コシノジュンコ×精神科医、「いまを生きる」対談(上)

コシノジュンコさんと精神科医・大西秀樹さん なかのかおり撮影

世界で活躍するデザイナー・コシノジュンコさんと、がんの患者や家族をケアする精神科医・大西秀樹さん(埼玉医大国際医療センター)。2人は10月、日本サイコオンコロジー学会・日本臨床死生学会の合同大会で「いまを生きる」をテーマに対談した。前半は、人生の最期の大切さや、コシノさんがブルゾンちえみさんと母娘になったCMについてもエピソードが飛び出した。

筆者による大西秀樹さんの記事はこちら→遺族外来インタビュー、東洋経済オンライン

コシノ(敬称略) 大西先生、お洋服を(コシノさんのブティックで)新調したんですよね。ジャケットの裏地を見せてください。右側と左側とで違う。色を変えただけなんですけどね。ちょっと考え方を変えるだけで、先生も嬉しそうですね。

蝶ネクタイって下手にゆがんだりするので、シャツのえりにグレイのテープをきゅっと入れているんです。着こなしを上手にするより、着ればもう形になるほうが楽ですよね。何もしなくても様になる。一年中、一生、着られます。この一着で人生やっていけますから。

大西  国際学会のレセプションでこの服を着たら、アメリカ人が「いいね、どこで作ったの」と。「今度のオリンピックのデザイナーに作ってもらった」と言うと「いいなあ」って。仮縫いをしたとき、ブティックの中で展覧会をしていましたね(写真下)。

今井さんの絵と なかのかおり撮影
今井さんの絵と なかのかおり撮影

がんの画家に最後のチャンス

コシノ  今井俊満さんという画伯がいて、亡くなられたんですけれども、パリで50年代に過ごしていまして。パリで私は22年ファッションショーをやっているのですが、あるときパリコレの真っ最中に彼から「ステージで一緒にできないか」と言われたんですね。ショーで洋服に絵の具をかけてあっという間に柄ができる…ということをやりたいと。でも、絵の具のにおいが残ったり飛んだりしたら困る。見ているジャーナリストはわりに厳しいので、私はいい返事をしなかったんです。

だいぶして彼から電話が来て、「実は僕、がんなんだ。あと3か月の命で…」と言われたんですね。私は、パリコレでいい返事をしなかったのが重荷になってたんです。

だから「今、何がやりたい?」って聞いたら、「パリコレでやりたかったことをやりたい」っていうんですよ。

うちのブティックにキャンバスをひいて。モデルに白い服を作って、横になって上から絵の具をかける。美術番組も呼んで。これが最後だからやりたいことをやったほうがいいと思って。今井さんのお友達や大切な人を呼んで、やりました。

この写真の絵なんですけど、渋谷のギャルをイメージしてるんです。彼は頭が若いんですよ。アーティストは仕事をしたいんです。残したいんです。この絵を私が持っているだけではもったいないので、出しましょうとブティックに出したときに大西先生が来ました。

1週間、店を閉めて

大西  医療者は常々、患者さんのニーズに合わせていろいろなことをしなければならないと思っているんです。コシノ先生はこの方が何をやりたいか聞いて、絵を描くのにブティックを閉めて。1日ぐらいでいいのかと思ったんですけど、1週間閉めたんですね。

コシノ  1週間、においが取れないのと絵が乾かなくて…。でも、「やるときやる」ってのは大切かと思って。

大西  太っ腹ですね。こうして絵に残って、私たちが見て、次の世に伝わって。終末期の患者さんに対する功績ですね。

上着を羽織ると違った印象に なかのかおり撮影
上着を羽織ると違った印象に なかのかおり撮影

後ろを顧みない、今日が好き

大西  これからコシノ先生に、「いまを生きる」というテーマで質問したいと思っているんです。常に時代の先端を生きてきた、先生の原動力は何ですか。

コシノ  あまり後ろを顧みないんですね。常に、前が好きなんですよ。前と言っても、先の先の先だと見えないので、見えているものが好きなんです。要するに、今日が好きです。皆さんね、今日が将来から見て一番、若いんですよ。当たり前のこと言ってるんだけど、気が付かない。

老けるのもあっという間ですよ。ちょっと悩みがあって、かぜが治らなくてっていうと、女性ってあっという間にこの辺にしわができて。若々しくいるには、元気でいるしかなくて。ぼーっとするのでなくて、「あれやらなきゃ。やりたい。楽しいわ」と。現実的ですけど、この繰り返しが一番、素敵だと思います。

大西  現実を見て、何かをしていくということですね。

コシノ  そうですね。理想ばっかり見て、何もしていないのはだめですね。

大西  どきっとしますね。頑張らなきゃと思います。

先入観を持たず壁を作らない

コシノ  忘れることでも無視することでもないんですけど、過去っていうのは、クリエイティブにできない。変えられないですよね。変えられないのに、過去の栄光だけを生きていると前へ行かないと思うんですよ。

もう少し頭を軽くして、先入観を持たない。自分で枠や壁を作らないっていうのかな。私は「ファッション・デザイナー」という肩書があることで、もう壁を作ってますよね。だから私、最近はファッションをとってデザイナーって肩書にしているでしょ。いろいろなデザインができます。人生のデザインをしたいわとか。

「ファッション」っていうとどうしても着るものだけにこだわっているみたい。着て終わりじゃダメです。「その洋服を着て、どこに行きたいの、何をしたいの」ですよね。何したいの、までやることです。

対談するコシノさんと大西さん なかのかおり撮影
対談するコシノさんと大西さん なかのかおり撮影

ブルゾンちえみの母役、面白がる

大西  最近、テレビCMに出演して皆さんを楽しませていますね。

コシノ  ちえみの母ね(CMでブルゾンちえみさんと共演)。最近、「ちえみの母です」って言ったほうがピンとくるみたいで。私の名前、知ってるの? 人生って面白いもので、何回かの大きな山場、うねりっていうか波っていうかでできている。まっすぐじゃない。緊張感で「ピーッ」だといつか破裂しちゃう。

私、第三の波じゃないけど、この年になって面白くてしょうがない。今、人生で一番面白いと思います。だから、ああいうマンガみたいなことも、面白がって乗るんです。でも自分が軽くないと。体重じゃなくてね、気分が軽くないと受け入れられない。

「デザイナーだから、こうでこうで、そんなみっともないことはしません」とかっちりしていたら、何も受け入れられない。壁を取ったらどんどん受け入れられる。

大西先生が私のスーツを着てみたのも、壁を取り払ったからですよね。普段は、白い研究の服を着ていますよね。

大西  最初は勇気がいりました。一度、着てみると、壁がなくなったというか、いい経験になりました。

後半は、洋服の力や好奇心の大事さについて語る。(記事はコシノさん、大西さんの承諾を得て構成)