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森保ジャパンが前半に苦戦した理由とそこで露呈した3つの現象【コスタリカ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

苦戦した時間帯で見えた3つの現象

 3-0で勝利したこともあってか、森保ジャパンの初陣となったコスタリカ戦に対する世間の評価はすこぶる高い。とりわけ試合を観た者にとっては、苦戦を強いられた前半よりも、ロシアW杯に出場していないフレッシュな選手たちが躍動した後半のイメージが強く残ってしまうため、うっかりすると過大評価につながってしまう可能性がある。

 そこで、客観的な視点であらためて試合をレビューし、ディティールから見えてきたものから、森保ジャパンのサッカーを分析、評価したい。そうすることで、コスタリカ戦で見せた日本の狙いと、それをどこまで実行できたのかが明確になるからだ。

 まず、この試合の日本をひと言で総括すれば、前半と後半では別の顔を見せたということが挙げられるだろう。

 ただし、前後半の内容の違いは、選手交代枠が通常より多く、それぞれの目的意識が異なる親善試合の特性でもあるため、主に外的要因によるところが大きいという大前提を頭に入れておく必要がある。

 たとえば、今回で言えば、日本は4日前に予定されていた札幌でのチリ戦が地震の影響でキャンセルされたこと、それによって練習時間と内容などスケジュールの修正を余儀なくされたという背景があった。また、コスタリカ戦が森保監督にとっての大事な初陣だったということも試合に大きく影響を与えた。

 逆に、コスタリカは4日前にアウェーで韓国戦を戦っていた。試合後の会見でロナルド・ゴンサレス監督も語っていたが、この試合のコスタリカは、移動を含めて日本よりもコンディションでハンデを負っていたこともおさえておくべきだろう。そして、今回の試合の目的のひとつとして、今後はコスタリカ伝統の3バック(5バック)だけでなく、4バックも併用できるようにトライをしている最中であったこともポイントとなった。

 これらの背景を踏まえ、両監督がこの試合で採用する布陣を決定したことが想像できる。準備不足の日本は、森保監督のトレードマークである3-4-2-1ではなく、現代サッカーの基本ベースとなっているオーソドックスな4-4-2。一方のコスタリカは、韓国戦で4バックをテストし、日本戦ではコスタリカの選手が慣れ親しむ3-4-1-2を採用した。

 そんななかで迎えたこの試合は、立ち上がりこそ日本ペースで展開したが、8分の南野拓実(ザルツブルク)のシュートシーンの後から、コスタリカの前線からの守備が機能し始めた。そこには、2トップが日本のセンターバック2枚にプレッシャーをかけ、トップ下の22番(ランドール・リール)とボランチの20番(ダビド・グズマン)が青山敏弘(サンフレッチェ広島)と遠藤航(シント・トロイデン)に厳しく寄せて、日本のビルドアップの起点を潰してしまおうという狙いが垣間見えた。

 そこからしばらくは日本が苦戦する時間帯が続いたが、その中で浮き彫りになった現象は主に3つあった。

 ひとつは、ボランチの青山と遠藤が得意とする縦パスが影を潜めたこと。それでも2人は何度か縦パスを狙ったが、たとえば14分の青山から南野へのくさびはカットされ、26分の遠藤の小林悠(川崎フロンターレ)を狙った縦パスはオフサイドに、また27分の青山の縦パスが相手に渡ってしまうなど、2人が起点となることはほとんどできない状態に陥った。

 2つ目は、ボランチが機能しないために、DFラインからのロングキックによってコスタリカのプレスを回避するシーンが増加したこと。そこにはDFライン4人の特徴も現れていて、左SBの佐々木翔(サンフレッチェ広島)と右CBの三浦弦太(ガンバ大阪)が安全な場所にパスすることでプレッシャーを逃れるため、主に左CB槙野智章(浦和レッズ)と右SBの室屋成(FC東京)がクリアに近いロングフィードを頻繁に蹴っている。ちなみに、GK東口順昭(ガンバ大阪)のロングキックも頻発していた。

 そして3つ目の現象が、ロングフィードが増えたことによって、両SBが攻め上がれない状態が続いたことだった。本来であれば、両サイドに2人を配置する布陣の日本は、1人しかいないコスタリカよりもサイドで優位な立場にあるはずなのだが、中盤を省略するために両SBが上がるタイミングが失われることになった。

 前半、日本の両SBが敵陣深い位置まで攻め上がってクロスを試みたのは、日本ペースだった立ち上がり7分の室屋のクロスが相手DFにブロックされてコーナーキックになったシーンと、同じく14分に室屋のクロスが相手GKにキャッチされたシーンのみ。佐々木に至っては、20分に中島翔哉(ポルティモネンセ)のスルーパスで好機を得たものの、相手が寄せてきたことですぐに中島に長いバックパスを戻してチャンスを無にしてしまった。

 また、日本の両サイドMFの中島と堂安律(フローニンゲン)がサイドに張って縦突破を図るタイプではないため、実質的に布陣は4-2-2-2に近い時間が多くなり、その結果、相手の両ウイングバックの位置取りも高くなった。これも、コスタリカの前線からのプレスがハマりやすくなった要因のひとつとなった。これでは、4-4-2を採用した狙いも台無しである。

 ただ、日本が救われたのは中島のドリブルだった。中盤を省略するなか、中島にボールを預けることができれば、数十メートルほどボールを運んで相手を剥がしてくれるため、相手の守備のオーガナイズを崩すことができる。前半に作った日本の多くのチャンスが中島のドリブル、あるいは堂安のキープ力によって生まれたのは単なる偶然ではなく、そこしか頼るところがない状態が続いたからだと見ることもできる。

