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TOKIO山口達也さんだけじゃない アルコール問題の相談先

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
アルコールの問題を抱える人は少なくない(写真:アフロ)

ジャニーズ事務所との契約解除が発表された山口達也さん(46)。事件に関するTOKIOメンバー4人の会見で「依存症だと思っていた」「お酒の問題は以前からあった」という発言を聞き、他人事ではないと思った人も少なくないだろう。依存症には、うつや他の病気、失職や家族の負担など様々な問題が絡み合う。アルコール依存症の当事者の話と合わせて、相談先や自助グループの情報を紹介する。

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私は新聞記者時代に、ギャンブルやアルコール、薬物など依存症の当事者に出会って取材した。なぜ依存症に陥ったのかを聞き、医療機関や自助グループと関わりながら回復した経緯を記事で紹介した。

いずれもやめられずに生活が破たんし、周りを巻き込むようなら治療が必要だ。アルコール依存症は110万人いると言われる。

●苦手だった酒におぼれた

アルコール依存症を体験した男性(当時50代)は、自助グループ「アルコホーリクス・アノニマス(AA)」に出会って「ジャック」というニックネームを付けた。AAは飲酒をやめたくてもやめられなかった人々が匿名で語り合う場。アメリカ発祥で、およそ180の国と地域に10万以上のグループがあり、メンバー数は200万人を超える。日本には600以上のグループがあるという。

アルコールを完全にやめるためのミーティングに参加し、「今日一日、ともかく最初の一杯に手をつけない」ことを心がける。飲まない生き方を続けるために、「経験と力と希望」を分かち合う。オープン・ミーティングは司会者と2~3人のメンバーが話し、言いっぱなし、聞きっぱなしがルール。議論や説得はしない。

ジャックは自分も自分の本名も嫌いだったから、二つ目の名前がうれしかったそうだ。ジャックはもともとアルコールが好きだったわけではない。仕事をするようになって、酒場の雰囲気が好きになった。記憶がなくなるまで飲むことが、7、8年も続く。最後には兄に入院させられたという。

●同じ患者の話に目が覚める

退院してもまた飲み、再び入院。病院でも隠れて飲んだが、同じように退院して舞い戻ってきた別の患者の話を聞いて目が覚めた。「節酒ではだめだ」と言われ、きっぱりやめなければ生きていけないとわかった。

妻子にもあきれられ、再入院中に離婚。家庭も仕事も失った。退院すると一人暮らしを始めて、地元のAAのミーティングに毎日通った。全国を回り、自分の体験を話すようになった。出会った女性と再婚した。

AAには12のステップがある。「飲酒が抑えられない病気である」と自覚し、アルコールを必要としていた生活を変えなければならないこと、人を傷つけてきたことを認める。こうした過程を経て初めて、自分がなぜ酒にはまったか気づく。

ジャックは自分を必要以上に大きく見せていた。幼いころ、病気があってからかわれた。劣等感から目立って見返したいと思うようになっていた。

取材した当時、ジャックは住んでいる地域でAAを始め、新しく入ってくる人の力になっているところだった。

●抑うつ状態や胃腸障害も

ある地域の「断酒会」に入って18年目という、当時40代の男性にも話を聞いた。会には今、飲酒がやめられなくて苦しい思いをする会員が入ってくるので、そうしたメンバーを先生として、思いを新たにしていると語った。

10代のころに両親を亡くしたという男性。20代で一人暮らしを始めると、飲みだすと止まらなくなり仕事も休みがちになったという。入院するとアルコール依存症のほかに抑うつ状態や胃腸障害もあった。退院後は半年間、飲酒せずにいられた。夏バテで元気を出そうとウイスキーを一杯飲んだら止まらなくなり、ボトルの半分を空けた。

断酒会にも出てみて、自分はそんなにひどくないと思っていた。再入院してから正式に入会し、人生で初めての目標が「酒をやめること」になった。

●医療や仲間の力で穏やかに

退院して仕事も再開したが、不安や疲れからまた飲んでしまった。医師の勧めで抗酒剤を使った。飲酒すると頭が痛くなって体が動かなくなる。この効果で「酒に降参した」そうだ。自動販売機で酒を買っていたので、小銭を持たないようにした。不安になったら断酒会の仲間に電話して聞いてもらった。

それでもうつ状態が何年か続き、会社を解雇された。断酒会がよりどころだった。それまでの生き方を振り返ると、ほかの人が普通にできることができず、もどかしくて酔いに逃げた。

再び仕事をするようになって、気のゆるみで仕事中にけがをした。以前だったら格好の飲む理由になったが、飲まなくてもいられた。「先のことはわからないけれど、今日一日を穏やかに過ごす積み重ねが大事」と話していた。

●家族も参加する断酒会

断酒会の全国組織「全日本断酒連盟」サイトには、各地の断酒会の連絡先が紹介されている。活動の基本は例会で、20名くらいで約2時間、体験を話して聞く。家族も参加し、酒による害を受けた体験を話す。話すことにより、傷ついた家族も回復へと結びついていく。

断酒会やAA以外にも、様々な自助グループや医療機関、家族の相談を受ける場があり、厚生労働省のサイトに掲載されている。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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