Yahoo!ニュース

優勝候補ドイツに暗雲。欧州勢の前回大会王者の前に立ちはだかる悪いジンクスとは?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

ジャイアントキリングを起こしたメキシコのカウンター戦術

 モスクワのルズニキ・スタジアムで行われたドイツ対メキシコの一戦を終え、真っ先に想起したのは、2002年日韓ワールドカップの開幕戦、フランス対セネガルだった。

 あの試合、ディフェンディングチャンピオンとして、またユーロ2000(2000年ヨーロッパ選手権)の優勝チームとして優勝候補筆頭とも見られていたフランスは、グループ最弱国と目されていた初出場のセネガルに対してまさかの敗戦を喫し、世界中を驚かせた。ワールドカップの歴史に刻まれる数少ないジャイアントキリングのひとつである。

 そして今回は、ドイツがそれと同じ轍を踏むことになった。

 メキシコのイルビング・ロサーノが先制ゴールを決めたのは、前半35分のこと。後半を含めると55分もの時間が残されていたため、いずれドイツが同点に追いつき、最終的には逆転勝利を収めるものと思われていた。ところがその時は最後まで訪れず、試合は0-1のまま終了した。

 16年前のフランス対セネガル戦も、同じような試合展開だった。

 立ち上がりからフランスが圧倒する中、カウンター狙いのセネガルがパパ・ブバ・ディオプのゴールで前半30分に先制。まだ十分に時間が残されていたため、それまで何度も好機を作っていたフランスが同点に追いつくのは時間の問題かと思われたが、結局、決定機をことごとく決められないフランスが試合終了後に天を仰ぐことになった。

 ジャイアントキリングが起こる時は、そのほとんどのケースで弱者が仕掛けた罠に強者がはまり、カウンターによって勝敗が決まる。圧倒的にゲームを支配する強者が作ってしまう隙、つまりディフェンスラインの背後のスペースを狙われるパターンだ。

 フランスを破った当時のセネガルは、アリュー・シセ(現セネガル代表監督)をアンカーポジションに置いた4-1-4-1システムでフランスに挑み、それを成し遂げている。当時はほとんど見かけることのなかったそのシステムは、ボールを奪った後に両翼のスピードを生かしてカウンターを仕掛けるには、実に理にかなった“並び”だった。

 今回ドイツに対してジャイアントキリングをやってのけたメキシコのファン・カルロス・オソリオ監督も、同じような戦略でドイツを攻略している。狙いどころは、両サイドバック、特に右サイドバックのヨシュア・キミッヒの背後のスペースにあった。

 圧倒的なポゼッションによってメキシコ陣内でゲームを進めるドイツに対し、4-2-3-1を敷くメキシコは、ボールを奪ったら素早く1トップのハビエル・エルナンデスに当て、その間にトップ下のカルロス・ベラ、あるいは両ウイングのイルビング・ロサーノ、ミゲル・ラユンのうち少なくとも2人がカウンターに参加。そのパターンで、前半から何度もチャンスを作っていた。

 見事だったのは、後半に見せたオソリオ監督のベンチワークだ。「ベラに任せた仕事は消耗するので、あの時間帯での交代はプラン通り」(オソリオ監督)と、後半58分にトップ下のベラを下げてエドソン・アルバレスをボランチに起用。それまでボランチの一角に入っていたエクトル・エレーラをトップ下に上げる。

 さらに66分には、疲れの見えたロサーノに代えてラウール・ヒメネスを投入。そして、ドイツの猛攻が続く後半74分には、ボランチのアンドレス・グアルダードを下げてラファエル・マルケスを投入し、システムを5-4-1に変更。守備強化の“総仕上げ”をして、最後までドイツの猛攻を耐え凌ぐことに成功した。

 ジャイアントキリングが起きた理由は主にメキシコの策略にあったわけだが、しかし気になったのは、優勝候補ドイツの低調ぶりだった。

 確かにシュート数25本(枠内9本、ポスト2本)、ポゼッション60%など、データ上でもメキシコを圧倒していたことは間違いないのだが、攻から守への切り替えのスピード、攻撃のバリエーション、メスト・エジルと周囲のコンビネーションなど、見過ごせない課題が山積していたのも事実だった。

 ヨアヒム・レーヴ監督は、試合後の会見で「パニックに陥る理由はない。我々には今日の結果を修正するチャンスがまだ残されている」と語り、グループリーグ突破に自信をのぞかせていたが、果たして挽回はできるのだろうか?

 2010年ワールドカップで初優勝を果たしたスペインは、初戦を落としながら2戦目と3戦目で勝利してグループリーグを首位通過し、頂点に立った。

 その一方で、ドイツにとって嫌なジンクスもある。近年のワールドカップで優勝したヨーロッパ勢の国は、次の大会でグループリーグ敗退の憂き目に遭っているというデータである。

 始まりは、冒頭でも触れた1998年大会の優勝チームとして2002年大会でグループリーグ敗退となったフランスだ。その歴史は2006年大会で優勝したイタリアが引き継ぎ、2010年大会のグループリーグで敗退。さらにその2010年大会で優勝を果たしたスペインも、2014年前回大会ではグループリーグで涙を呑んでいるのだ。

 この法則に従えば、今回の対象者はドイツになる。開幕前は、「さすがにドイツに限っては、そんなことはないだろう」と見ていたが、しかし実際にドイツは大事な初戦を落としてしまった。

 ヨーロッパ勢のディフェンディングチャンピオンに付きまとう嫌なジンクスを、今回のドイツは断ち切ることが出来るのか? 6月23日のスウェーデン戦が、その分かれ道のひとつとなるだろう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事