 そんななか、前半に日本が作った2つのビッグチャンスは、縦にボールを蹴るスタイルではなく、パスをしっかりつないで相手を揺さぶってからシュートを狙ったシーンだった。

 ひとつは23分。青山が小林へ入れたくさびが収まらず、そのルーズボールを遠藤が拾ってからの展開だ。まず遠藤が室屋にボールを預け、右に流れた小林にパス。受けた小林が室屋に戻し、堂安を経由して再び小林がボールを受けると、中央でフリーの中島にパス。中島のシュートはバーを越えたが、それは日本がこの試合で初めて6本のパスをつないだシーンだった。

 もうひとつが38分のシーン。この場面は右サイドから青山が入れたクロスを相手DFが頭でクリアした後から始まった。セカンドボールを拾ったのは佐々木。そこから、中島、佐々木、遠藤、槙野、三浦とボールを回して最終ラインからのビルドアップが始まると、その後は青山、佐々木、遠藤とつなぎ、遠藤が南野に縦パス。南野が相手2人を引きつけて見事に反転して前を向くと、内に入ってきた堂安に預け、遠藤に戻す。

 このパス回しによって、前後に動かされたコスタリカ守備網中央に隙が生まれ、遠藤が小林に縦パスを入れると、小林が胸で落として、南野がダイレクトでシュート。惜しくもGKの好セーブに阻まれたが、13本ものパスをつなげた遅攻から、ビッグチャンスを作ることができていた。

 結局、前半はコスタリカのオウンゴールによる1点で終了したが、内容的にはほぼ互角だったと見ていいだろう。

 まずコスタリカは、狙いどおり前からの守備を遂行して日本を苦しめ、13分にはゴールチャンスも作った。逆に日本は縦に蹴ることで何とかそれを回避し、パスで相手を揺さぶってから2度のチャンスを作った。ボール支配率は日本が48%で、コスタリカが52%(最終的には49%対51%)。シュート本数は、日本が5本、コスタリカが4本(最終的には14本対6本)。

後半になって躍動し始めたアタック陣

 1-0で迎えた後半は、開始からコスタリカが3人を入れ替えたので、典型的な親善試合の様相を呈した。従って、森保ジャパンの評価をするうえではほとんど参考外となってしまったことは否めない。

 コスタリカとしては、勝敗よりも今後につなげるテストを目的としていたためであり、逆にホームの日本は、「森保監督の初陣」を勝利で飾りたいという目的があったため、選手交代は68分まで行なっていない。両チームの試合に臨む目的が、後半の試合内容と最終スコアに大きく影響したと受け止められる理由である。

 しかも、後半のコスタリカは67分までに6人の交代枠を使い切り、2-0とされた直後の6人目の選手交代の後は布陣を4-4-2に変更。選手が大幅に代わり、さらにテストを兼ねた不慣れな4バックにしたことで、日本にとっては勝利を目指しやすい舞台が整ったというわけだ。

 コスタリカの守備網が崩れた状態が続いたことで、日本の攻撃は前半とは比較にならないほど機能した。それを象徴していたのが、両SBの位置取りが高くなったことであり、それによってパスコースが増えて中盤を省略する攻撃が激減したことだった。

 典型的だったのは、60分の堂安のシュートシーンだ。惜しくもGKの身体に当たり、DFにクリアされたその決定的チャンスは、GK東口のスローインから始まり、それを受けた佐々木から7本のパスをつないだ後に迎えたシーンだった。

 そして、66分に遠藤がルーズボールを拾ってから始まった南野のゴールも、パスアンドゴーを重ねてフィニッシュしたものであり、同じように中盤を作ってから手にしたチャンスは前半よりも圧倒的に増加している。

 また、佐々木と室屋の位置が高くなったことで、両サイドの攻防においても日本は優位に立ち、佐々木と中島、室屋と堂安のコンビネーションも大きく改善した。73分に室屋が相手ボックス内深いエリアまで走り込んでクロスを試みたシーンは、後半における日本のサイドでの優位性を証明するものだったと言えるだろう。

 とはいえ、これらは日本が自ら何かを修正して起こった変化というよりも、あくまでも相手の問題だと考えたほうが妥当だ。終了間際に伊東純也(柏レイソル)が決めた代表初ゴールも含め、そういった試合状況を加味したうえで、客観的に評価する必要がある。

 そういう意味では、この試合で高い評価を得た遠藤、堂安、南野についても、前半のパフォーマンスを基準にした方が論理的だ。この試合のMVP的活躍を見せた中島も、ベストメンバーの中に混じって欧州や南米のトップレベルのチームと対戦したわけではないので、太鼓判を押すわけにはいかない。

 それは森保采配についても同じだ。今回は準備時間が短かったので細部までは詰められなかったとは思うが、もし前半のような「中盤を省いて縦に蹴るサッカー」を目指していないのであれば、あの段階で選手に指示を出して何らかの修正を施す必要はあったはず。

 選手のアドリブ任せでチームづくりを行なうなら、「選手が持っている能力以上のものを引き出すこと」を求められる監督の存在価値はない。会見で何度か口にした「良い経験をさせていただいている」という意識だけで、日本のトップオブトップである代表監督を務めてもらっては困るのだ。

 もろ手を挙げて喜ぶのは時期尚早。10月の2試合で森保監督がどの布陣を採用し、コスタリカ戦で活躍した選手が同じようなパフォーマンスを見せられるかどうかに注視する必要がある。とりわけ10月16日に予定されているウルグアイ戦が、森保ジャパンの本当の試金石となりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 9月14日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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