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「休校中のごはん問題」支援する人たちの思いと試行錯誤

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
突然の休校に伴い、子どもの居場所やごはんの用意に悩む家庭は多い(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、突然の休校になって2週間。前もって決まっている長期休暇と違い、家庭や関係者の間で混乱が起きた。学童保育は混み合い、児童館は利用できず、子ども食堂も休止。そんな中、各地で、居場所作りや食事の提供が始まっている。感染リスクを考えると、慎重にならざるを得ない面もある。地域の中でつながりを保つために、支援の現場でも様々な思いがあるようだ。

〇食事提供、月1回→平日毎日に

川崎市の「大家族ふるさと食堂」は月1回、市内のレストランを会場に、子どもは無料・大人は500円で夕食を提供してきた。ボランティアスタッフが食事を作っている。地域の企業から、米や食材、ハンバーグ・唐揚げ等のおかずの寄付があり、農家も規格外の野菜を運んでくれる。今回の休校を受け、3月中は平日の月曜~金曜(午後5時~8時)も「食堂」を開くことにした。

会場のレストランを経営し、ふるさと食堂を運営している黒江乃理子さんは、こう語る。

 

「このエリアは共働き家庭が多く、月1回の食堂には60人以上の参加があります。休校が決まった時、お母さんたちの要望を聞いてみました。『学校の預かりや学童保育はあるので、給食の代わりにお弁当は作るけれど、仕事して帰ってきて、夜ご飯もお弁当もとなると、負担になる』ということで、夜ごはんの提供日を増やしました」

休校後、1日に10~20人ほどの親子の利用があるという。黒江さんは地元の飲食店と、衛生面について話し合いをしており、消毒液を増やしたり、調理場に気を配ったり、気をつけながら運営しているそうだ。利用するのは、普段から顔見知りの親子なので、信頼関係もある。

「支援活動は、互いのニーズが合って実現できるもの。休校になった時、ボランティアをやりたいという人が10人ぐらいいたのでできると思いました。コロナの影響による公共イベントの中止で、ボランティア活動の場がなくなってしまった人も多いんです。

WHOがパンデミックを宣言して、世界規模の話になっていますが、身近な地域に絞って見れば、みんな居場所や、話し合える人を求めている。先の見えない生活に、イライラやお金の不安もあるし、それを言える場があっていい。もちろん、安全・安心が大事で、無理はできませんが…」(黒江さん)

〇預かり・お弁当…支援方法探る

休校中、市民による親子のための居場所作りや、食事提供などの支援活動が各地で始まり、試行錯誤している。

ある子ども食堂は、子どもの預かりを兼ねて、昼食付きで格安の利用を呼びかけたものの、思ったよりも利用は少ないという。別の地域では、緊急預かりを申し出た民間の学童保育があるが、その地域では、学校の預かりや公設の学童保育があって、あまり希望者はいない。一方で、学童保育は満員、児童館も学校内の預かりも利用できず、居場所のない子があふれるエリアもある。

福島市の「子どもカフェたまご」は、新型コロナの影響で、子ども食堂と学習支援を休止している。その代わり、市販のお弁当を用意し、初回の11日には、100円で57個を配布した。18日も同様に配布する予定で、100個を超える申し込みがある。子どもを預かっている祖父母や、中高生にも渡す予定という。東日本大震災後の避難生活を経験した母親が、「親が週に1食分でも、安心できれば」「子どもたちと、つながりを持ちたい」との思いで続けている(参考記事→「休校家庭にお弁当配布」3.11経験した福島のママが今、行動する理由)。

東京都江東区の「豊洲こども食堂」は、タワーマンションが立ち並ぶ豊洲エリアで、共働き家庭などの孤立しがちな子どもや、悩みを抱える母親のために始まった。月1回、集会所を会場に、大人300円・子ども100円で食事を提供してきた。食堂の休止と休校が決まり、代表の森生ゆり子さんは情報を集めた。弁当宅配の会社が、児童養護施設や子ども食堂にお弁当を提供することを知って申し込んだ。商店街の組織「豊洲商友会」も協力して11日、集会所でお弁当や飲み物を小学生93人に、無料で手渡した。今後はコロナが収束するまで、子どもやスタッフの安全を考え、食堂や配布会など人が集まる催しは避ける。必要な家庭は、個別に支援したいという。

「豊洲こども食堂」は11日、近隣の子どもたちにお弁当を配布した 筆者撮影
「豊洲こども食堂」は11日、近隣の子どもたちにお弁当を配布した 筆者撮影

取材する中で、食事を受け取った子どもたちの笑顔を見ると、「食」の支援は不安定な社会情勢でも、人とつながるきっかけになり、とげとげした心を和らげるものだと実感した。子ども食堂のような居場所が維持できればいいが、人が集まることのリスクも考える必要があり、現場の苦悩がうかがえる。「非常時こそ、食事の提供を続けたい」「地域の親子を孤立させず、つながりを保ちたい」。支援する人たちも、経験したことのない状況の中、手探りしながら、行動している。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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