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E-1は「国内組の最終テスト」ではなく「ハリルホジッチの能力テスト」

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:アフロスポーツ)

実は今大会こそが監督の能力を見極める絶好の機会

 東アジアサッカー連盟に加盟する10協会が参加する国際大会「東アジアE-1サッカー選手権」。日本、韓国、中国、北朝鮮の4ヵ国による、その決勝大会が12月9日に幕を開けた(女子は8日に開幕)。

 日本の初戦の相手は北朝鮮。ハリルホジッチ率いる日本代表は後半アディショナルタイムに井手口陽介が決勝ゴールを決めて、辛くも1-0で白星スタートを切ったものの、格下の北朝鮮に対してかなり乏しい内容の試合を演じてしまった。スタジアムやTVで試合を観戦したファンも日本のプレーぶりに落胆してしまったのではないだろうか。

 今大会の日本のメンバーは国内でプレーする選手だけで編成された急造チーム。この試合のスタメンもGK中村航輔(柏レイソル)、DFが室屋成(FC東京)、谷口彰悟(川崎フロンターレ)、昌子源(鹿島アントラーズ)、車屋紳太郎(川崎フロンターレ)、ダブルボランチは今野泰幸、井手口(ともにガンバ大阪)、2列目は小林悠(川崎フロンターレ)、高萩洋次郎(FC東京)、倉田秋(ガンバ大阪)、そして1トップに金崎夢生(鹿島アントラーズ)と、代表キャップ数の少ない選手が名を連ねた(システムは4-2-3-1)。

 個々のクオリティにおいて、いつもの日本代表と比べてある程度はレベルダウンしてしまうのは仕方ない部分もあるが、一方で監督のハリルホジッチはかねてからこの大会を来年ロシアで開催されるワールドカップに向けた“国内組メンバーの最終選考会”と位置づけていた。

 実際、試合後の会見でも「特に若いGK(中村)がいろいろな場面で解決策を見つける姿を見せてくれた。伊東(純也)もボールを持ったら仕掛けて相手を抜くことができていた」と指揮官がふたりの選手名を挙げて評価すると、各メディアもその言葉を第一報として報じている。

 指揮官が言う通り、確かにこの試合が代表デビュー戦となったGK中村のプレーは光っていた。持ち前のアジリティの高さをいかんなく発揮し、好セーブを連発。何よりもこの試合の中村にはGK特有の雰囲気が漂っていて、近い将来の日本代表正GKになりうる選手であることを証明したといえる。

 しかしながら、そもそも北朝鮮を相手にGKの活躍が目立つこと自体が皮肉だった。「わずか1週間のトレーニングで連携を深めるのは難しいので仕方ない」といった声も聞かれるが、1週間ありながらほとんどチーム戦術の落とし込みや連携面で成果を上げられなかったことは大きな問題として捉えるべきだろう。

 今回のメンバーは、急造とはいえ国内リーグのトップレベルの選手を集めた正真正銘のプロ集団だ。ハリルホジッチ監督は、彼らの特長を理解した上で招集したはずである。

 にも関わらず、相変わらず小林をサイドで起用してみたり、金崎を1トップにしてみたり、これまでトップ下で起用していた倉田をわざわざ左サイドにして、FC東京では中盤の底でプレーする高萩をトップ下で使ってみたりと、理解に苦しむ采配が目立っていた。

 本大会に向けたメンバー選考という点でいうならば、適材適所の原則に従って選手を適正ポジションでチェックしなければ、そもそもなんのためのテストなのかもわからなくなってしまう。

 試合中の選手交代も冴えなかった。ほとんどチャンスを作れない状況から打開を図るべく、後半11分にトップ下の高萩を下げて右サイドに伊東を投入し、小林をセンターに移して2トップ気味にしてみるも、今度は2トップを好む金崎と1トップに慣れている小林がバラバラに動いてしまい、前線中央は機能不全の状態に。

 そこで金崎に代えて川又堅碁を投入してみたが、ゴール前で仕事をしたいタイプがふたりになってしまったことで、この選手交代も大きな効果を示すことができずに終わっている。井手口の決勝ゴールも監督采配が呼び込んだとはいえないものだった。

 その他にも、最後まで北朝鮮のカウンターに苦しみながら、そこも修正できなかった点も含めると、この試合で監督の采配に残された課題は多い。

「今日のチームはプレースピードが遅く、横パスが多かった。前線の選手もあまり背後を狙わず、引いて足元でもらうシーンが多かった。背後を狙う動きには連動が必要だが、それを持たせるのは簡単ではない」とは、試合後のハリルホジッチ監督のコメントだ。

 さらに、「初めて集まって一緒にプレーするチームなので、あまり厳しい目で見るべきではない。代表が初めての選手もいる。不運な怪我で離脱した選手もいたが、彼らが残っていればより質の高いサッカーが見せられたと思う。ただし、今日の試合よりも良いゲームを見せられたかどうかは確約できない」とも発言。もはやその言葉からは、自分の采配で戦況を変えて勝利を呼び込むという監督としての意欲を感じることはできない。

 こうなると、本番までに残された時間の中で指揮官がする仕事は選手個々の成長を待つだけ、ということになってしまう。今大会に臨むにあたって指揮官が公言していた“国内組のメンバー最終選考会”も、すっかりトーンダウンした印象だ。

 そもそも監督の起用法次第で選手のパフォーマンスは変わるものだ。逆にいえば、采配が悪ければ選手のパフォーマンスは低下するし、チームが機能することもない。そういうサッカーの本質的な部分から目を逸らす指揮官の力量に希望を見出すのは難しいと言わざるを得ない。

 手持ちの駒をやりくりしながら、相手を攻略する。それがW杯本番でやろうとしているハリルホジッチ監督の戦い方だ。だとすれば、経験の浅い選手を多く集めている今回の急造チームを「いかにして勝てるチームにまとめあげられるか」という点が、W杯への試金石となるはずだ。

 そういう意味で、実は今大会こそが「監督の能力を見極める絶好の機会」なのである。ハリルホジッチ監督は「国内組の最終テスト」と位置付けたが、むしろ「監督の能力テスト」として注目したほうが、よっぽど大会の見どころも増える。

 残された2試合、12日の中国戦と16日の韓国戦でサッカーファンはあらためてそこにフォーカスしてみてほしい。

(集英社 週プレNEWS 12月12日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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