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石巻「こども新聞」未来へ・大物アーティストも後押し

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
小林武史さんに取材したこども記者の記事(提供)

東日本大震災で被害の大きかった宮城県石巻市。震災後、子どもたちが取材する「石巻日日こども新聞」が発行されている。活動を紹介する連載の最終回は、こども新聞を続けるための試みを聞いた。企業の後押しを受け、商品を作ったり、地元のフェスに参加したり。この夏、こども記者が音楽家・小林武史さんらに取材する機会もあった。

1回目はこちら→石巻「こども新聞」心の成長支え5年

2回目はこちら→石巻「こども新聞」始めた女性の思い・子どもの感情表す場を

3回目はこちら→石巻「こども新聞」記者・震災の記憶抱え前へ

石巻日日こども新聞 2012年3月創刊。「石巻日日新聞」の協力で制作。年4回の発行で部数は3万部。一口3千円からのサポーターに支えられている。

サポーター会員が支える活動

震災後に新聞を発行して5年が過ぎ、どうやって運営していくかが課題になっている。取材や印刷に資金が必要だが、こども記者の参加費は無料という。

これまで、寄付や震災後の助成金で運営してきた。時間がたち、助成期間が終了したものもある。こども新聞を始めた太田倫子さん(48)は、「一口3千円からのサポーター会員に支えられています。サポーターには年に4回、新聞を送ります。この会費を主な資金としていく予定です。子どもたちの成長や可能性に対して、寄付していただけたら」と話す。

こども記者と新聞を始めた太田さん 宮城県石巻市、なかのかおり撮影
こども記者と新聞を始めた太田さん 宮城県石巻市、なかのかおり撮影

日常戻り、忙しい子どもたち

子どもたちが成長し、日常が戻ってくると、忙しくなった。部活や習い事、受験勉強と、やることが盛りだくさんだ。毎週、土曜日に開かれるワークショップは、震災後は行く所もなかったため子どもたちの貴重な居場所だった。今は定期的に参加できる子が少なくなった。

直前まで参加者がわからない日もある。最近は取材したいテーマを随時、聞き、子どもたちの都合に合わせて取材に行ったり、大人スタッフがサポートして記事を書いたりしている。

被災地だからではなく、中身で

今年、新しい企画で企業の助成金を得た。「震災からの復興」というより、未来を見通した内容だ。「石巻日日こども商店」という企画で、様々な商品を作っていく。

こども新聞の活動を知って応援を申し出た宮崎県の企業とコラボレーションし、缶詰のパッケージデザインを受け持つ。また、こども記者のデザインで段ボールメーカーと募金箱を作った。いずれも商品の売り上げが入る仕組みにする。

そのほか、こども新聞が活動している会場「石巻ニューゼ」に商店コーナーを作り、作った小物も販売。子どもたちの通帳を作り、売り上げや賞金などを入れている。

活動の会場に作った「こども商店」 筆者撮影
活動の会場に作った「こども商店」 筆者撮影

モデルとして全国に

今後、こども新聞の運営団体(社団法人キッズ・メディア・ステーション)を公益法人にして寄付を集めやすくし、こども商店の試みも含め幅広く活動するという。

「震災後の助成や寄付で遊び場や箱ものはたくさんできたけれど、具体的な活動のコンテンツ作りが必要。世界中にはたくさんの仕事や役割がある。子どものころから『これが好き』というものを見つけるのに、こども記者の体験は最適だと思います。石巻をモデルとして、新聞作りが全国に広がってほしい」と太田さん。

さらに「社会の最大の資源は子どもです。虐待や育児放棄のニュースも聞きますが、たとえ家庭や学校に恵まれなくても、第三の居場所で、その子の可能性や才能、価値がわかるいい大人に出会えれば伸びていきます」と力を込める。

