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岩橋良昌さん、吉本興業との契約を解消。これを受けての周りの反応。そして、思い起こされるこれまでのこと

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

漫才コンビ「プラス・マイナス」の岩橋良昌さんが所属の吉本興業との契約を解除したことが22日、同社から発表されました。

ここ何週間か、岩橋さんがSNSで刺激的な発信をするたびに、あらゆる関係者、芸人さんから「岩橋は大丈夫なのでしょうか?」という連絡を数え切れないくらいもらっていました。

岩橋さんの大阪時代には幾度となく食事にも行かせてもらってましたし、その後もあらゆる拙連載でお話をうかがってきました。

そんな文脈もあってか、もちろん僕など岩橋さんの代理人であるわけもないのに、いろいろな方が僕に近況を尋ねてこられました。

その状況から、二つのことを確信しました。

一つは、皆さんが岩橋さんのことをこの上なく心配しているということ。

僕に連絡をくださる方々は、関係値的に当然岩橋さんの連絡先を知っている人ばかりです。でも、本人に直接連絡をするのははばかられる。センシティブな空気が漂う中「大丈夫?」と送るほど無粋なことはない。なんなら、本人に要らぬ負担をかけかねない。

それならば、本人とある程度距離が近くて、しかも取材としてあらゆるところに話を聞いているであろう人間に連絡をまずは取ってみるのが得策ではないか。そこで“温度感”を確かめたうえで、本人へのアプローチを図ろう。

「そんな感じで僕に連絡を?」なんて野暮な確認を一人一人にしているわけではありませんが、文面からその慮りがにじみ出る打診を多数いただく中、皆さんがいかに岩橋さんを心配し、岩橋さんを大切に思っているか。そこを痛感しました。

そして、もう一つが「プラス・マイナス」というコンビへのリスペクトです。

こんなもの、口裏の合わせようもないし合わせるものでもありませんが、僕に連絡をくださる方々の文面は驚くほど末尾が一致しています。

「せつない」「残念」「もったいない」

このワードが必ずと言っていいほど入っています。

「プラス・マイナス」というとてつもなく面白い漫才コンビ。これからもまだ進化していくであろう漫才コンビ。それがもうなくなってしまう。しかも、こんな形でなくなってしまう。そこへのやるせなさがあふれていました。

ヤフーのオーサーコメントにも綴りましたが、僕も残念です。切ないです。もったいないと思います。それしかありません。

ただ、本人が決めたこと。選んだ道です。もう、致し方ありません。

今でも、個人的には無茶苦茶な道だと思います。

要らぬ迷惑をかけた人がいるなら、そこにはいつか謝ってもらいたい。

そして、勢いのまま綴ってしまった部分があるなら、その反動でいつか本人が綴った時の勢いの何倍も後悔をすることも予想される。その日のことも心配です。

でも、本人が選んだ道ですから、そこに一つでも幸多きことを願うしか今はありません。

本当にそれしかありませんが、岩橋さんに普通よりは近い距離でいた一人の記者として、これまでの取材メモをもとに、僕自身が経験したことを下記の文章として綴っておきます。

ほんまもん。

あらゆる才能が渦巻くお笑いの世界において、他を圧倒する要素の一つがこれです。

果てしない天然。根っからのひねくれ。規格外のアホ。どれも、かわいげというパートナーさえ伴っていれば、全てが強力な武器になります。僕が見てきた中で、このほんまもんという言葉が最も当てはまるのが「プラス・マイナス」の岩橋良昌さんです。

狂人を演じるタイガージェットシンではなく、内面からにじみ出る狂気。「やってはいけないことをやってしまうノリ」ではなく「本当にやってはいけないことをやってしまう」。それが岩橋さんです。

そして、その狂気にはフェロモンのような人を引き付ける要素がある。そんな奇跡の配合がなされている。そこを痛感します。

2012年に東京を拠点にするまではよく飲みに行きました。ほんまもんと飲みに行く=何かが起こる。ワクワクドキドキが常にマックスの酒でした。そして、実際にいろいろなことがありました。

今に比べれば大らかな時代です。ある日、とある岩橋さんの先輩既婚芸人さん、その芸人さんが当時仲良くしていた女性、岩橋さん、僕というメンバーで飲みに行きました。行きつけのお店でしこたま美味しいものを食べ、お酒も良い具合にあおり、2軒目としてカラオケに行きました。実に良い空気で、みんな上機嫌。カラオケの部屋に入った時点で、既にもう20曲くらい歌ったかのような盛り上がりの空気が出来上がっています。

歌がうまいことでも知られる岩橋さんだけに、先輩芸人さんも「岩橋、何か盛り上がるような曲を頼むわ」とマイクを渡します。どの曲を選んだとしても、みんな拳を振り上げる準備はできていました。ただ、画面に映ったタイトルを見て、空気が一変しました。

「愛人」

テレサテン

何を歌ってもいい。ただ、唯一その場にはそぐわない歌をチョイスする。先輩も女性も苦笑いです。

女性がおあいそでロボットのように手を叩いていますが、リズムとまるで合ってません。無論、インターホンがあるのですが、僕はもう耐えられなくなってカウンターまで口頭でドリンクを注文しに行きました。

また、別の機会には岩橋さん、岩橋さんと僕の共通の友人、僕の3人で飲みに行きました。

気の合うメンバーなので酒もグイグイ進み、3軒目として行きつけの韓国料理屋さんに行きつきました。バーのように少し落ち着いた照明のお店なので、これまでの勢いたっぷりの飲み方から打って変わり、少しまじめな話になりました。

