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コシノジュンコ×精神科医、「いまを生きる」対談(下)

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
精神科医の大西さんとコシノさん なかのかおり撮影

世界で活躍するデザイナー・コシノジュンコさんと、がんの患者や家族をケアする精神科医・大西秀樹さん(埼玉医大国際医療センター)。2人は10月、日本サイコオンコロジー学会・日本臨床死生学会の合同大会で「いまを生きる」をテーマに対談した。後半は「死ぬまで未来はある」「ファッションやヘアを変えてみて」などコシノさんの名言が続いた。

対談の上はこちら→コシノジュンコ×精神科医、「いまを生きる」対談(上)

筆者による大西秀樹さんの記事はこちら→遺族外来インタビュー、東洋経済オンライン

素敵と思われる医師に

コシノ  わざわざ病院に行くんだから、信用って大事ですよね。ぱっと見て「この先生ってダサいな」と思われるより、好感を持って「素敵だな」と思われるほうがいいじゃないですか。病院の先生自身がおしゃれになれば、世の中も明るくなる。

大西  皆さん、コシノ先生は白衣もデザインされているとご存知ですか。それからがん患者さんが脱毛した時のキャップも手がけられていて、すごくいいのがあります。

コシノ  スヴェンソンという会社で最初にウイッグを手がけました。きっかけは母のためだったんです。母がとにかく汗っかきで。すごいショートカットで茶色に染めて、パーマをかけていたんですが、暑いときはびちょってなってしまって。それがかわいそうで、ウイッグを使うようになりました。母に心から親孝行できたのが、この時のウイッグです。

ウイッグがあって、母はものすごく活躍したんです。80歳を過ぎてから、講演会もジャンジャンするし、人前に出るのが好きなんです。なぜかっていうと、自分に自信があるんです。おしゃれして、行くたびにテンションが高くなる。うちに来るお客さんもそうかな。

洋服で背中をパーンと押す

コシノ  書道家のお客さんがいらして、海外でみんなの前で書くということです。「こういうのどう?」って洋服を選んでいるうちに、「むずむずしてきた、早くやりたい」っておっしゃって。単純に洋服ですよ。でも、その人の背中をパーンと押すような感じがあるんです。

大西  多くの方を救っていますよね。

コシノ  「私もお医者様みたいだな」って思います。先生も精神科医でしょ。お洋服で精神的に嬉しくなる。立ち直るっていうのかな。女優さんも、ちょっとスランプで乗れないってときに、洋服をとり変えるとパッて治ります。「何でこんな風に嬉しくなっちゃうんだろう」って。

コシノさんの名言が飛び出した なかのかおり撮影
コシノさんの名言が飛び出した なかのかおり撮影

好奇心がなくなったら終わり

大西  コシノ先生は好奇心が強いですよね。

コシノ  親譲りですね。私の母は「好奇心のかたまりの会」っていうのを作っていて、全国で会をするんですけどね。好奇心がある人が寄ってきますよね。「この前と同じじゃいやだから」って、集まりのたびに洋服も作る。成長していくんですよね。

興味がなくなったら、人間て終わりかなと思うんですよ。憧れとか興味を、いつになっても子どものように持っていられたら素敵だと思います。

大西  憧れとか興味って、失っているかもしれませんね。コシノ先生は、持ち続けるから第一線にいるんですね。

コシノ  成功した方って、すごく普通っていうか、いかつくない。肩ひじ張っていないんです。どんどんアイデアが出てくる。出てくると口に出すし、実行しちゃう。

そういう人といると、私も影響されてエスカレートしておもしろいんです。東京オリンピック・パラリンピックがありますけど、「私たちがそれを楽しまないでだれのため?」って思う。この現場にいるのに、他人ごとにしないことです。「自分が先頭に立ってやるんだ」という気持ちが、形になっていきます。

死ぬまで未来はある

大西  どんどんいい言葉が出てきますね。皆さんメモしてくださいね。

コシノ  「若い人は生き生きしていて、ある程度の年になるとビジョンがなくなって生き生きしなくなる」って嘘だと思うんですよ。未来っていうのは、若い人のものだけではなくて、死ぬまで未来はあるんですよ。いつ死ぬかは知らない。神様が決めるんだから。

だけど例えば1年であろうと10年であろうと、未来は未来なんですね。その間、いかに充実して楽しむか。いくらお金をためたかよりも、何をしたかですね。曽野綾子さんも書いていたけど、たくさんの人に出会うってことは、たくさんの宝になるし、そのぶん賢くなる。

大西  死ぬまで未来がある。僕たちも死生学会で、そういうお話をしたんですが、未来をデザインするのに迷うことがあるんです。未来をデザインしてきた秘訣を教えてください。

コシノ  未来っていうのは世界中、どんな人種でもどんな国でも平等にだれも見たことがない。未来は見えてないですよね。見えてないから想像をたくましくしていいわけです。過去はしっかりと証拠がある。未来は証拠がないから、何をやっても自由です。だからやればいいんです。やるためには、人と会うのが大事。人との出会いって大変クリエイティブなことなんですね。

出会いは自分から進んでいかないと。今日も、ここに来てくれてありがとうございます。こうして出会ったこと、明日につながると思います。

大西さんのスーツはコシノさんのブティックで作った なかのかおり撮影
大西さんのスーツはコシノさんのブティックで作った なかのかおり撮影

会場からの質問とやり取り

人のために尽くすのが使命

質問者  コシノ先生の使命はなんですか。

コシノ  私は私の役目があり、あなたはあなたの役目がある。それぞれ、人のために生きていると思うんです。

病気を治すにしても、洋服を作るにしても、最終的には自分のためになるけど、まず人のためですよね。

大西  尽くすことで、自分に返ってくる感じですよね。医師も同じです。

ファッションやヘアを変えて

質問者  過去にがんになって、今は元気に仕事をしていますが、病人だった過去の壁を取り外せなくて、明るいところに行けない気持ちを持ってしまいます。

コシノ  がんになったことがないから実感はなくて申し訳ないけれど、それは自分だけのこと。周りの人から見たら過去、どんなことがあったかは見えない。

人はわからないんですよ。どんな事件があっても忘れちゃうし。だからそんなもんなんです。人は気にしてないんです。忘れるわけにはいかないけれども、前向きにしていくこと。単純に考えたほうがいいと思います。

質問者  周りは何も気にしていないんですね。私自身が壁を作っていたと気づき、壁を取り払える自分に近づいた気がします。

コシノ  ファッションやヘアスタイルを変えたり、ウイッグをしてみてはどうですか。

今までと違う自分を発見できるし、出会いも違います。楽しい出会いがやってくると思うんですね。一歩前に出るには、おしゃれする。すると周りが明るくなる。周りを明るくするために生きているんですよ。

記事は、コシノさんと大西さんの承諾を得て構成

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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