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中田敦彦さんの「松本人志氏への提言」から考える芸人さんにとっての“偉さ”

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

5月29日にお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦さんが自身のYouTubeチャンネルで「【松本人志氏への提言】審査員という権力」と題した動画をアップしたことが話題になっています。

先月行われた漫才の賞レース「THE SECOND」の話から入り、同大会でも松本さんがアンバサダーを務めていた。そして「M-1グランプリ」「キングオブコント」でも審査員をしている。これでは松本さんが「面白い」と言った笑いだけが正解になる。「他の業界だったら信じられないぐらいの独占状態」というのが動画の骨子でした。

これに対して、松本さん本人、中田さんの相方である藤森慎吾さんらもSNSなどで反応し、より波紋が広がっています。

やれ中田派だ、松本派だというような表層的なことではなく、お笑いを至近距離から25年取材している者として、今回の流れで強く再認識したことを綴っておきたいと思います。

まず、現状として、やっぱり松本さんの影響力はすさまじい。これは間違いないことです。

日々、あらゆる芸人さんと話していても、多くの芸人さんがお笑いの世界を目指したきっかけは「ダウンタウン」。ナチュラルにその形を作ってきた松本さんはすごいとしか言いようがありません。

そして、今回の中田さんからの提言。そこからの余波。それを見ていて頭に浮かんできたのが“格”と“偉さ”というワードでした。

芸人さんにとって非常に大切なもの。それは“格”です。

例えば「オール阪神・巨人」さんが体調不良でなんばグランド花月の出番を休むことになった。誰を代役に立てるのか。ここで出てくるのが“格”です。

圧倒的集客力を誇り、華のある人気コンビ「EXIT」が出てきても、これは“格”が違う。「ザ・ぼんち」のお二人ならどうか。「西川のりお・上方よしお」ならどうか。桂文珍さんならどうか。そういう判断になっていきます。

劇場の出番順にも細かい序列があり、相撲の番付のように可視化はされていないが、確実に“格”があり、それを上げることは非常に大切なことです。

今から20年ほど前は、吉本興業のタレントプロフィールが分厚い辞書くらいの本として定期的に関係者に配られていました。

表紙をめくって最初に写真が載っているのが笑福亭仁鶴さん。その次が西川きよしさん。さらに桂三枝(現・文枝)さん。そこから大御所さんが続き、ベテラン、中堅、若手になるほど写真の大きさが小さくなっていき、そこには明確な“格”の差が表れていました。

現役選手としてやっている以上、賞を取って、たくさんお客さんを入れて、テレビで人気者になって、結果的に“格”を上げる。これは非常に大切なことです。

ただ、それと同様、多くの芸人さんが異口同音に言っているのが「偉くなったらアカン」ということです。“格”は上げても“偉さ”は要らない。なぜなら、偉くなることは笑いにとって邪魔だからです。

フリとして偉そうに振る舞うのはネタの範疇なので、無論アリなのでしょうが、リアルに偉くなってしまうと笑ってもらいにくい。権威に対するアンチテーゼという立ち位置も持っている芸人さんが権威になってはいけない。その考えも根底にあると思います。

漫才コンビ「トミーズ」は上方漫才大賞も、上方お笑い大賞も受賞し、劇場でもトリを任せられる存在です。非常に“格”は高い。

ただ、メンバーの健さんは64歳になった今も若手から「おい!健」とイジられ「誰が健やねん!オレ、『ダウンタウン』と同期やねんぞ!」とポップに返してらっしゃいます。ここに“格”と“偉さ”のバランスが端的に表れていると思います。

そして、これは芸能記者として取材する中で感じることですが、当然というか、松本さんも“偉く”なろうと思っているはずがない。

ただ、松本人志としての職責を全うしているうちに、今回のような指摘を受けることになっていた。それが今回の核だと僕は思っています。

中田さんが言っている「独占状態」という言葉。そして、松本さんが評価した笑いだけが認められる構図という話も一般的な話の筋としてはよく分かる話です。

ただ、お笑いの世界は清々しいほど、爽やかなほど、そして、残酷なほどの実力社会です。強い者が勝ちます。

時代の流れなどで強くても世に出られない人もいますが、世に出ている人は少なくとも強い。強くないと周りが納得しない。納得しないと売れ続けることはできない。そのシステムがシビアに日々働いているのがお笑いの世界です。

プロ野球のように数字が出ない世界なので分かりづらくもありますが、プロ野球で考えると「あの人だけ、ホームラン王、首位打者、打点王を独占するなんてズルい」とは言われません。それと同様、もしくはそれ以上に「独占状態」が起こっても仕方がないのがお笑いの世界だと思います。

賞レースといってもテレビ番組です。それを立ち上げるにはスポンサーさんを始め、あらゆる関係者の皆さんの「その座組ならいける!」という同意が必要になります。そして、そこに出場する芸人さんたちの「この人に何か言われるなら仕方がない」という納得が求められます。さらには見ている人たちからの信頼感、人気も求められます。

それらを考えた時に、では、誰に出てもらうのか。シビアに、リアルに考えて、松本さん以上の人がいれば、当然その人にオファーがいくはずです。水が高いところから低いところへと流れるように、極めて自然な話としてそうなるはずです。ただ、そうはなっていない。それが現状です。

後進に道を譲る。それも美学ではありますが、本来は「AよりBのほうが強いからBが上に来る」。これがお笑いの世界の基本原則だと思っています。

昨年4月、吉本興業の創業110周年記念の特別公演「伝説の一日」がなんばグランド花月で行われました。そうそうたるメンバーが登場する中、トリを務めたのが「ダウンタウン」でした。

120周年の時に誰がトリを務めているのか。70歳手前になったお二人がまたトリを務めているのか。さすがに新たな存在がそこに立っているのか。

こればかりは神のみぞ知る領域だとも思いますが、そこに立っている人が強い人。この構図だけは変わらないと信じています。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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