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「コットン」が心に秘める理想の形。そして「全てをひっくり返された」先輩芸人とは

中西正男芸能記者
「コットン」の西村真二さん(左)ときょんさん

「キングオブコント2022」で準優勝し、きょんさん(36)は「R-1グランプリ2023」で準優勝するなどネタで高い評価を受け続けるお笑いコンビ「コットン」。慶応義塾大学卒業で元アナウンサーの経歴を持つ西村真二さん(39)のハイスペックキャラクターも話題になるなどバラエティー番組でも引く手あまたの状態になっています。まさに上り調子の二人ですが「震える」ほど衝撃を受けた先輩の姿。そして、理想の未来について語りました。

10倍

西村:「キングオブコント2022」を機に、ありがたいことにお仕事をいろいろといただけるようになりました。体感で言うと、10倍くらいにはなっているかなと思います。

単純に仕事量も増えましたし、さらに、一つ一つのお仕事での責任も重くなったと感じていますし、総合的に考えるとそれくらいになっているだろうなと。どこまでも本当にありがたいことなんですけど。

以前はお仕事のほとんどが劇場出番で、もちろん、それも本当に大切なことなんですけど、会うのが同年代の芸人ばかり。今は右を見れば女優さん、左を見ればアイドルの方。そういった現場も増えて、変なミーハー心とかではなく、純粋に周りの景色が変わったなとは感じています。

ただ、より一層、相方と話すようになったことがあって、どんな状況になっても絶対に劇場には出続ける。それがなくなったら終わり。それは常々言っています。

芸人の形に不正解なんてないと思いますし、YouTubeに注力しようが、テレビ一本に絞ろうが、全て正解だと思います。ただ、僕らで言うと、劇場に出てネタをやる。これは絶対に譲れないポイントだなとお仕事をいただけるようになった今だからこそ、改めて感じていることでもあるんです。

芸人は舞台でネタをやってこそ。自分がなりたいのは芸人であって、お笑いタレントではない。ここも、もちろん人によって考えがあるところですが、僕らの場合は舞台を外すことが絶対にできないタイプだと思っています。

全てをひっくり返された

きょん:舞台に出てお客さんに喜んでもらう。それが基本というのは変わらないんですけど、去年の末にさらにその思いを強くすることがありまして。

ありがたいことに皆さんに名前を知ってもらえるようになり、ある大きな企業さんの営業に行かせてもらう機会をいただいたんです。数百人くらい参加されている立食パーティーで、ものすごく大きな会場で僕らと「COWCOW」さんが呼ばれてそれぞれ15分ずつほど出演し場を盛り上げるという営業でした。

ぶっちゃけ、他の営業よりも規模も大きいし、やっぱりギャラの単価もいい仕事なんだろうな(笑)くらいの気持ちで現地に行って、先に出たのが僕たち。大きな企業パーティーという場に不慣れながら、もちろん全力でやって「ま、100点ではないけど静まり返りもしなかったし、まぁ何とかなったのかな」という感覚で控室に戻りました。

そして「COWCOW」さんのステージを見て震えたんです。

とにかく、もう何もかもが違う。声の出し方、ネタ、流れ、巻き込み方…。何もかもが僕らとはまるで違う。マジで言葉を失いました。すごすぎると。

「勉強させていただきました」という言葉にありったけの思いを込めるくらい、本当に勉強させていただいたなと。同じ15分の営業でも、こんなに違うのかと。

西村:立食パーティーなのでお酒も入っている。お客さん全員がこっちに集中されている状況でもないですし、こちらを見る気で来てくださっている劇場のお客さんとは正直違うわけです。

でも、舞台に出た以上、お客さんに楽しんでもらう。それをどんな状況でもやり切る。それが芸人ですし、それをお二人は見事にやってらっしゃった。始まる前は「単価が高いんだろうな」なんて話もしてましたけど、この日のギャラをもらうのは心苦しかった。この日発生しているギャラ全部「COWCOW」さんで妥当。心底そう思いました。

