Yahoo!ニュース

「マスクは雨降りに傘さすのと同じ」インフルは自衛を、病児保育・院内保育も…コロナと戦う医師に聞く⑥

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきた。筆者も、2020年に子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えることも大事だと思っている。2020年から起きたことと、倉持院長の取り組みを振り返るインタビューを連載で紹介する。

5回目はこちら

院内保育園で働き手を支援

【先生がコロナの前から院内保育とか病児保育をやっていたということで、すごいなって思ったんです。東京で11月に開くクリニックでもそういうシステムにしたいそうですね】

【倉持】元々コロナ前から、病児とか職員の保育室をつくってたんですけど、それも必要性からなんですよね。労働力不足の病院とかクリニックで、女性の力ってすごく大事なんですよ。特に子育て中の女性の力って、すごく大きいんです。経験をある程度積んで子育てしたお母さんたちはいっぱいいるんですけど、そこをサポートする仕組みがない。保育園でさえ、なかなか入れないですし。

病気になったら余計に預けられないけれど、仕事に行かなきゃいけない。院内に保育所を作ればスタッフが安心して働いてくれる。働きたいっていう方も増えるでしょう。それに、病児保育って予約枠が5人分とかあって、5人分埋まっても実際は5割ぐらいしか来ないんです。

【そうなんですね。東京の病児保育は満杯でした】

【倉持】予約して半分、普通にやっていたら赤字で運営できないんです。コロナ禍を通じて、医療部門は人手が足りない。病児保育に預ける人も少ない。手があいている保育士さんに、病院を手伝ってもらったんです。パートの人は「今日は人手が足りているから来なくていいです」って給料をもらえなくなると、困るわけですよね。

病院の仕事を手伝えば仕事も失わないし、病院も助かるし、労働力不足も解決の一助になる。東京のほうも院内保育室を今、準備しています。結局、必要だからやるっていうことに尽きる。自分がやりたいなと思うことに関しては、スピード感を持ってやります。病児保育もスペースを分けてやればできますので、一般の職員用の保育園とまずは職員用の病児保育から始めようと思っています。

外国人の患者を通訳として雇用

【あと宇都宮で、外国人の患者さんだった方に通訳をお願いしているのがいいと思いました】

【倉持】コロナになって私も気付いたんですけど、例えばコンビニのお弁当とかカフェのケーキとかの工場で、外国の方たちがたくさん働いている。宇都宮には、工場がいっぱいあるんです。クラスターに応じて、中国の人だったり、南米の人だったり。外国の方の労働で支えられている面があるんです。その中で、仕事がなく、いい人だったら、通訳として働いてもらうことにしました。母国語と日本語と英語とネパール語とみたいな感じで、複数言語をしゃべれる方が結構いるんですね。そういう人たちに通訳してもらえると、外国の患者さんも診ることができる。それをきっかけに働いてもらって、さらにスキルアップしてもらう。

今も毎日、常勤で二人を雇っています。コロナからだから、もう2年ぐらい働いています。コロナ禍だけの雇用だったら、都合のいい使い方じゃないですか。長続きできて、ウィンウィンになる関係を築くことが大事だと思うんですよね、事業とか病院を長くやっていくには。東京のクリニックでも、やりたいなと思うことに関しては何とかスピード感を持ってやっていきたいです。

医療の場を通してのつながり作り

【コミュニティとか拠点になるようなものが作れたらって著書で書かれていましたね。例えばどんなイメージがありますか】

【倉持】物理的に病院に集まるっていうことではなくて、例えば昔であったら、高齢者の集まりだったりコミュニティセンターで体操をしたり、卓球クラブをやったり、あるいは自治会とかで助け合ったり、お葬式の時はお手伝いしたり、そういう文化って元々ありました。コロナ禍と高齢化で、もうできなくなっているんですよね。今は共働きが当たり前になって、子どもも何とか保育園に預けて、両親とのつながりも疎遠になってという方がほとんどだと思うんです。そういう中で、役所は、こっちから行かないと助けてくれない。

