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ジャニーズ事務所の会見を経て、一人の芸能記者として思うこと

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

ジャニー喜多川氏の性加害問題に関するジャニーズ事務所の会見が7日、行われました。

4時間以上に渡る長い会見だったものの、全体的に「なぜ、今、会見を開いたのだろうか」という疑問を随所に感じました。

会見というものは、やるもやらないも、全て当事者が決めることです。ただ「やらないわけにはいかない」「やったほうが理解を得られる」「リカバリーが図りやすい」などの“得”なポイントがあるからこそやるわけです。

そして、いつやるのか。これも決まった規則があるわけではありません。一般論として会見は早いほうがいいとよく言われはしますが、早ければいいというものでもありません。

会見とは何のためにあるのか。不祥事からの会見でやるべきことは二つしかありません。“謝罪”と“説明”です。これ以外の要素が入ると、必ず失敗します。

まず、誰に対して何を謝るのか。ここのブレをなくし、的確に謝罪する。

あとは説明です。多くの人が「ここはどうなっているんだ」「なぜ、こんなことになったんだ」「これからどうするんだ」と思うであろうポイントに一つ一つ“納得”の旗を立てていく。

「そこまでして調査をしたのか」「そこまでして膿を絞り出したのか」「そこまでして身を切った改善策を打ち出したのか」。見ている人の意識を会見前と会見後でガラッと変える。それが会見の理想形です。

この「そこまでして」を作る方法は一つしかありません。覚悟です。「いくらなんでも、そこまではしなくても…」。そう見る側に思わせたら、その会見は成功と言えます。

ジュリー前社長が会見冒頭で真正面から事実を認めて謝った。ここは一つの覚悟だったと思います。もうこれでグレーではなく完全にクロになった。となると、今後、何をするにしても“ウワサ”ではなく正味の話になります。この意味は極めて大きい。周りも“そういうことがあった会社”として付き合うことが求められます。

そして、東山さんがタレントを引退し社長としてこの問題と一生向き合うと言ったこと。これも、無論、大きな覚悟だと思います。「夢や希望を握りつぶされた彼らと、夢をあきらめた僕。しっかり対話する」。この言葉に、自ずと説得力が宿ります。

ただ、4時間超の会見で問題の本質に迫る覚悟を見たのはこの二つだけだったと僕は感じました。

①ジャニー喜多川氏の性加害の事実認定をするのか。

②新体制のカタチとは。

③同族経営をどうしていくのか。ジュリー社長の今後は。

④被害者への補償をどうしていくのか。

⑤「ジャニーズ」の名称をどうするのか。

今回の会見に向け、多くの人が関心を持っていたポイントは五つだったと考えます。

まず①に関してはジュリー前社長が冒頭で認めました。

②に関しては新社長である東山さんが引退という言葉で一つの覚悟は示しました。

ただ、それ以降のところで「そこまでして」という覚悟が見えづらかった。少なくとも、記者から絶対に出るであろう「ジュリー氏が株を100%持っているという状況をどうしていくのか」「補償の具体的な方法は」「社名をどうするのか」という部分の回答に「そこまでして」という感覚を覚えた人は少なかったのではと思います。

無論、簡単なことではない。今の段階では何とも言い難い。そんなことが多分にあることくらい、多くの人が理解はできると思います。

ただ、そこに対する具体的な方策を伝えるのが会見の意義です。そして、それこそが今後へのカギにもなる。それが定まっていないなら、会見をやるべきではない。一回しか立てない勝負のリングに、準備不足の体のまま上がるようなものです。

先送りにすればするほど不利にはなるものの、試合の日は自分で決められます。それならば、多少ズラしてでも試合に対応できる体を作る。それが得策だとも思います。

そんな中、東山さんがジャニー氏に対して「愛情はない」「人類史上、最も愚かな事件」「鬼畜の所業」などと厳しい言葉を使う場面もありました。

その言葉の強さが「ジャニー氏に対して今の自分はこう思っているので、身を切る思いで『ジャニーズ』という社名を変えました」と本質につながっていくなら、言葉としての力もあったのかもしれません。でも、そこが結びついてないならば、それが心からの言葉であったとしても派手な“見せ技”になってしまう。ジャニー氏との決別を宣言しつつ、現時点ではそうはなっていない。そんなチグハグさを生んでしまうのだと思います。

会見の中でも、感極まった様子でジュリー前社長が語っていたのは現役タレントへの思いでした。タレントを守る。これはどんな状況であったとしても芸能事務所の大きな仕事です。

それを考えるならば、まずは会見で責任ある立場の人が「そこまでしなくても」と周りに思わせるくらいの覚悟を見せる。それがタレントを守る第一歩になると思うのですが、その防波堤の高さがどうだったのか。そこも強く感じました。

ジャニーズ事務所は日本屈指の芸能事務所であり、アイドルを扱うという業務内容もあいまって多くの熱心なファンと向き合ってきました。

ファンを大切にする。ファンの気持ちに寄り添う。ファンを慮る。

それを何より大切にしてきた事務所だとも思いますが、これまでとは違う踏み込みが、もう必須の段階になっている。それを痛感した4時間でもありました。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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