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産後うつは甘え?「孤独・心配…ぎりぎりの精神状態」寄り添う人の必要性

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
産後はホルモンバランスの変化や育児の疲労が重なる(写真:mon printemps fleuri/アフロイメージマート)

新型コロナウイルスの影響で、産前産後に辛い思いをしている人も多い中、「産後うつは甘え」というツイートが炎上した。このたび、妊娠中の夫の無理解や仕事の悩みからうつ状態になり、産後も「飛び降りてしまいたい」と何度も思ったという女性Aさんの体験談を紹介した(11月28日、飛び降りてしまいたい…3年近く「産後うつ」に苦しんだ元正社員女性の告白)。記事はYahoo!ニュースに転載され、共感のコメントがあふれた。読者の体験を通して改めて、産後の大変さを伝え、必要なサポートは何か、考える。

取材した40代のAさんは、産前産後のうつや、度重なる引っ越しで苦心したが、ボランティアや専門職のサポートに恵まれ、前を向いている。子供の発達に心配があっても、相談したり、仲間を作ったり。生理前や季節の変わり目など不調の時は、医療ケアを受け、自分を客観的に見ることで、以前より強くなったようだ。

〇ずっと何かを心配している産前産後

こうしたAさんの物語に、「私もそうだった」という共感コメントが寄せられている。

仕事を辞めて産後、子育てに専念し社会から離れ、孤独になった時はつらかった。女はそれが普通という世の中だったから、家族も無理解。記事の女性のようなお母さんたち、ここに甘えなんてひとつもない。一生懸命な親御さんたちを優しく見守りたい」

「どちらかというと、がさつでおおざっぱで楽天的な私でしたが、産後、授乳期はしばらく、夜な夜な泣いていました。とにかく孤独感と不安と理由のない悲しみで、死んで楽になりたいと。

子どもが成長して、今思えば産後うつかと思いますが、その時にはそれさえ気付かない。赤ちゃんを抱いて散歩していると、今が一番幸せねと声を掛けられて、とんでもないと思っていました。産後うつは決して甘えなんかじゃない。そして、経験した人しか理解は難しいと思います」

妊娠中、産後、ずっと何かを心配している。子の成長具合、仕事のこと、家事のこと、保育園のこと、住まいのこと、お金のこと。やっと子が寝てくれて横になっても、頭はフル回転。そして病んでしまう。育児は大変。こんなに大変だとは、産前は夢にも思わなかった」

〇話を聞いて寄り添う人が必要

Aさんは、家庭訪問のボランティアや支援スタッフとの対話がきっかけで、閉じていた心が動き、世界が広がったことから、「話すこと、寄り添うこと」の大切さを伝えるメッセージも多かった。

「私も10年前、お互い実家も遠く、主人も手伝ってくれずワンマン育児でした。自分のことに必死で、なかなか子供が可愛いと思えず、母親の愛情が足りないのでは、足りないと今後影響があるのでは、と思うと余計深みにハマってしまい悪循環。病院に行くというまともな思考力もなくなり、早期発見早期治療ができなかったせいか、そのまま双極うつ、パニックとなりました。

今は治療を受け、波はあるものの少しずつ光が見えてきています。コメントを読んでいると、自分と同じように産後うつを経験し、どれだけ苦しかったか、辛かったか…ホントに良く分かります。仲間がいるんだと思うとなんだか心強くなります。

話を聞いてくれる人がいるっていうのはとても大きい事です。火種が小さいうちに吐き出してしまった方が後に大事ならないのかな?と思っています」

出産してまもなくは、経験しててもその都度、辛さがあるからね。考えることも通常より多い。眠れないことがあって当然。実母の協力が得られたとしても、微妙なすれ違いがストレスになって、こんなことならワンオペの方がマシと思ってしまったり。いい聞き役の方に恵まれることはいいことだね」

「妊産婦の女性に限らないのでしょうが、人が一番しんどいのは、誰も自分の苦しみに寄り添ってくれない、支えてくれないと思うときです。良いビジター(家庭訪問ボランティア)さんに出会えて本当に良かったですね」

〇助産師・看護師…専門職に助けられ

「辛かったけれど、専門職のサポートに恵まれた」という具体例も寄せられた。

「私は2人目の保健師さんがとてもいい人で、こんなに頼れる人がいるなんて思っていなかった。1人目の時の保健師は、教科書通りのことだけ言って帰っていった…。2人目の産前産後うつで、1ヶ月健診で助産師さんが心配してくれて保健師さんにも連絡し、産後ケアを利用して3ヶ月過ぎる頃には、割と正常になれた」

