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ゴジラ最新作でメガホン。山崎貴監督が語る技術が進む中での矜持

中西正男芸能記者
ゴジラ最新作でメガホンをとった山崎貴監督

 ゴジラ70周年記念作品「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」(11月3日公開)で監督、脚本、VFXを務めている山崎貴さん(59)。これまで「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」など観る者を驚かせる映像を作り続けてきましたが、誰もが簡単に動画制作ができる時代で抱く矜持とは。

技術の普遍化

 自分は昭和とか、戦争の風景とセットでゴジラを見てきたものですから、今回もその時代じゃないとしっくりこないという感覚があって、戦後の日本という設定にしました。

 戦争で何もかも失った人間がどうやってゴジラと戦うのか。そこにある知恵と勇気。それを見せたかったという思いもあります。

 そのためには当時の空気を感じてもらう。そこにゴジラが出てきた絶望感も体感してもらう。そんな力のある映像を作る。それをもちろん心がけたんですけど、今は技術の進歩で、誰でも簡単に映像制作ができる時代にもなっています。

 かつて、絵の具は非常に高価なもので、宮廷画家のような特別な人にしか使えないものでもありました。それが今は誰でも使えるようになっています。道具として民主化されました。ただ、誰もが絵の具を使える状況になっても、絵を描くとなると、その中でもセンスがある人とそうでない人がいるわけです。

 今はCGなどの技術が誰でも使える時代になっているわけですけど、当然、そこにもセンスの有無が色濃く出てきます。才能のある人は学生時代から目を見張るようなものを作ってますし、誰でも使える時代になったからこそ、才能が見つけやすくなった。こちらからすると“一本釣り”しやすくなった感はありますね。実際、SNSなんかでメッセージを送ってリクルーティングもしてますし。

 さらに言うと、今までだったらかなり頑張らないとそういった技術に触れられなかったところ「近くにあったから、たまたまやってみた」という人が才能を開花させることもありますし。

 なので、これはリアルに感じているんですけど、若手の台頭がすごいです。生まれた時からそういう技術に触れている、いわゆるデジタルネイティブという人たちが年齢的に戦力になってきているのが今。そういう人たちは、息を吸うように最新技術を扱ってますから。

 そんな人たちですから、僕も負けないように必死です(笑)。「入口としては山崎さんのところでやり始めたけど、自分でやった方が刺激的で面白いよな」と思われないように。

 今はね、技術的にはほぼ何でもできるんです。「こんな映像を作りたい」と思っても、以前はそんな映像は作れないとか、作るにしてもお金がかかるというハードルがありました。

 だから「できる中でどう作るのが効果的なのか」を考えたわけです。でも、今は技術的な壁がなくなっている。となると、これはもう純粋に想像力の勝負になってくるわけです。

 自分が若い頃のことを考えると、僕は伊丹十三さんの現場しかほぼ知らずに仕事をやってきました。ただ、今から思うと、伊丹さんの若手に対する向き合い方は本当に素晴らしかったと思います。

 全くの新人の僕に対しても「こういうシーンを撮ろうと思うんだけど、これって、どんな手があるんだろう」と真摯に聞いてこられるんです。対等に聞いてくださる。それに対して、こちらも必死に考える。その力が今に役立っていることは間違いないと思います。

 あと、社会的な問題を描くにしても、エンターテインメント性がないと拡散しない。それも学びました。僕なんかはそこまで政治的な映画を撮ってるわけじゃないですけど、やっぱりまずは多くの人に見ようと思ってもらわないと、面白いと思ってもらわないと、伝わらない。その考えは教えとして宿っていると思います。

目の当たりにする

 基本的に、この仕事は何かしらオファーや相談がないと成立しません。なので、お声がけに導かれるように仕事をやってきましたけど、それでも自分が歩いてきた道を振り返ってみると、一つ、大きなテーマとして戦争というのはあるのかなと今になって思います。

 というのは、僕らくらいが戦争を体験した人の話を直接聞いている最後の世代になっていると思うんです。

 「目の当たりにしてもらう」。これが一つ映画が持っている大きな役割だと僕は思うんです。

 戦争は悲惨なもの。それを文字ではなく、映像を通じて疑似体験させる。それこそが映画の力だと思いますし、映像とはいえ「目の当たりにする」と感じ方が違ってくる。

 それは映画を撮るという仕事の醍醐味だと思いますし、できれば一つでも多く映画が撮れればと思います。

 そのためには自分の体がきちんと動いてくれないといけない。そんなことを思う歳にもなってきたので、最近ピラティスを始めました(笑)。内側の筋肉を鍛えることによって姿勢も良くなるし、体を整えておくことで、少しでも長く映画が撮れればなと。

 結局、何をやってても、そこに行きつく話なんですけどね。そのために、日々汗を流しています(笑)。

(撮影・中西正男)

■山崎貴(やまざき・たかし)

1964年6月12日生まれ。長野県出身。映画監督、脚本家、VFX制作者。86年に株式会社白組に入社。「大病人」「静かな生活」など伊丹十三監督作品でSFXやデジタル合成を担当する。2000年に「ジュブナイル」で映画監督デビュー。05年に「ALWAYS 三丁目の夕日」で日本アカデミー賞監督賞などを受賞。ゴジラ70周年記念作品「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」(11月3日公開)で監督、脚本、VFXを務めている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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