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麻木久仁子が明かす「もうこれで終わりかな…」から一歩を踏み出す意味

中西正男芸能記者
新型コロナ禍での思い、そして仕事への思いを語る麻木久仁子さん

 タレント、キャスター、クイズ番組の解答者と幅広く活動する麻木久仁子さん(58)。2010年に脳梗塞、12年には初期の乳がんが見つかり、自らの体と対話する中で見出したのが薬膳でした。現在では薬膳の知識を生かした執筆、講演など幅広く活動し、YouTubeチャンネル「麻木久仁子の食べる温活~毎日元気でいたいから~」も開設。多岐にわたり発信を続けますが、来年の還暦を前に「一歩を踏み出す意味。それはいくつになっても変わらない」と言葉に力を込めました。

「もうこれで終わりかな…」

 新型コロナ禍で、実際に集まっていただくような講演はほぼできなくなってしまって、今はNHKのオンデマンド講座だとかリモート的にできるものを中心に薬膳のお話をさせてもらっています。

 昨年、コロナ禍でほとんどお仕事がなくなった時期もあって、正直「もう、これで終わりかな…」という思いにもなりました。

 ただ、本当にありがたいことにリモート講演や、本当に遅ればせながらなんですけどYouTubeも始めさせてもらってあらゆるものが変わっていきました。

 こういうことでもないと、恐らく私はYouTubeを始めることなんてなかっただろうし、今までのフェーズを変える良い機会にもなったかなとは思っています。思おうとしているというか(笑)。

 これまではタレントとして出役を担当してきて、他にも番組には演出のディレクターさんがいて、スタッフさんがいて、作家さんもいる中で、みんなで一つの番組を作る。いわば、いろいろなプロが集まって自分の持ち場を全うする中で一軒の家を建てるようなことをやってきました。

 ただ、YouTubeでは台本もないですし、テーマにする題材も自分で考えて、全部をパッパッとやっていく総合力というか、機動性みたいなものも求められる。それをやる中で、強く感じています。

YouTubeの副産物

 YouTubeを例に挙げると、とにかくね、一日中ずっと考えてますよ。「次はどんなテーマにしようかな」「そのテーマにするなら、使えるものは何があるか」みたいなことを何をしていても意識しています。

 テレビ番組の作り方みたいに、自分の守備範囲が決まっていてそこを全うするのではなく、全部ですからね。否応なく、視野が広がるというか。ずっときょろきょろしてます(笑)。

 この“ずっと考えている感覚”は、私が最初にキャスターになった時と同じだなとも思いました。当時の私は、ろくに新聞も読まないような状況でキャスターをさせてもらったので、とにかく情報や知識を入れなきゃと思って、新聞を読みまくったり、あらゆるものを吸収しにかかっていました。久々にその感覚だなと。

 今で言うと、あらゆるレシピを見たり、家で調味料や調理器具の実験をしたりしています。分からないことだらけだけど、だからこそ楽しくやってます。

 最初、薬膳に関心を持ったきっかけは自分の病気でした。要は、自分の内側からの発信だったんですけど、そこからコツコツやらせてもらっている中で、外側からの打診もいただくようになりました。

 「若い一人暮らし向けの人のレシピ提案はできますか」「子育て世代の方にフィットするレシピはありますか」といった具合に。自分のためではなく、誰かのためのこともできるようになった。それは本当にうれしい変化だとも思っています。

 「独身男性向けレシピ」なんてオファーがあったら、私とは全く違う人に合わせたレシピを考えることになるので、その方が楽しいんです。やっぱり、ガッツリ食べられるものの方がいいんだろうな。家のコンロは一つだけかな。食費はどれくらいで考えているのかな。そんなことを考えるのが刺激にもなるんですよね。

 11月の誕生日が来たら59歳ですからね。もう来年で還暦ですよ(笑)。還暦を見据えてさらにフェーズを変えようとすると、もう助走を始めないといけない。だからこそ、YouTubeもそうだし、薬膳の世界もそうだし、若い仲間と一緒に新しいことをやるのはこの上なく刺激的だと感じてもいます。

