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保育園、感染防止に緊張続く…奮闘する保育士が伝えたいこと

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
休校・自粛になっても休園しない保育園では…(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、3月から学校が休校になっているが、保育園は継続してきた。保育士や園児が感染した例も報道され、現場では緊張が続いているという。「感染予防の対策で長時間労働になり、職員も子育て中だったり高齢だったりで、ぎりぎりの状況です」。関東地方のある保育園の事務長から、こうしたメッセージをいただき、取材した。

〇保育室の消毒に時間がかかる

この保育園は、私立の認可保育園で、0歳から100人ほどの子どもが通う。近くの学校は、入学式・始業式だけ開き、休校延長しているそうだ。

いつごろから、状況が厳しくなりましたか?

もともとインフルエンザの流行などに備えて、遊具やおもちゃの消毒はしており、衛生対策には力を入れていました。3月下旬に外出の自粛を呼びかけられたあたりから、さらに気をつけるようになりました。保育室は、時間をかけて念入りに消毒します。

子どもはマスクをいやがったり、外したりしてしまいますが、職員には必要です。マスクが手に入らず、在庫を使いまわしています。アルコール消毒剤も手に入らなくて、次亜塩素酸ナトリウム液を使って、自助努力をしています。

〇保育士も子どもを預けて残業

保育士をめぐる現状は?

消毒に時間がかかり、残業が増え、保育士が長時間労働になりました。先生たちにも、子どもがいます。自宅においてきて、夫や家族に見てもらっている人もいて、できるだけ早く帰りたいはずです。保育補助のスタッフは70代で、高齢なので心配です。

この状況により、年配のスタッフや子育て中の若い保育士にしわ寄せが行き、人員の確保が厳しくなりました。余剰人員がいないので職員は週に1.5日しか休めません。

保護者の様子はどうですか?

学校が休校になり、外出の自粛が呼びかけられても、登園を自粛する家庭は、ほとんどありませんでした。私たちは、「家庭で見られる保護者は、家庭で見て」という自粛を呼びかけることを、自治体に要望しました。

ところが、保育料をもらっていることもあり、自粛の呼びかけはできないと言われました。職員が足りない日もあり、監査の対象にはなりませんが、そのぶん、子どもたちに目を配り、神経を使いました。

〇感染が身近になれば休むのに…

ある時、看護師をしている保護者の職場で、新型コロナの院内感染があり、その保護者も14日の自宅待機になりました。このことを全保護者に知らせ、「登園は判断してください」と呼びかけたところ、およそ半数の家庭が休みました。

感染が身近になると、休む人が多いということです。その後、「陰性」の結果が出たと知らせたら、2割ぐらいは休みましたが、4月6日の段階で100人のほとんどが登園しています。

どうしたら状況が改善されると思いますか?

保育園は、密閉・密接・密集の「三密」が避けられない場所です。それなのに、通常通りの開園というダブルスタンダード。SNSの書き込みを見ても、国が対策していないことで「やめたい」という保育士は、全国的に少なくありません。

まず、行政が自粛要請を出すべきです。私たちは休園を望むわけではありません。やむを得ない人だけの利用にしていただければ。例えば、0歳なら、3人に対して一人の保育士が付かなければならないので、数人がお休みなら、助かるのです。

〇法人独自で「特殊勤務手当」

次に、公務員には「特殊勤務手当」という、精神的な負担の大きい仕事に出す加算がありますが、これを行政として、保育士に出してほしいです。

私たちの保育園は、法人の積立金で4月から独自にこの手当を出します。保育園の大変な状況が続けば、倒れたり、やめたりという保育士が出てきてしまいます。

〇自粛要請、利用2~4割減でゆとり

8日に緊急事態宣言が出され、対象地域ではないですが、自治体から、保育園の利用自粛の要請が出されたそうですね。

はい。その結果、3歳未満で2割、3歳以上で4割の家庭が自主的に登園を控えてくださっています。

保育室にも余裕ができて、職員も以前より感染防止の対策に時間をとりやすくなりました。市内で感染者が出てすぐに、現場から自粛呼びかけをお願いしても門前払いだったのに、県の要請があればすぐに実行できるのですね…。

〇マスク・消毒液不足ツイート→解消へ

また、マスクやアルコール消毒薬の不足をツイッターでつぶやいたところ、卸の業者さんや、保護者の方から購入できる先を紹介していただいて、不足も解消できそうです。

保育園としては、引き続き感染防止に努めます。自治体や政府には、保育を継続するために増えた経費の補助を、要望していきたいと思います。

取材して改めて現状を考えると、学校は休校になり、居場所やごはん問題、学習の支援といった課題が注目され、市民団体や企業・保護者がそれぞれに工夫してきた。けれど、保育園は原則開所で、保護者や子どもたちは助かるものの、保育士は感染防止のため緊張が続き、疲弊している。SNSでも、「産休・育休中や、求職中の保護者には利用を控えてほしい」等、保育士の切実な投稿を見かけた。

〇利用は必要性・リスクも考えて

そんな厳しい状況の中、保育園に関して、不満を訴える保護者の声も、筆者に届いた。元気いっぱいの乳幼児を家庭で持て余す大変さや、仕事や育児が心配で必死なのはわかる。でも現状を客観的に見て、「保育士も一人の親で、頑張ってくれている」「保育園に行けば、子どもたちも働く人も、感染リスクはある」という視点で、利用するかどうか判断することも求められている。

緊急事態宣言後、対象地域の保育園は休園になり、医療・福祉従事者など、必要な家庭のみの利用になったところもある。ワンオペ家庭や保護者の体調不良といった事情もあるので、職種で区切るのでなく、そこは信頼関係に基づいた話し合いをしていると期待したい。

〇SNSの前向きな活用で光

行政が自粛を呼びかけ、一時的に利用者が減ったことで、記事で紹介した保育園は、張りつめた状態が少し改善したという。さらに、「ツイッターでマスクや消毒液不足を発信→解消へ」という事例は、自粛呼びかけと合わせて参考になる。

SNSで厳しい現状を知ってもらうことも大事だが、こんなふうに前向きに活用されたら、光を運ぶ人たちがつながる場として意味がある。

筆者も保育園には5年間、お世話になり、娘にとっても家庭同様の大事な居場所だった。心身を育ててくれた保育園時代を思い出すと、涙が出るぐらいありがたい。

現在は、保育園にとっても初めて経験する日々だ。今後は、保育士の自助努力に期待するだけでなく、現場が求めているような手当を、検討する必要があると思う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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