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「解散しよう」の向こう側。「レインボー」が示すコンビの意味

中西正男芸能記者
「レインボー」のジャンボたかおさん(左)と池田直人さん

YouTubeチャンネル登録者数57万人などSNSでも存在感を示しているお笑いコンビ「レインボー」。ジャンボたかおさん(32)と池田直人さん(28)がそれぞれ別のコンビを経て2016年に結成しました。6月11日、12日には放送作家・鈴木おさむさんが手がける新システムの二部構成ライブも開催。次々と新たな領域に進む2人ですが、その歩みは解散というワードを踏みしめつつのものでした。

新型コロナ禍との向き合い

ジャンボ:コロナ禍でお客さんの前でネタをやる機会がグッと減りました。今はまたできるようになってもきたんですけど、それが普通ではないと思えるようになりましたし、できることはありがたいこと。その感覚を得られたのは、コロナ禍から学んだ一つなのかなと感じています。

そして、コロナ禍で取り組んだのがYouTubeでした。もともとあったコンビのチャンネルでコロナ禍ならではのリモートコントを開拓したり、これまでにない形を作ってみたり。停滞ではなく、むしろ新たな領域への扉を開くことができたのは、純粋に意味のあることだったと思います。

池田:テレビで10分のネタをやることはほぼありえないです。劇場でもそれだけの尺のものはないですしね。

でも、自分たちのYouTubeならそれもできる。もちろんコロナ禍は大変なことなんですけど、大変だけで終わっているわけにはいかない。そういう場所ができたという意味では何かを得ることができたのかなと思っています。

尺の長いコント以外にも、いろいろなことができる場なので、僕だったら美容のことをアップしてますし、ジャンボだったら食べることに関する内容をアップする。

何をやってもいい場となると、自ずと自分たちが得意なものを出せる。逆に、自分たちの得意なものは何なのか。そこを再認識する場にもなりましたね。

しかも、それを見ていただくことでこちらのカタチを認知してもらえる。出して、知ってもらって、また出して、さらに知ってもらって…という良いサイクルができていったようにも感じています。

ジャンボ:今回さらに新しいことというか、3年ほど前から番組でお世話になっている鈴木おさむさんにお話をいただいて、これまでにない形の二部構成ライブをさせてもらうことになりました。

これも一つの挑戦だと思いますし、あらゆる経験を積み重ねた先に見据えているのが全国をツアー的にまわれるコント師。そこだろうなと二人で話をしています。

そのためには賞レース、特に「キングオブコント」で結果を残すことは必須ですし、さらにその先になるのかもしれませんけど、コンビでラジオをすることも目指していて、なんとかそれらが実現できるよう積み重ねをしているところです。

「解散しよう」

ジャンボ:あと、これは本当に正直な話、昔から池田は本当に何でも器用にできる人間だったんで、何回も言ってきたんです。「お前は一人で売れることができるんだから、コンビは解散しよう」と。

今でも、例えばものまねという領域でも、池田がそこに特化して積み重ねをしていったら、一気にものまね界の新星になれる。それくらいのポテンシャルはあるとオレは思っていますしね。

池田:と言ってくれてますけど、僕は僕でジャンボの精神というか、そこに助けられているところがありますしね。

僕はなんだかんだ言って怖がりなんです。例えば、YouTubeで新しい企画、少し攻めた企画をやろうとなっても踏みとどまるんです。

でも、ジャンボは「よし、それでいこう!」と躊躇しない。その一歩を踏み出す精神が自分にはないので、その思いきりに救われているところもあるんです。

ジャンボ:踏み出すことに躊躇がないというのは、ある意味、自分の評価が下がるのを恐れないというか、そういうところに行きつくのかもしれませんね。

それでいうと、今はSNSも発達しているし、いろいろな承認欲求の満たし方ができる時代だとも思います。それと同時に、うまく満たすことができず悩むこともある。それが今のリアルかなと思うんです。