 タレントなんてのは生涯現役というやつで、出世するわけでもなく、ふと気づくとスタッフ全員年下という状況になってるような商売です。

 でも、病気がきっかけで期せずしてでしたけど、薬膳だとか新しい世界に足を踏み入れると、そちらの世界では私が明らかに後輩になるわけです。そこからのYouTubeもそうだし、気づいたら、実は新しいことを始めてるんですよね。

 年齢とかキャリアに無駄にこだわらず、郷に入っては郷に従えで、新しい世界を吸収する。ましてや来年で還暦、また暦がまわるんだったら「赤ちゃんから始めるぜ!」くらいの勢いでゼロからやる。それが楽しいなとも思っているんです。

 そう考えるとね、たまにバラエティー番組に呼んでもらったりしても、本当に楽しいんですよ。若い人から容赦なくつっこまれるのも楽しいし、いろいろなモノの見え方が違ってきて、それはそれでまた新たな刺激を受けるんです。

 自分の考え方を柔軟にしていれば、いくつになって面白い人と知り合える。それは痛感しています。薬膳でも、YouTubeでも、今やっている書評サイトの「HONZ」でも、みんな年齢もバラバラだけどみんなフラットなんです。

 そういう場ではみんな私のことを芸名で呼ばない。そんな空間にいると、何と言うんでしょうかね。「還暦になるのも怖くねぇや」という気になってきます(笑)。

 要するに、歳を取る、衰える、消えていく、役割がなくなっていくというところに恐れを感じる。これは誰にでもあると思うんですけど、自分の意識と考え方次第で、そういうことにはならない。

 刺激は自分が気づこうとしないと気づかないもの。でも、こちらが気づこうとすると、いくらでもある。面白いことはいくらでもあるんだなと。

自分で決めるのではなく

 これは私の感覚ですけど、60代以降どうやって人生を開いていくかを考えた時にカギになるのが“知らないことをやってみる”だと思います。

 これはタレントとしてこれまでも感じてきた部分だったんですけど、自分が何者かを決めるのは自分ではない。自分で決めちゃうと、もうそこで固定されちゃうんですけど、新たな部分を人が見つけてくれると感じてきました。

 自分では「え?これ、私に向いてるかな…」と思うオファーも基本的にはお受けしてやってきました。

 キャスターをやろうなんて野心も全くなかったですし、クイズも得意なつもりもなかったですし。でも「やってみて」と言ってくださる方がいたので、やってみた。自分が何者なのかを周りが見つけてくださる。これは強く感じてきましたし、これからもあるんだろうなとも思っています。

 もちろん「私はこれをやるんだ!」という強い意志を持って金メダルを取る人もいます。ただ、私みたいな凡人は人に見つけてもらったり、人に引っ張ってもらった方が楽しいことに出合えるかなと思うんです。

 薬膳やYouTubeをやる中で、若い人ともフラットにお付き合いができるようになっていて、そこでも「私、こういうところ、ものすごく柔軟じゃん!」という発見もいただいてます(笑)。一歩踏み出すことの意味。それはいくつになっても変わらないと思いますし、まさに今私が感じているものでもあるんです。

(撮影・中西正男)

■麻木久仁子(あさぎ・くにこ)

1962年11月12日生まれ。東京都出身。学習院大学法学部中退後、芸能活動を始め、モデルとしてサントリーのCMなどに出演。86年にはNHK「シャツの店」で女優デビューも果たす。90年代から「KOSE カウントダウン・ジャパン」「TVおじゃマンボウ」などで司会を務める。94年に結婚し長女が誕生するが、2006年に離婚。10年に軽い脳梗塞を患い、12年には初期の乳がんが発覚。病気の経験から健康を見つめなおし、16年に国際薬膳師の資格を取得。18年にはレシピ本「ゆらいだら、薬膳」を上梓した。薬膳の知識を生かした講演やレシピ考案なども展開。読書家としても知られ新聞などで書評も担当する。YouTubeチャンネル「麻木久仁子の食べる温活~毎日元気でいたいから~」で幅広くレシピを公開している。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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