「私も5年前、産後うつでした。振り返ると、産前から涙もろく、常に不安で仕方ない、という感じでしたが、病院では赤ちゃんのことばかりなので相談できず。産んですぐからホルモンの変化なのか、おかしくなりそうとパニくり、看護師さんに赤ちゃんを預かってもらいました。

退院後も赤ちゃんの泣き声がこわくて触れられなくなり、市の保健師に電話し『私、赤ちゃんがこわい、何かしそうです』と伝えたら、毎日連絡を下さり、話を聞いてもらいました。結局、気力をふりしぼり、メンタルクリニックに行って薬をもらい改善しました。

産後うつは甘えじゃなく、病気です。ちなみに、母や夫には、普通に見えていたそうです。それくらい、わかりにくい病気なんでしょうね」

「私も二人目の時に産後うつになりました。つわりは臨月まで続いて、本当に辛かった。私の場合は、助産師さんが産後うつに気づいてくれて、『お母さんと赤ちゃんをしばらく離して』と家族に言ってくれたので、赤ちゃんも自分も傷つける事はありませんでした。本当に感謝しています。

二人目ということで、上の子のお世話もしながらでイライラしていたのだと思います。2歳差だったので、上の子のイヤイヤ期と赤ちゃんがえりも重なった事も要因だったと思います。

周りに支えてくれる人、相談出来る人がいることが大切、だけどこのコロナの中、孤立しがちかもしれないですね。私も声をかけてあげられる人でありたいです」

〇心療内科に連れて行って・産後ケアの場を

「こういうサポートがあったら」という提案もあった。

「産後うつかもと思って1ヶ月検診で医者に相談したら、僕に言われても、って言われて、助産師に言ったら、話を聞くだけで解決せず、市の保健師さんに言ったら、産後ケアを勧められたがそこに行くのも大変で合わなくて、結局、だいぶ経ってから自分で心療内科に。

自分で正常な判断がつかないのだから、誰か(とくに夫)が心療内科に連れて行ってくれたら良かったのに」

産後うつの知識がない人もまだ少なくない。まず、知識として広め、受診のハードルを下げる必要があると思う。

「昔は、お節介なご近所さんがあれこれ世話を焼いてくれたんだろうけれど、今は そういうことはないんだよね。多分、行政にはいろんな仕組みがあって、でも一般には 周知されていなくて見つけ出すのが大変で。そのあたりが改善されると良いよね」

筆者が取材している、いくつかの子育て支援拠点や広場では、相談を受けるほか、サポーターの紹介、母親が主体となったボランティア活動の提案など、多様な選択肢があるそうだ。子育て支援は、地域によってばらつきがあるので、こうした声を元に、求められる支援が広がってほしい。

「私も三人産みましたが、毎回ひどかった。動物のお母さんも子供を産んだ後には凶暴になるから、そもそも人間も赤ちゃんを産んだ後に穏やかなお母さんでいられないのが、普通じゃないかと思います。妊娠・出産の時は自分は霊長類ヒト化の動物なんだなとつくづく思いました。世の中が変わろうとも妊娠・出産は太古の昔から変わらない自然な事なので、お母さんのメンタルをどうにかこうにかできるもんではないんだと思います。

高齢出産や誰にも頼れない人も多く、夫に育児参加を促してもやっぱり他人事なので、退院後に赤ちゃんや上の子供と一緒にゆっくり本人が落ち着くまで過ごせる施設を国はつくるべきではないでしょうか」

以前、産後ケア施設に入院した女性に取材した。バリキャリで、泊まりや連続勤務に慣れていた彼女も、産後はぼろぼろになったという。産後ケア施設では、赤ちゃんの世話のサポートがあり、食事やマッサージといった母体のケアが用意されている。母親は、心身を休ませながら、少しずつ育児に慣れる。

筆者自身も8年前、日帰りで遠方の産後ケア施設を利用した。当時は、高額で数が少なかったが、現在は、産後ケア入院施設や、自治体による助成が増えてきた。

産後ケア事業には、宿泊・日帰り・訪問がある。みずほ情報総研の2018年の調査報告書によると、全ての市町村対象のアンケート(回収1384件)で、産後ケア事業を「実施している」市町村は26.2%。「今後、実施予定」は34.4%だった。

次回以降、コロナ禍の産後ケアや夫との関係、仕事・授乳・子育て環境などについても、読者の体験をもとに考えたい。

公開されているコメントについては、社会貢献の主旨で、抜粋して紹介させていただきました。ありがとうございます。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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