地元フェスに参加

この夏は企業の支援を受け、こども記者が新しい体験をした。

石巻市・牡鹿地区を中心に7月~9月の間、初めて「リボーンアート・フェスティバル」が開かれた。Mr.childrenを手がける音楽家・小林武史さんが呼びかけ、自治体も賛同。「食・アート・音楽」のお祭りで、全国のシェフが地元の食材で料理を提供、国内外のアーティストが作品を作り、音楽イベントがあった。

フェスの一環で子どもたちがアートを作る試みがあり、こども記者も参加した。6月、2日かけて作品のコンセプトを考えるワークショップが開かれた。こども記者を含め小学4年~高校3年の6人が海辺を歩き、貝殻を集めて試作した。

子どもたちが作ったオブジェのテーブル(提供)
子どもたちが作ったオブジェのテーブル(提供)

アート制作には、CMや音楽家のCDジャケットデザインで知られるアートディレクター・森本千絵さんが協力した。小林武史さんと森本さんも、ワークショップに登場。8月の本番で作ったオブジェは、アクリルに閉じ込めて透明なテーブルに。今は石巻市内の広場に置かれている。やぐらの周りにつける絵も一緒に描いた。やぐらはフェスの閉幕イベントの盆踊りで使われた。

みんなで描いた絵で作ったやぐら(提供)
みんなで描いた絵で作ったやぐら(提供)

企業も子どもたちを応援

子どものアート制作を支援したのは「Tポイント・ジャパン」(東京都渋谷区)。買い物や飲食でポイントがたまる仕組みで、加盟する企業は170社。6千万人を超える会員がいる。リボーンアート・フェスと連携し、寄付ができるTカードを発行した。

カード発行手数料の一部と、カードの利用でたまるポイントの半分が、子どものアート企画に役立てられた。2018年12月31日までサイトにて寄付カードを販売。次のリボーンアート・フェスは2019年だが、来年も子どものアートイベントを計画するという。

森本さんの生い立ちに共感

サプライズもあった。アート制作に参加したこども記者のリコさん(中学3年)とレン君(高校1年)が、小林さんと森本さんにインタビューするチャンスをもらった。記事を書いてこども新聞の号外に掲載。この号外を出す費用は、クラウドファンディングを呼びかけて集まった。

森本さんにインタビューしたリコさんは、両親がMr.childrenのファンで、3歳のころからライブに行っていた。Mr.childrenのアルバムデザインを手がける森本さんのことも知っていた。

やぐらにつける絵を描くときは、自信がなくて悩んだけれど、森本さんが「これ、いいね」って言ってくれた。「森本さんが子どものころ、自然がいっぱいのところで遊んだと聞きました。私も自然がいっぱいの石巻で育って、同じなんだなと嬉しかったです」

ずっと行けなかった海辺に

リコさんにとって、震災後の一歩を踏み出すきっかけにもなった。「アートを作るため貝殻を集めるとき、久しぶりに海辺を歩いて楽しかった。親に心配されて、海の近くに行かないでと言われてたんです。私は海に行きたかったので、いい機会でした」

「森本さんの記事は楽しんで、すらすらと書けました」というリコさん。受験のため、この取材が一区切り。いい思い出になった。受験が終わったら、こども記者に戻りたいという。

森本千絵さんと子どもたち(新聞の号外より、提供)
森本千絵さんと子どもたち(新聞の号外より、提供)

小林さんに石巻をほめられた!

高校1年のレン君は、小林武史さんにインタビュー。「昨年、石巻で開かれた小林武史さんたちのap bankフェスに行きました。ステージの小林さんはかっこよかったです。実際に会うとまた感じが違って、リラックスして話せました」

小林さんに「石巻の街と自然のバランスが、アートフェスにふさわしいからやることになった」と言われて嬉しかったそうだ。「たくさんの人にクラウドファンディングに協力してもらいました。こども新聞を読みたいと思ってくれて、リボーンアートのフェスを知ってくれて、感謝しています」と笑顔を見せた。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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