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産後の相談 自治体窓口でモラハラ・セーフティネットの作り方は

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
産後、ブルーな気持ちが続いた(写真:アフロ)

産後すぐ、激しいブルーに襲われた筆者。高齢出産、訳あってのワンオペという背景もあり、ブルーはしばらく続きました。4カ月の頃、自治体の相談窓口へ。赤ちゃんを抱えた筆者は、そこで信じられない対応をされました。産後の心を壊さないために、セーフティネットの作り方を紹介します。

産後の心2・事件が起きた(子育て支援NPOサイトに連載した「アラフォー初めてママのときどきドキドキジャーナル」より)

●ママ友もいない…寂しさこみ上げ

産後の入院中、激しいブルーにおそわれた私。助産師や主治医に相談しまくり、カウンセラーにも会ってから退院しました。産前に通っていたクリニックのドクターに「産後うつになったとしても、いろいろな方法があるわよ」と言われていたのですが…。

自宅に帰ってしばらくは、生活に慣れるためにテンションを上げていました。3週間ぐらいのとき、どっとブルーな気分に。ベビーは泣くし、寝ないし、ママは疲れていて過敏になります。夫は海外に単身赴任中で、産後シッターさんに気をつかう毎日。心を許せるお友達に、「出かけられないから、おいしいものをちょっとだけ持って遊びに来て」と連絡し、会うと明るい気持ちになれました。相手の負担にならないよう、1~2回ずつ。

産後2カ月ぐらいのとき、何とも言えないさびしい気分になることがありました。1カ月健診のあとから外出するようになり、ベビー連れOKの産後ヨガによく行っていました。そのときは楽しいのですが、家で話す相手もいないし、すぐ帰りたくない。寝ている娘を抱っこしながら、ぼーっとお店でお茶していると、さびしさがこみ上げてくるのです。

まだ「ママ友」もいません。いまとなってはわかる、子育てのあれこれも知らず。産後ヨガを通して、ママさんたちに声はかけました。新しい人間関係を作り、支え合いたいと思って。身内のサポートに恵まれている人が多く、気持ちの温度差はあったかな。

●自治体の窓口で相談のはずが

4カ月のころ、どーんと疲れが出ました。頼れる人がいないのがきつくて、自治体の窓口に行くことに。健診などで「いつでも相談を」と言われていたので、電話でアポイントを取り、指定された時間に出向きました。その担当者が、共感の態度がない人だったんです。無防備に飛び込んだ私は、かなりの衝撃を受けてしまいました。

サポートに恵まれている人だって、産後は不安になりがち。虐待してしまうのではと思うとこわい。ずっとひとりで張り詰めているから話だけでも聞いてほしい、というベビー連れの私に、「ほかのママだって昼間はひとりでやっている」「勤めていて収入があるんだから何とかなるでしょ」と言います。いま生きるのでせいいっぱいなのに。安心してサポートを頼める人がいないと訴えると「あなたのおメガネに、かなう人はいない」とばっさり。どうやって説明したら私の状況が伝わるだろう?と言葉を探し続けました。

改めて別の窓口に行き、自治体のカウンセラーや保健師にも話しました。ちょうど週末になり、お友達は家族と過ごしています。娘と無料のコンサートに行ってみて、スーパーに寄ったら少し気分がよくなりました。けれどまた、ずーんと落ち込む。知り合ったばかりのママにダメもとでメールしたら、「うちのパパも、土日はお仕事でいないから行くよ」。電車でベビーと来てくれました。何げないおしゃべりだけで救われます。

●心理士・助産師の共感に救われ

平日は近所の親子が「何かあったら呼んで」と声をかけてくれて、一緒に児童館に行ってみました。いっとき楽しくなっても、衝撃を思い出すとぼーっとしてしまいます。バスで、スーパーで、マンションのロビーで、娘を抱えて放心。「お世話は投げ出せない」と思うと不安がこみあげてきて、心臓のばくばくが止まらなくなり、クリニックに娘とかけ込みました。授乳中だったので、差し支えない薬をもらったのです。

ひとりぼっちに思えて、苦しかった。でも振り返ると、倒れずにすんだのはママたちに少しずつ助けられたから。同じマンションのお宅におじゃましたり、子どもOKのクラシックコンサートにお友達と行ったり。育休中だったのでよく行き来していましたね。先輩ママが出演するイベントを見に、娘と遠出も。ふとしたことから交流が復活した女性も遊びに来てくれました。息子さんが成人しているので、「おばあちゃん代わりに助けてもらえるかな」と期待したものの、仕事や趣味が忙しい人でかないませんでしたが…。

5カ月のときも、出かけていろいろな人と会っているのに、さびしさがこみ上げてくることが何度もあったんです。産後の入院中に紹介されたカウンセラーには、ときどき娘を抱っこして会いに行っていました。この事件についても相談すると、「あなたが特別に敏感なわけではない。産後に身内の手がなくて心身がぎりぎりのとき、そういう対応をされたらトラウマになってもおかしくない」という意見。母乳相談の助産師さんや出張マッサージのおばちゃん、産後ヨガ仲間のママに会ったとき、「ひとりで大変!」「24時間、緊張するよね」って共感してくれました。そんな一言だけで、いいんだよね。

●ちょっとずつの支えを探して

もちろん、親身になってくれる医療や福祉の専門家、先輩ママはたくさんいます。一方で困って相談したのに、救われなかった人のニュースも少なくありません。弱っている人のための窓口で、傷ついてしまうケースもあるのです。ママサークルなども、ライフスタイルや考え方が合うかどうか、相性はありますね。私は、相談先は慎重に選ぶ必要があると学びました。「この窓口なら、この人なら」「話だけ聞いてくれるよね」という期待は通用しないときもあります。

1歳ぐらいまで、この事件について思い出しては悲しくなるということが続きました。もし違う環境だったら、「ショックだけど、いろいろな人がいるなあ」で終わったでしょう。産後は、ホルモンバランスの変化や疲れで、心身の限界を超えているのです。大事な相談は、信頼できる人に。理解してもらえなかったら、ちょっとずつ支えになってくれる人、感覚が合う人を探す…。娘が3歳のいまも、心のセーフティネットを大事にしています。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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