【申請主義ですよね】

【倉持】行っても助けてくれるかどうか、分からない。自分たちの病院って、たくさんの人が来てくれる場所なんです。そこで例えば、庭のごみが片付けられないとか、あるいは足がなくてちょっと病院に行けない、買い物にも行けない方がいる。そんなにたくさんはできないですけど、じゃあついでに乗せて買い物して、そのまま家に送って行ってあげるよって関係ができるかもしれない。以前は、地域の人たちが自然にやっていたようなことですね。

そういうものを、余裕がある人たちで埋めていくみたいなイメージです。だから通所リハビリや、保育園もしています。その地域に住んでいる人たちの病気のお子さんを預かって、その時に相談に乗るだけでも意味があると思います。

【つながりができて、個人的に助け合う所から始まるという感じでしょうか】

【倉持】そういう感じで助け合いが当たり前になれば、患者さん側も安心でしょう。例えば倒れた時は言って、迎えに行くよとか、高齢の一人暮らしの人でも多少、安心ですよね。栃木はそういう関係が作りやすいかもしれないですよね。地域に密着していますから。

状況に合わせての対応を

【気になることなんですが、学校も制限がなくなりました。インフルエンザも含め、かかる人が多いです。そうやって前に進んでいくしかないということなんでしょうか】

【倉持】以前は、行動制限ってあったじゃないですか、マスクを着けるっていう制限、着けなさいって命令することも含めて。確かに不自由だし、なんで人から言われるんだっていう意見があるのも承知しているんですが、本来はそういう行動制限をしている期間に、ちゃんと検査をして早期に受診して、早期に治療する体制を作ればよかったんです。

私の病院で、4万人の患者さんをこの4年で診てきて、多分800人ぐらい入院して治療してるんですけど、入院した人に関しては誰も亡くなっていないんです。外来で急死した20代の方がいるんですけど、早く検査して早く治療していれば。ワクチンの効果とか薬の効果も、前向きに検証する体制を、準備すべきだったんですよ。防空壕(ごう)に入りなさいっていったら、敵にやられないように準備するのが普通なんですけど、ただ入っただけなんです。出てきたら忘れちゃったみたいなことを繰り返しているんです。だから、今また問題が出ているわけですよね。

今は投薬が必要ですよね。検査、受診、投薬。そして、その効果をちゃんと検証する。コストが見合っていて、本当に後遺症を減らせているのかっていう検証に取り組むべきなんですね、この問題を解決するためには。それだったら普通どおりに学校生活とかを送りながら恐れずに向き合える。

【今の状況だと、病院に行かない人が多そうです。受診に4000~5000円かかる。特に東京って物価高で、余裕がないのもわかります】

【倉持】結果として、政治がすごく大事になってくるわけです。言葉が悪いですけど、発展途上国みたいになってきてるわけですね。お金がないから、医療機関にかからないっていう。それでいいのかっていうことを問われているんだと思うんですよ。コロナの問題ってすごくいろんな問題を含んでいるので、それをちゃんと発信して問題点を上げて、どうやって解決していくのか考えるべきです。

【医療全体や政治の話になると、いつ改善するのかと途方に暮れてしまいますね】

【倉持】常に社会ってそういう繰り返しな面もあるので、自分たちでまずできること、これから目標に向かって努力していくっていうことでいいかなって思います。はやっている時は、マスクや換気に気を付けたほうがいいです。雨が降っている時に傘を差すのと同じです。インフルエンザのワクチンに関しては、打ったほうがいいと思いますね。こんなに早くはやり出したっていうのは、2009年、新型インフルエンザがはやった時以来ですから。過去2年、ほとんどはやらなかったので、抗体が付いてない。今年、ヘルパンギーナとか、いろんなウイルスに感染したのも、そういう面があって。行動制限やマスク、消毒をかなりしていましたから、かからなかったっていうのはあると思いますね。

倉持院長プロフィール 1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。

コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

なかのかおりの最近の記事