは、59分に1トップのオラジャヘドフをベンチに下げた後、69分にも後半から2列目右サイドにポジションを移していたアマノフがアウト。なんとかカウンターのエネルギーを取り戻そうとしたが、形勢を変えるには至らなかった。

 そしてすっかり日本ペースとなった後半71分、森保ジャパンの真骨頂とも言えるゴールが生まれる。GK権田から始まったビルドアップで21本ものパスを細かくつないでポゼッションした後のプレーだ。

 柴崎が入れた堂安への縦パスは4番サパロフにカットされるも、こぼれ球を拾った大迫がダイレクトで南野に渡すと、南野もワンタッチでエリア内に入った堂安にパス。受けた堂安が反転しながら放った左足シュートは、2番ババジャノフに当たってゴールネットを揺らす。

 選手間の距離が近かったことにより一度失ったボールを即時回収し、大迫、南野、堂安によるダイレクトプレーで中央を攻略したこのゴールこそ、森保監督が求めているものと言えるだろう。

 ただし、このゴールが生まれた背景には、その前に横幅を広く使ったサイド攻撃があったことを見落としてはならない。後半に日本が使ったクロスは、大迫のゴールシーンも含めて計13本。ちなみにその内訳は、長友4本、原口4本、冨安3本、堂安2本だった。前半が計5本だったことを考えると、ハーフタイムを挟んで日本の攻め方が修正されたことが分かる。

 同時に、ここで押えておきたいのは、堂安の2本以外はいずれも左サイドからのクロスだったこと。結局、クロスを得意とする酒井は0本に終わり、攻撃が右サイドに偏っていた過去5試合の試合とは異なる傾向が見てとれた。これが意図的だったのか、酒井のコンディションの問題だったのかは分からないが、今後の試合で何かしらの答えが見えてくるだろう。

 さらにもうひとつ気になった点としては、11月の2つの親善試合同様、この試合でも可変式の3-4-2-1を封印したことだ。果たして、アジアカップでは4-2-3-1のみで戦い抜くつもりなのか。それとも、決勝トーナメント以降の勝負どころで使おうと考えているのか。これも、注意深く見ておく必要がある。

 いずれにしても、攻撃が修正されたことで3-1とリードを広げた日本だったが、守備面とその後のゲーム運びには多くの課題を残すこととなった。

交代枠を2つ残した森保監督の采配

 ほぼ反撃能力を失いかけていたトルクメニスタンに息を吹き返すきっかけを与えたのは、78分に自陣左サイドでのスローインの後、途中出場の北川航也(清水エスパルス)が相手2人に挟まれてボールロストしたところから、最終的に相手にPKのチャンスを与えたシーンだった。

 結果的にこのPKで3-2と詰め寄られたわけだが、ボールを失った北川はもちろん、この場面では油断して17番アンナドゥルディエフとの距離を空けすぎていた槙野の対応にも問題があった。前半から散見されていた吉田と槙野の距離感、連携の修正は急務だ。次のオマーン戦でもこのコンビが出場するとしたら、ここも注目ポイントとなる。

 しかしそれ以上に問題視されるべきは、3-1とした後の戦い方だろう。

 相手が戦意を失いつつあったその時間帯、日本は攻撃の手を緩めてゲームをコントロールする必要があった。一本調子で真面目に攻め続けた結果、相手に反撃の隙を与えて1点差に詰め寄られ、さらに反撃のチャンスを与え続けてしまったからだ。

 アディショナルタイムにトルクメニスタンの猛攻を受け、あわや同点に追いつかれてしまいそうな展開になってしまったことは、自業自得と言わざるを得ない。

 それこそが、楽に勝てる試合を自ら難しいものにしてしまった最大の原因であり、もっと言えば、それはベンチで指揮を執る森保監督の責任が重い。

 まず、この試合では北川以外に交代選手を使わなかったことがひとつ。しかも3-2となった後も戦術的選手交代は行なわず、アディショナルタイムの猛攻にさらされた場面でも時間稼ぎの選手交代に動くこともなかった。

 3-1とした後に無闇に攻撃せず、横パスやバックパスで相手をいなすように指示を送ることもなく、戦術的選手交代策で試合を落ち着かせることもなく、ただただ戦況を見つめているだけでは、ロシアW杯でのベルギー戦の西野朗前監督と何ら変わらない。

 しっかり幅をとってボールを回し、相手の戦意を低下させることができれば、少なくとも89分に堂安と大迫が相手の悪質なファールを受けるような場面は起こらなかったはず。試合をコントロールすることは、勝利を確実にするだけでなく、無用なラフプレーから選手を守るというメリットもあるのだ。

 終盤に森保監督が動かなかったことから察すれば、おそらく決勝戦までを計算して、グループステージ3試合のスタメンはローテーションさせる準備をしていると思われる。

 しかし、このような試合展開で交代枠を2枚残したまま試合を終えた時点で、監督としての資質も疑われてしまう。仮に同点に追いつかれて勝ち点2を失っていたとしたら、監督采配がもっと大きな問題点としてクローズアップされたに違いない。

 いろいろな問題が露呈した森保ジャパンの初戦。そのなかでも、ピッチ上で選手が繰り広げるパフォーマンス以上に、このアジアカップでは森保監督の采配に注目する必要がありそうだ。

(集英社 Web Sportiva 1月12日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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