今後の「プラス・マイナス」の方向性。岩橋さんの芸人としての立ち位置。当時はまだデイリースポーツの記者だった僕なりに思うことを話させてもらいました。

「プラス・マイナス」の強みは何と言っても漫才。テレビで売れるだけが正解ではない。劇場を守る芸人になるのも立派な姿。2人にはそこになれるだけのポテンシャルがあると思う。

お酒の力もあって、普段しないようなまじめな話をさせてもらいました。芸人さんでもなんでもない立場の者が出すぎたマネをする。僕はそれが大嫌いです。なので、この日の話はかなり自分の中ではオーバーランしている話だとも思ったのですが、それでも言っておきたかったので馬力を込めて言葉を紡いでみました。

岩橋さんは口を挟むわけでもなく、ジッと黙ってこちらの顔を真剣に見つめています。薄暗い店内の照明がそう映しているのかもしれませんが、目が多少キラキラと潤んでいるようにも見えました。

前向きに心に沁みわたってくれているなら、分を超えてまで話して良かった。そうケリをつけようと思った瞬間、岩橋さんが口を開きました。

「すみません、今の話、もう一回最初からしてもらっていいですか?」

ここにきて“人が真剣に話をしている時に相手の話を聞かない”というクセが出たとこのことでした。

礼儀知らずと紙一重にもなるが、それでも言葉では表現しにくい“放っておけないかわいらしさ”があり、多くの先輩から可愛がられている。

番組企画で何時間もかけて並べたドミノを蹴り倒してしまう。

トーク番組で先輩芸人がオチを話そうとした瞬間に奇声を上げる。

漫才ではツッコミなのに相方がボケてもつっこまない。

不躾と紙一重なのかもしれませんが、僕の知る限り、クセの爆発の後にはさらに大きな笑いの爆発がやってくる。

「なにしとんねん!」「ムチャクチャやな」そんな言葉とともに、全てハッピーに転化する。それが岩橋さんの才能なのだと心底思います。

ただ、これは一方的な見方でもあります。本人はクセに悩まされ、本気で苦労をしてきた。それが時間と努力によって醸成されてはきましたが、根底には苦しみもある。そこの苦悩を尋ねたこともありました。過去に聞いた話を再掲します。

「最初にクセを意識したのは小学2年の時。突然、授業中に『ウワーッ!』と叫びたくなったんです。思いが抑えきれなくなって、実際に声をあげた。当然、先生から注意を受けました。ただ、そこで『次、言ったらもっと怒られる。でも、でも、言いたい…』という思いがこみ上げてきたんです。それがクセを初めて実感した時でした」

「それからも、テストの時に鉛筆の芯を全部折る。解答用紙に違う名前を書く。マークシートを“悪い例”の塗り方で塗っていくといったクセが学校生活のあらゆるところに出てくるようになりました。

大切なところでこそ、クセが出てしまう。本当に悩みました。芸人になってからも、相方の兼光(貴史)にすらクセのことは隠してきました。でも、デビュー3~4年の時に転機が訪れたんです。

同期の『ジャルジャル』のイベントがあって、そこでもクセが出て、ちゃんとしゃべらないといけないのに、誰が聞いてもウソやと分かるような話をしてしまったんです。そこで『ジャルジャル』が『絶対ウソやろ!どんな顔で聞いたらエエねん!』と突っ込んでくれて、会場がドーンと沸いたんです。

その瞬間、衝撃が走ったと言いますか。今まで絶対に表に出さなかったものが爆笑に変わった。『これは、出してもいいものなのか…』と。初めての感情でした」

「これは本当に感謝するしかないんですけど、クセを笑いにする。ここで相方・兼光の存在がとてつもなく大きかった。もし、クセで漫才がグチャッとなっても『それはそれで面白いやないか』と本気で、心から言ってくれる。本来、絶対に守るべき、一番大切なところに、クセが影響したとしても、それはそれでいい。いわば、究極のクッションを作ってくれているので、今は本当に自然体でやらせてもらっています。万事、あるがまま。これが、全て自分やし、これ以上でもこれ以下でもない。本当にそう思うようになりました」

「“もしも”なんて存在しない。『今日、あんなクセを出さなかったら、どうなってたんやろ…』『そもそも、クセなんてものがなかったら、どうだったんだろう』と思うこともありました。でも、結局、現実は1パターンしかない。実際に起こったことだけ。そこで『もしも』なんてことを考えて、負のスパイラルに入っていくこと自体がナンセンスなんだと。やっと、そう考えられるようにもなりました。

隠して、隠して、何なら死んでしまいたいくらいイヤだったクセを武器にできる。こんな流れを作ってくださった周りの方々とお笑いの世界に、ただただ、感謝するしかないです」

我が取材メモながら、改めて綴ってみると、心に染み入る言葉ばかりです。

どこかで、なんとか止められなかったのか。

それも思いますが、今、起こっていることが全てです。

ただ、お笑いの世界は本当にやさしい。どこかで笑いになれば、全てが許される。そんなとんでもない修復力も持っています。

今は文字にすることすらふさわしくないかもしれませんが、またいつか岩橋さんの横に兼光さんがいる。そして、その前のお客さんが笑っている。そんな日を願うことすら許されないほど、遊びがない世界だとは思いたくありません。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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