オレは芸人ですし、より一層、そこが強い人間でもありました。「これだけ自分はできているんだから、みんな見てくれ!」みたいな感じで。

ただ「空気階段」の鈴木もぐらさんと出会う中で、価値観がガラッと変わっていきました。というのは、もぐらさんは承認欲求が全くないんです。

例えば、著名なアーティストの方と仲良しだったりもするんですけど、そんなことをひけらかすことどころか、誰にもそんな話を言わない。コンビのネタ作りに関しても、自分が作っていても「オレが作っている」とは言わない。「良く見られたい」「大きく見せたい」という感覚が本当にないんです。

なぜそれがないのか。本当に不思議だったので、真正面からお尋ねしたことがあるんです。

そこでおっしゃったのが「オレは自分のことを一番下だと思ってるから」ということでした。

「ずっと金もないし、だらしないし、もともと自分はダメなヤツ。だから『自分はできる』という感覚もないし、ましてや『できる自分を見てくれ』という感覚なんて全くない」

もぐらさんいわく、だからこそ、焦ることも、悩むこともないと。でも、もちろん「キングオブコント」をはじめ結果を残してらっしゃるわけで、だったら、もぐらさんより圧倒的に結果を残せていない僕が承認欲求なんておこがましい。そう思うようになっていったんです。

ただ、そうやって、ある意味後天的にそのパーツをつけたとしても、すぐにはなじまず「でも、オレもこれだけできるんだ」と思うこともあります。ただ、その時はもぐらさんの言葉を思い出す。そうすると、変な焦りもなくなり、気持ちが落ち着くようになりました。

前までは同世代への嫉妬がえげつなくて、テレビ番組もあまり見ることができなかったんです。見てると嫉妬が湧き上がってくるので。

でも、もぐらさんの言葉を聞いてから、周りのすごさは認めた上で、自分も頑張ろう。そのメンタルを持てるようにはなったと思います。

池田:感銘を受けた言葉でいうと僕もあって、ネタ作りに関することなんですけど、ネタを書く作業は0から1を生み出すものでもあります。

だから、なかなか覚悟がいるというか、どのきっかけでその作業をやりだすか。実はそこが僕にとって難しいところでもあったんです。

そこに悩んでいたら声をかけてもらったんです。

「お前は何が好きなんや?映画か。それやったら、一本映画を見たら必ずそのインスピレーションをもとにネタを作る。その流れを決めてしまうのも、きっかけの一つになると思うよ」と。ひょっこりはんに。

ジャンボ:…いやいや、オチみたいに言うなよ。仮に言葉が刺さったんなら、余計にオチみたいに使うなよ(笑)。

池田:ひょっこりはんはNSCの同期なんですけど、まだひょっこりはんになる前、漫才コンビのツッコミをやっていた時代のひょっこりはんから言ってもらいました。当時のひょっこりはんの悩みがまたすごくて「ボケがありすぎる」と(笑)。

ジャンボ:確かに、そのワードはすごいけど…。

池田:でも、そのアドバイスはネタ作りにおいて本当にありがたいものでしたし、確かに映画を見た後は何かしら思いが残っていますからね。

そうやってあらゆるありがたい流れを糧に、まずは何としても「キングオブコント」優勝。そして、さらに奥にある目標も実現していけるよう、コンビで頑張りたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■レインボー

1993年9月19日生まれで大阪府出身の池田直人と89年6月25日生まれで千葉県出身のジャンボたかお(旧芸名および本名、実方孝生)がそれぞれ別のコンビを経て2016年に「レインボー」を結成。ともにNSC東京校18期生。ネタはコントが中心で池田が女性役を演じることが多い。2018年1月に放送された日本テレビ「ぐるナイ おもしろ荘 若手にチャンスを頂戴 今年も誰か売れてSP」で優勝。放送作家・鈴木おさむ氏が構成を務めたライブを6月11日、12日と東京・よしもと有楽町シアターで開催。「レインボー」の代名詞とも言える“恋愛ネタ”を発展させた「スーパーロマンティック」と、ロマンチック以外で展開する「ノットロマンティック」の2部構成になっている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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