3歳女児放置死「妊娠相談・母子支援」と「養子縁組・里親制度」の必要性

「放置するぐらいなら預けてほしかった」という声も多い(写真:アフロ)

3歳の長女を自宅に置き去りにし衰弱死させたとして、24歳の母親が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。新型コロナウイルスの影響で保育園や学校が休みになって子どもの居場所がなくなり、虐待や10代の妊娠が増えたとの報道もあり、母子の支援は課題となっている。「放置するなら預けてほしかった」との声も多く、養子縁組や、里親の制度も改めて注目されている。日本女子大の林浩康教授(社会福祉学)のインタビューを紹介する。

〇生みの親が育てられる環境を

どんな母子支援が必要なのでしょうか?

養子縁組や里親の制度の充実も大事ですが、まず「実家に頼れない、経済的に苦しいなど事情のある妊婦さん」を支える仕組みが必要です。本来は、母子の支援から考えなければなりません。妊娠して悩みがあるとき、自治体の窓口で相談できたらいい。でも、妊娠を届けていないケースも多く、情報がない。そうなると母子手帳をもらわないし、健診にも行きません。行政の窓口というのは、心理的にも遠く相談しにくいようです。

産んで育てようとしても、行政の経済的支援としては、生活保護と児童扶養手当の制度があるぐらい。住居政策も弱く、妊娠中から入所できる施設などが、ほとんどありません。家庭で母子を一緒に預かり、地域で包み込むような事業があればいいですね。現状は母子だけで生きていくには厳しい環境のため、子どもを手放し、施設や里親など「社会的な養護」に頼らざるを得ません。

〇特定の大人と家庭で過ごす

社会的な養護は、家庭的なものがすすめられていますね。

欧米では家庭養育の割合が高く、日本でも増やすと掲げていますが、まだ少ない。特定の大人と愛着関係を持ち、安定して過ごすことが子どもの成長にかかせません。生みの親が育てられない場合、提供される家庭養育には、里親と養子縁組があります。

原則、里親は18歳まで家庭で一緒に暮らすことが可能です。「特別養子縁組」は、生みの親との法的な関係はなくなり、戸籍上も養親と親子になる。縁組が可能な子どもの年齢は原則15歳までで、半年間の試験養育期間を経て、家庭裁判所が審判します。「普通養子縁組」は、戸籍上は生みの親と親子関係があります。

〇専任職員がいる児相は少ない

特別養子縁組を希望する場合は、どんなところに行けばいいのですか。

特別養子縁組は、全国に200か所余りある児童相談所(児相)と、都道府県から許可を得た21か所の民間団体が扱っています。児相の働きが、十分でないのが課題です。私たちの厚労省研究班の調査によると、2014年度に養子縁組を前提とした家庭への委託は、児相1か所あたりわずか1.5件。約4割の児相では、ゼロでした。年に500件をこえる特別養子縁組が成立しているうち児相は270件ほどで、多くを民間団体の働きに頼っています。

子どもがいったん養護施設に入ってしまうと、施設や児童相談所は子どもを出すのに慎重になります。児相から生みの親の同意を得るためのアプローチがうまくできないまま、時が経過し、引き取られる機会を失う場合もあります。児相でアプローチがうまくいかない原因として、専任の職員の不足があります。

里親や養子縁組に取り組む専任職員がいる児相は、3割もありません。多くが、増える虐待の対応など、ほかの業務と掛け持ちしています。養子縁組に熱意を持ち、継続して取り組める状況が必要です。

〇民間団体の働きに頼る

その点、民間団体には、長年の経験や人脈があるスタッフがいます。でも、財政支援が不十分なため、縁組を希望する家庭の負担金や寄付で運営しています。認可制から許可制に変更され、徐々に財政支援がなされるようになってきましたが、面接の交通費や子どもの保育料、団体の運営費など全て賄えない状況です。

こうした実費を取ることは法令で認められているものの、縁組家庭の負担金に格差が出ます。民間団体に、安定した財政支援が必要です。児相と民間団体が連携するのもいいと思います。相談は自治体か児相が受け、縁組は民間団体に委託するという方法も考えられます。

民間団体があっせん料を取ることを禁止しようという意見もあります。代わりに、民間団体に一括して年間にいくらという形で助成があれば、活動が透明になりますし、人材が確保できるでしょう。

〇養子縁組ありきの妊娠相談はNG

生みの親への対応やアプローチも大切ですね。気を付けることはありますか。

民間団体の多くは、妊娠相談と養子縁組の両方を扱いますが、養子縁組ありきで妊娠相談を受けるのは疑問を感じます。生みの親は自分で育てるか、社会的な養護にゆだねるか、気持ちは常に揺れ動きます。赤ちゃんを抱いたら愛情を感じる場合もあるでしょう。

養子縁組あっせん法では、すぐに縁組に持っていくのではなく、生みの親の同意については3段階で確認するよう規定されています。まず養子縁組を希望する家庭とマッチング。試験養育期間を設け、最終的に縁組に同意するか確認するというプロセスです。

〇医療現場でも周知を

これからの課題を教えて下さい。

医療の現場でも、もっと特別養子縁組について知ってもらう必要があります。「新生児を託して」と生みの親に頼まれても、「そんなに簡単に民間団体を信頼できない」という産院や小児科もあります。国は、民間団体を対象とした、第三者評価基準を設けました。

養親の質を保つのも大事です。少なくとも事前に3回は面接し、養父母だけでなくすべての家族に会うべきです。生い立ちの真実を告げる際、いつどうやって伝えればいいか悩む養親も少なくありません。法改正により養親の研修が義務化されました。どんな養親候補がいるか、児相や民間団体の間で情報を共有する仕組みも必要です。

林浩康・1961年生まれ。専門は社会福祉学。学生のころ、生みの親と暮らせない子どもたちと触れ合うボランティアに参加したのをきっかけに、子ども・家族支援の研究に進んだ。

(2016年10月17日、ハフポストに掲載した記事を加筆・修正)