Yahoo!ニュース

「本音」は言えないSNSの世界・改めて、じかに接することの大切さ

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
SNSは便利だけれど…(写真:アフロ)

夏休み明けは、子どもたちの不登校や自殺が心配される時期です。「東京自殺防止センター」は毎晩、聴く経験を積んだボランティアが電話相談の対応をします。つながりやすいSNSの相談窓口も大事だけれど、息づかいがわかる方法だそうです。筆者は、心身や社会的環境にハンディのある人たちの就労を取材してきて、「じかに接することの大切さ」を改めて感じています。

筆者はおよそ2か月、記事とSNSの投稿をお休みしていました。他の仕事があったからでもあり、積極的に「〇〇、やめます」というものではありません。様々な理由で、「筆が進まなかった」のが事実です。

このところ、事情があってワンオペ育児状態が続きました。家族のこと、仕事のこと、いろいろな課題が重なって、緊張の日々。そういう時に限って、住まいの管理者に心ない対応をされたり、トラブルが起きたり。対応しつつ、前向きに生活するしかありませんでした。

●本音が言えないSNS

筆者の場合、SNSでは本音が言えません。投稿するのは、仕事のお知らせです。

まず、個人的な情報を出しすぎることへの怖さがあります。それに、周りへの配慮。「楽しい」という投稿をしても、様々な事件が起きる世の中、空気が読めない人になるのでは、と考えてしまいます。「つらい、苦しい」ということがあっても、伝えきれないと思います。

「Twitterで本音をつぶやいたり、Facebookで子育て報告をしたり、インスタ映えの私生活を投稿したりすれば、コミュニケーションの世界が広がるかも」と思ったこともありますが、「考えや私生活をそのまま発信すること」を慎重に考えてしまいます。

記事についても、同じです。筆者は、ノンフィクション取材のほか、自分の体験を記録しておき、客観的に編集し、発信しています。特に、産後やワーキングマザーの悩みについては反響が大きく、たくさん閲覧されたり、コメントをもらったり、という目に見えるものがあったので、可能な限り、具体的な例を記事にしてきました。

それも、「すべて」ではないのです。もちろん、うそや脚色はありません。書かない部分もある、という意味です。

●受け止め合う関係

周りの人に話せない。SNSもお休み。気がつくと、筆者は自分の中に閉じこもって悩みをため込み、心が動かなくなってしまいました。

再び心が動いたきっかけは、ヤマト福祉財団の「障がい者の働く場パワーアップフォーラム」の取材でした。登壇した男性は、「出所した人や、障害のある人を受け入れて一緒に仕事するだけでなく、自宅と同じマンション内で共同生活ができるようにグループホームを始めた」と発表しました。

一緒に働き、生活していれば、話す機会も増えて、脱落していくこともなくなる。運営は本当に大変だと思います。けれど、「本音を話して受け止め合う場って、ハンディがあるとかないとかに関係なく必要なのでは」と気づいてハッとしました。

ちょうどそのころ、友人何人かで集まる必要がありました。ふだんは、ほどよい距離で付き合う関係です。それぞれ、子育てや仕事や介護にいっぱいいっぱいなので。

用事の待ち時間があり、「こんな悩みがあって…おかしいでしょ」と軽く話してみました。意外に「うんうん、うちも」と返ってきて、「自分だけじゃないんだ」という発見がありました。

また、ハッキリ言葉にはしないけれど、仕事や子どものことで大変な状況がうかがえる家庭もあり、いたわり合う空気になりました。話してみれば、いろいろなことがある。話さなくても、その場に一緒にいるだけで、伝わる空気があるのだということを、アラフィフになって改めて実感しました。

●食べるために働くリアル

「その集まりのおかげで、相談できる人が見つかった!解決した!」という単純な話ではありません。でも、「誰にも話せない」「重いと思われて引かれたらイヤ」と閉じこもっていた殻から、出てみるチャンスになったのです。

そこから、じかに話したり、SNSだったり、適した手段でコミュニケーションを取る関係が少し広がりました。伝わったこともあるし、伝わらなかったこともあります。

数年前から取材している、「なつぞら」の舞台・北海道十勝にある農場では、引きこもりや精神障害、DVの被害者といった様々なハンディのある人が共に暮らしつつ働いています。働く時間や内容はそれぞれの希望で決め、ぶつかり合いも起きます。仲間が働いているのを見て、自分もやろうかなと思い、作った物を売って、食べて、寝て、お金を得るという現実の生活が成り立っています。

代表の宮嶋望さんは、牧場を作り上げ、様々な人生と関わっています。インタビューするたびに、「そこに目が行くなんて」「その行動力がすごい」と驚きがあります。そうした発見も、じかに話すインタビューならではなんですね。

●便利だけどマイナス感情も

20年、新聞・雑誌という紙の媒体で仕事をしてきた筆者も、インターネットやSNSは、便利だと思います。子育て支援NPOサイトの連載は「子育て中で眠れない夜中に読んで、共感してもらえたら。どこでも読めるし、インターネットって素晴らしい」との思いから社会貢献として提案したものです。

今、Twitterで励ましあう育児が当たり前になっていて、「やってみたかったなあ」と思います。不妊や流産など話しにくいこともブログを探して、匿名で相談できる。仕事の連絡ツールにもなるし、なつかしい人、趣味の仲間とつながれて楽しそうです。

それでも、実際に接する関係も大事だと思います。SNSで自分に都合のいい意見だけ見ていると、世界が分断され、他に不寛容になるという指摘もあります。また、充実した生活や仕事の成果の投稿は、見ている人にマイナスの感情を起こすことも。「この人なら何とかしてくれるかも」という依存心や、「あの人に比べて自分は」という劣等感が生まれ、実際の人間関係に影響する場合もあります。

子どもだけでなく、ママ友や仕事関係で、仲間外れにつながるグループLINEのむずかしさを体験した人は多いでしょう。

●伝える方法はたくさんある

SNSの情報は、その人のすべてではない。実際に接して、わかることもあるー。

あまりに基本的な話ですが、体も心もぶつかり合って働くコミュニティの取材から、改めてコミュニケーションについて考えました。SNSで伝えやすいこともあるから利用したらいいけれど、じかに接して話す関係も、大事にしてみよう、と。方法は、たくさんあるのです。

今、苦しいと思っている子どもたち、大人も、様々な方法を選んで、組み合わせて、伝えることができますように。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

なかのかおりの最近の記事