「キングオブコント」で準優勝した。きょんが「R-1」で準優勝した。まだ上があるんだけれども、自分たちが目指すべきものがだいぶ絞られてきた。可視化されてきた。強化ポイントが整理されてきた。そんな意識があった中で、まだまだこんなに課題があったんだ。ある程度見えていたつもりになっていたことが全てひっくり返る。そんな衝撃がありました。

吉本興業の芸人である以上、ここでウケないといけない。その力を持っておかないといけない。そのために何をするのか。それを今一度考えた時に、シンプルですけど、一つ一つの舞台、出演ととことん本気で向き合う。今までも本気だったんですけど、そのギアをもう一つ上げる。それしかないんだろうなと思ったんです。

きょん:その積み重ねをするしかないんだろうなと。一回一回のスパーリングを本気でやる。それしか強くなる術はないんだろうなということも再認識しました。

武器と目標

西村:今一度、自分たちを見つめ直す中で、自分たちの色みたいなことも改めて考えもしました。

きょんのキャラクターが注目されもするけれど、「モグライダー」のともしげさんほど突き抜けた存在でもない。ドッキリ企画をされたりもするけど「パンサー」の尾形さんほどドッキリ界のスターでもない。イジられたりもするけど、出川哲朗さんみたいなキャラクターでもない。

僕も浜田(雅功)さん、後藤(輝基)さんみたいな人間ではない。もちろん、そういう偉大な先輩を目指しはしますけど、現時点ではそうではない。

ならば、僕らの強みってなんだろうと。日々模索しているところですけど、最近ようやく「これなら負けないんじゃないか」と思うものが出てきまして。それが“順応力”かなと。

ドッキリ企画をきょんにぶつけた時に、濃いドッキリにも、軽めのドッキリにもアジャストして味を膨らませられる。僕も便利屋的に任されるMCなんかでも形にするほうだと思いますし、二人でロケに行かせてもらっても仕損じは少ないと思います。何にでも順応する。自分で言うのも本当にアレなんですけど、器用な二人なんだとは思うんです。歌もダンスもやろうと思えばできますし。

でも、裏を返すと、それは突出した何かがないということにもなる。片方のハサミだけがバカでかいシオマネキみたいなタイプのほうが武器が分かりやすいですしね。僕らは見慣れたサワガニみたいなものでしょうし、それが少し大きいくらいで。

戦力グラフがきれいな五角形になっている。これは強みを示しにくいことでもある。ここに悩みもしているんですけど、今はそれも、それこそが個性なのかなと思っています。“ミスター使い勝手”というか、いてくれたら助かる存在を目指す。それも道なのかなと。

きょん:そうやっていきながら、やっぱりいつかはゴールデンタイムの番組MCをやってみたい。その思いはありますね。「千鳥」さんとか「かまいたち」さんみたいに。

西村:そこは目指したいところですし、あとはやっぱり舞台ですね。どれだけ仕事の幅が広がっても軸は舞台に置いておく。それが僕らには必要なことだろうなと。

そして、烏滸がましい話ですけど、いつか、劇場のトリをコントで取れたらなと思っています。これまでは吉本興業の伝統というか、流れで、漫才師さんがトリを取ってこられましたけど、いつかそんな景色を見られたらなとは思っています。

後輩たちから「『コットン』さん、まだ劇場に出てるの?」と言われる歳までしぶとくできたらうれしいですし(笑)、そのための積み重ねを続けていければと思いますね。

(撮影・中西正男)

■コットン

1984年6月30日生まれで広島県出身の西村真二と、87年11月18日生まれで埼玉県出身のきょん(本名・富士田恭兵)が2012年に「ラフレクラン」を結成。英語のラフ(笑い)とフランス語のレクラン(宝箱)を組み合わせて命名。ともにNSC東京校17期生。NHK新人お笑い大賞優勝をはじめ、数々の賞レースで決勝の常連に。「キングオブコント2022」準優勝。「R-1グランプリ2023」できょんが準優勝。21年にコンビ名を「コットン」に変更。単独ライブ「flare」を大阪(3月24日、なんばグランド花月)、福岡(4月6日、よしもと福岡 ダイワファンドラップ劇場)、愛知(4月21日、中電ホール)、東京(4月27日、銀座ブロッサム)で開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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