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「俺の家の話」介護中の家族旅行でハワイアンズへ…3.11後・コロナ禍も前に進む楽園【#あれから私は

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
2016年、スパリゾートハワイアンズで なかのかおり撮影

 TBSの金曜ドラマ「俺の家の話」は、介護と家族関係、伝統芸能の継承・職業のこと、生と死や発達障害など、ダイバーシティをわかりやすく、温かいまなざしで描いている。

 長瀬智也さん演じる観山寿一(みやま・じゅいち)は、プロレスラーを引退し、西田敏行さん演じる父親の介護を手伝うことに。父親は、能楽の家元、人間国宝だ。離れていた家族が集まって、戸田恵梨香さん演じるヘルパーも加わり、家族関係を再構築していく。

 長瀬さんと、脚本の宮藤官九郎さんが組む久々のドラマであり、プロレスに介護・伝統芸能という、ぶっ飛んだテーマに注目が集まった。物語を見ていくと、介護についてわかりやすく説明され、子供から中高年まで、私たちが直面する多様な問題も描かれる。

●「アロハ」な場で介護を語る

 中でも、家族で福島に旅行する6話に胸を熱くした視聴者が多く、SNSもにぎわった。

 昔、家族で旅行したハワイには行けない。代わりに、福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズへ。健康チェック、車の手配などなど、すったもんだして出かける用意が整い、車いすに座ったまま乗れるワゴンで出発。父親のわがままに付き合い、「死ぬ前に会いたい」女性たちを訪ねながら、やっとハワイアンズへ到着する。

 「アロハ―」「蒼井優さんはいますか」。車いすの父親が、自然にこう言ってしまう非日常感が、ハワイアンズにはある。

 きょうだいが父親を介助して入浴する際、ちょっとしたことでけんかになり、「最悪。来るんじゃなかった」という父親に、寿一は切れる。「来たいなんて言ってない」「1人で帰れるのかよ」と大騒ぎに。

 親子だからこそ、イラつくし、傷つくことを言う。演じる西田さん、長瀬さんの目が鋭く、真剣勝負だ。きょうだいのお揃いのアロハシャツや、施設のビジュアルで、深刻になりすぎずに見られる。

 そこに現れた戸田さん演じるヘルパーに、「これだけやっているのに、ありがとうの一言もない」とこぼす寿一。ヘルパーは「割り切ったら親子じゃない。親は親、子は子、だから悲しくなる」と家族介護の難しさを語る。

 父親も、「なんで素直にありがとうって言えないんだろう」と同じことを考えていて、「そういうもんだよ、家族って」と、いわきの旅館の女将にさとされる。普段言えない本音を話せるのも、旅の力、ハワイアンズという楽園の力が大きい。

●傷ついた人々を包む「楽園」

 宮藤官九郎さんも、週刊文春3月11日号のコラムで、俺の家の話をしている。宮藤家の家族旅行は、高1の時が最後だったという。亡くなった父はヒット作の「あまちゃん」はおろか「池袋ウエストゲートパーク」も見ていない、一度、芝居を見に来て、下ネタでがははと笑ってくれた。だから父を笑わせたいのかも…そうしんみり書かれていた。

 宮藤さんは宮城出身であり、東北への思いが強いことが伺える。西田敏行さんが福島出身ということもあって、ハワイアンズが舞台になったのかもしれない。

 衰退した炭鉱の町を盛り上げるため、半世紀以上前に生まれた、ハワイアンズ。2011年の東日本大震災後、営業できなくなって、フラガールは全国キャラバンに出た。2013年度は、震災前よりも来場者が増えた。

 いわき市は、福島第一原発からおよそ40キロ。筆者がハワイアンズを訪れ、いわきの街づくりを取材する中で、「辛いことはあるけれど、前進していく」という使命感を感じる。その強さと優しさが、ままならない介護と家族関係を描いた「俺の家の物語」に重なり、コロナ禍で傷つく私たちを温かく包むのだと思う。 

ハワイアンズの公式Twitterより
ハワイアンズの公式Twitterより

●11日から新ショー「前に進め!」

 そしてハワイアンズといえば、ステージでのショーが目玉だ。ドラマでは、阿部サダヲさん演じる「純烈」ならぬ「潤 沢」のショーに、長瀬さんたち兄弟が飛び入りで歌って踊る。プールで遊ぶ孫たちのみずみずしい生命力、リアルのフラガールの笑顔とダンスも映し出される。

 そのあと、派手にデコレーションした車いすで父親が登場し、「マイウェイ」を歌う。役の人生と西田さんのキャリアからくるすごみ、深さと温かさ…。みんなが素の表情で聴き入る。とびっきりの家族写真を撮影して、帰りの車中は笑顔で大合唱。帰宅してからのシーンにも、ハワイアンズのお土産と思われるグッズが映り、にやりとさせられる。

 ハワイアンズは、東北復興支援チャリティーのプロジェクトとして、一般参加を募ってのフラ発表会や、海辺での追悼式典を開いてきた。2019年からは、本格的なタヒチアンダンスのコンペティションを開き、ダンサーたちにチャンスを作っている。

 今年は、コロナの影響でそうしたイベントも延期に。昨春は休業を余儀なくされ、大幅に売り上げが下がった。それでも、オンラインによる親子フラレッスンのほか、「TBSドラマ『俺の家の話』第6話のラストシーンのような写真を撮りませんか?」と呼びかけハワイアンズでの思い出写真を募集するなど、遠隔で参加できるイベントを企画し、絆をつなげようとしている。

 3月11日、ステージでフラガールたちの新しいショー、「絆〜ホロイムア~」が始まる。ホロイムアは、ハワイ語で「前に進め!いつでも前向きに行こう」という意味で、コロナの収束も見えない困難な中、絆を守る決意を込めた。初日はオンラインでも配信される予定。公式Twitterの写真には、「ぜったいに、あきらめない」との言葉が刻まれている。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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