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「夜の世界で働くシングルマザーに食材配布」収入ゼロ…当事者たちが支援スタート

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
新型コロナの影響で夜の仕事もなくなり、生活に困る人も(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大で学校は休校、緊急事態宣言が出され、在宅ワークや営業自粛が続いている。接待を伴う飲食店で働く女性たちも職を失い、公的な支援を申し出にくく、切実な状況だという。自身も夜の世界で働く当事者の夫妻が、子ども食堂や専門家の力を借りて「夜の世界で働くシングルマザー向けフードパントリー」を、5月5日に開く。無償の食材提供だけでなく、オンライン相談も受け付けている。

〇緊急事態宣言で一気に仕事なくなる

今回の食材提供を始めた石川祐一さん(37)夫妻に、ビデオ通話で取材した。

なぜ、こうした支援活動をしようと思ったのですか?

祐一さん

「キャバクラで長年働いていて、シングルマザーの苦労も見てきました。もともと、2019年の秋に、夜の世界で働く人のセカンドキャリアや環境づくりの支援をするために、『ハピママメーカープロジェクト』を始めていました。夜の世界で働く人の多くは個人事業主で、緊急事態宣言後、一気に仕事がなくなってしまいました。

生活に困っている知人や元同僚の話を聞き、緊急で食の支援が必要だと思って、交流があった『川口こども食堂』に相談し、協力してもらえることになりました。弁護士や社会福祉士といった専門家、当事者のシングルマザーも含め、スタッフは10人ほどです。

寄付や持ち寄りで集まった食材を、予約制で先着30世帯ほどに無償で提供する予定です。可能な範囲で、配達することもできますので、相談してください。今回の配布会場は埼玉県内ですが、お住まいのエリアは限定していません」

〇キャバクラ勤め「やりがい感じる」

夜のお仕事について、お話いただけますか。

祐一さん

「社会人として初めは、会社に勤めて受験教材の販売をしていました。仕事を通してキャバクラを知り、ウエイターや売り上げ管理をする『ボーイ』として、この世界で働いています。お客さんと接する『キャスト』の相談に乗って寄り添い、複雑な事情がある人も多いので、支える役割にやりがいを持っています」

妻のAさん

「大学生のころから、夜の世界で働いています。当時は家族とうまくいっていなくて頼れず、生活費が足りなかったため、昼間はコンビニで働き、夜は塾の講師をしていたところ、体を壊してしまいました。そこで夜の仕事を始めました。緊急事態宣言の前まで、私もボーイ業をしていました。

お客さんが、他の人には言えないことを話してくれたり、頑張れば売り上げを出せたり、成果が見えてやりがいがありました。コロナで仕事がなくなったのをきっかけに、不動産の営業職に就きたいと思っています。夜の世界で働く人は、物件を借りにくいので、支援したいですし、そのノウハウをハピママの活動に生かしたいです。

昼間に居酒屋で働いていた時期があり、そこで子ども食堂を運営していました。そのため専門家とつながりがあって、今回、協力をお願いしました」

〇補償の申請「柔軟な対応があった」

新型コロナの感染拡大で、現場はどのようになっていますか?

祐一さん

「緊急事態宣言までは、お店を開いていました。宣言後は、営業を縮小して、つぶれた店舗もあります。指名があるキャストや管理職が出勤し、開いている店舗もあります」

Aさん

「『学校の給食がなくなり、生活費が苦しい』『夜だけ仕事しているので、収入がゼロ』『前月分の給料がもらえない』『緊急貸付の対象になるのかわからない』『身分がばれるのがこわくて、書類を出すのに抵抗がある』といった声があります。納税や保険の手続きをしていなくて後ろめたく、『断られるんだよね』と補償の申請をあきらめている人もいます。

確かに、その部分について、批判の声があることは承知しています。私たちが東京都内の窓口に補償の申請をしたところ、柔軟に対応いただきました。昨年分の確定申告は、締め切りが延びていますし、『後日、出してください』と言われて、申請することができました。早めに手続したこともあって、緊急小口資金の貸付で、世帯分20万円はすでにいただいています。

さらに段階を踏んで、他の貸付や家賃補助の申請をしています。窓口では、他の業務をストップして対応しているそうですが、電話がつながりにくく、対面の予約も埋まってしまっているようです。『柔軟に対応したい』と言ってくれる人が多く、親身になってもらえているという印象です」

〇オンライン相談も「声上げていい」

困っている人たちにメッセージをお願いします。

祐一さん

「ハピママの活動を継続して、夜の世界で働く人に『声を上げていいんだよ!』と伝えていきたいです。受けられる支援はあるけれど、気持ちの上で遠慮してしまう人が多いので…。シングルマザーに限らず、シングルファザーや一人暮らしの方も含め、できる限り支援したいです」

Aさん

「社会福祉士さんの協力で、利用できる制度一覧をわかりやすくまとめた冊子を用意しています。食材を受け取れないという場合は、オンラインの相談も受けています。

私たちが、様々な補償を申請した経験から、お伝えできることもありますし、わからないことがあれば、専門家に聞いてアドバイスしたいと思います。お子さんの学習が心配な場合、無料でeラーニングを提供する団体とつながりがありますので、そうした情報も紹介したいです」

申し込みの情報は、ハピママのサイトで。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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