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見過ごせぬハリルホジッチの「無気力采配」 もはや彼にW杯を任せるわけにはいかない

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

自らさじを投げる指揮官にW杯を任せるわけにはいかない

「今夜の韓国は非常に高いレベルを見せ、パワー、瞬発力、テクニック、ゲームコントロールとすべての面で日本を大きく上回っていたので相手を称えるしかない」

 12月16日に行なわれた「東アジアE-1サッカー選手権」の韓国戦で1-4の完敗を喫した日本代表のハリルホジッチ監督は試合後の記者会見で開口一番、こう振り返った。

 その表情からは全く覇気が感じられず、「素晴らしい内容で、素晴らしい勝利だった」、「A代表に入る候補が何人も出てきた」と満足げに語っていた4日前の中国戦(2-1で日本が勝利)の時とは別人のような変わりようだった。

 もっとも、その中国戦にしても実際はとても褒められる内容ではなかった。北朝鮮戦同様に守備のオーガナイズがなく、攻撃に関しても相変わらずボールを奪った後に前に蹴り込み、それを相手に跳ね返されるシーンを連発。攻守両面に渡って連携不足が露呈し、特に後半は中国に2、3点奪われてもおかしくない展開だった。

 本来なら「最終的に勝つことはできたが、課題が多く残った試合だった」と少しは反省の色を見せてもよさそうなものだが、ハリルホジッチはそうではなかった。“勝って兜の緒を締める”どころか、この2日間でいかにチーム戦術を高めることができたかという自分の手腕を称える始末。その姿を見るにつけ、監督としての能力に疑いの目を向けたくなるばかりだった。

 その結果が、韓国戦の完敗である。「(韓国の)9番のヘディングの強さについて、映像を交えながら説明した。17番についてもクロスを上げさせない、左SBのクロスも阻止するように言った」とはハリルホジッチのコメントだが、ピッチ上で監督の指示が実行されることはほとんどなかった。指揮官とすれば、自分は指示を出したのに選手が実行してくれなかった、とでも言いたかったのだろう。

 では、中国戦で高めることができたと語っていた戦術は一体どこへ消えたのだろうか? そもそも戦術はまるで高められていなかったという事実が、この韓国戦で改めて証明されただけなのではないだろうか?

 この韓国戦を振り返る時、絶対に見落としてはいけないことがある。それは両監督が見せた“采配力”だ。韓国のシン・テヨン監督は、3バックを基本にしつつも時折4バックを織り交ぜながらチーム作りを進めてきたという。実際、今大会でも日本戦の前の2試合では3バックを使って戦っていた。

 しかし、この日は日本の戦い方を分析した上で、4-4-2を採用して両サイドふたり(SBとサイドMF)が厚みのあるサイド攻撃を仕掛け、高身長の9番(キム・シヌク)を狙ったクロスを何度も入れてきた。その狙いは効果てき面で、日本の両ウイングの伊東純也と土居聖真は下がっての守備を強いられ、1トップの小林悠は完全に孤立。日本のDFラインも苦し紛れのクリアで対応し、韓国がセカンドボールを拾うという展開が続いた。

 さらに、1-4とされた日本が伊東に代えて川又堅碁を前線に送り込むと、すかさずMFを削ってDFチャン・スンヒョン(4番)を投入。本来の3-5-2にシステム変更をして、日本の2トップに対応した。シン・テヨン監督が「しっかり準備していた戦術が、今日は非常によく通用した」と振り返った通り、采配はほぼパーフェクトだった。

 それとは対照的に、日本ベンチは何もしなかった。いや、何もできなかったと言っていいだろう。試合開始直後のPKで先制しながら、その後は終始、韓国ペースだったにも関わらず、最初に切ったカードは後半66分、韓国に完全に抑え込まれていた井手口陽介を下げて初キャップの三竿健斗をテスト起用するというものだった。

 前半から劣勢に立たされながら、ハーフタイムにも動かなかったことを考えると、もはや“無気力采配”と言わざるを得ない。その後に見せた川又(70分)と阿部浩之(81分)の投入にしても、試合の流れを変えようとした選手交代ではなかった。

 果たして、この試合の日本と韓国の選手の間に、これほど一方的な試合内容になるような“実力差”は本当にあったのだろうか?

 今大会の韓国のメンバーは、何人かW杯予選も出場していた選手がいたとはいえ、基本的には国内組にJリーガー3人と中国スーパーリーガーふたりを加えたBチームに近いメンバーだ。対する日本も「B代表なのかC代表なのかはわからないが、それでも現時点で招集できるベストメンバーだった」(ハリルホジッチ)。つまり、両チームは似たような状況で招集した急造チームだった。

 にも関わらず、これほどの大差がついてしまった最大の原因は、両監督が見せた采配の差だったと見るのが妥当だ。少なくともこの試合について言えば、監督の差がそのまま内容と結果に表れた典型的な試合だったと見るべきだろう。

 今年7月にウリ・シュティーリケ前代表監督からバトンを受けた韓国の指揮官シン・テヨンは、W杯予選突破後も国内では厳しい批判にさらされている。キックオフ前に選手全員がベンチ前で円陣を組んで士気を高めた場面からもわかるように、この日本戦は絶対に勝たなければいけない試合だったのである。

 一方、日本の指揮官はどうなのか? W杯予選を突破してからの7試合はニュージーランド戦、ハイチ戦、ブラジル戦、ベルギー戦、そして今大会の3試合と、そのたびにがっかりさせられる試合内容を続けながら、いまだに“ぬるま湯”に浸かった状態にある。しかし、この7試合で最も際立っているのは「選手のテスト」を言い訳にして、何もできない指揮官の無策ぶりなのではないだろうか。

「フルメンバーのA代表でも、この韓国に勝てたかどうかわからない」

 韓国に圧倒された試合を終えて、こともあろうにハリルホジッチはそう言った。W杯で戦う相手はアジアのBチームではないことは明白であるにも関わらず……。

 もはや、これ以上は望めないし、自らさじを投げたかのような発言をする指揮官に、大事なW杯を任せるわけにはいかない。

 そのことがはっきりしたからには、次に注目すべきは日本サッカー協会の動向だ。もし自らの保身のためにこの一大事を見過ごして本番に臨もうというのなら、W杯とその後にそれなりのしっぺ返しがくることを覚悟しておいたほうがいいだろう。

(集英社 週プレNEWS 12月19日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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