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「それこそが私が生きた意味」。中国出身の女優・高陽子が語る名前に込められた思い

中西正男芸能記者
自らの名前に込められた思い、そして、使命について話す高陽子さん

 中国・上海で生まれ、大学教授のお父さんの仕事の関係で日本と中国を行き来しながら育った女優の高陽子さん(35)。現在は日本を主戦場に活動していますが、これまでの経歴を生かしテレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などでコメンテーターとしてもオファーを受けています。中国人ながら“陽子”という日本風の名前となった経緯。そして「名前に運命が引っ張られていると思います」とまで語る名前に込められた思いとは。

中国人であること

 生まれたのが上海で、6歳で日本に来たんです。日本語は一言も分からない状態で日本の小学校に入って、そこから中学校までは日本にいました。

 そのまま日本の高校に進学するつもりで、制服の採寸までやっていたんですけど、そこで再び中国に戻ることになったんです。

 というのは、思春期ならではの多感さというか、自分が中国人であることへの疑問を強く持ち始めていたということが大きく影響していたと思います。

 今でこそ、状況も変わりましたけど、1990年代は日本に中国人の子供がいるということが珍しくて、周りの子どもも悪気はないんでしょうけど、面白おかしくイジったりもする。私は、それがすごく刺さってしまうタイプの子だったんです。

 中国人であることがイヤでしょうがない。授業参観の時も、親に「中国語で話しかけないで」と言ってましたし、自己紹介する時も、なんとかして“陽子”という下の名前だけで済むような形をいろいろなパターン考えるくらい、中国人であることを拒んでいたんだと思います。

 そういう空気をもちろん親も察していたようで、このままでは良くないという判断から、私は女子高生になる気マンマンで、うかって制服の採寸までやったけど、中国のおじいちゃん、おばあちゃんのところに戻ることになったんです。

 今では中国語も日本語も本当にどちらも母国語として完全に五分というか、どちらが不得手ということもなくしゃべれますし、どちらが好きということもなく、感覚的には東京と千葉くらいの違いで(笑)、それぞれ違うところもあるけれど、どちらに違和感を覚えるということもない。

 そんな感覚で生きていられるのは、親の教育方針というか、中国にも日本にもどちらから離れることもなく五分で触れさせてもらってきたこれまでの時間のおかげだと思っています。

コンプレックスのおかげ

 そういった生活の中で、日本のドラマも見る。私の世代だと「ロングバケーション」(フジテレビ)とかですけど、そういった日本の流行のドラマ。そして、中国のドラマも見る。この2つを見比べた時に、私は日本のドラマに魅力を感じて、日本の芸能界に興味を持つようになっていったんです。

 そんな思いを持つ中、上海の高校を卒業する少し前にたまたま声をかけられて雑誌のモデル的なことをやり始めたんです。その頃から中国でも「CanCam」などの日系の雑誌が出始めて、そこでお仕事をいただくようになりまして。

 さらに、運よく日本を紹介する中国のテレビ番組が始まって、日本の温泉などを日本語でリポートしながら、テレビの中では中国語で視聴者の皆さんに伝えるという役割をさせてもらうようになり、そのまま芸能の仕事にシフトしていったという流れになりました。

 そこから大学を卒業する頃に日中合作の映画「チンゲンサイの夏休み」でヒロインも務めさせていただき、それが賞もいただくことになった。そこでこういうお仕事をさせてもらうのが自分が生きた証になるのではと思って、日本の芸能界でのお仕事をスタートさせていった。それがこれまでのお話です。

 ここまで続けられたのは、コンプレックスのおかげだと思います。これは、本当に「今となっては」という話なんですけど、先ほどもお伝えしたような小さな頃からの中国人であることへの思い。

 そして、中国に戻っても“陽子”という名前もあるし、日本で長く暮らしていたこともあるし、国籍も血も中国人なのに、少し違う見られ方をされる。

 「え?中国人なの?日本人なの?」と何万回と聞かれて、あらゆる思いを経て、それを個性だと思えるまでに時間はかかりましたけど、芸能の世界は“人と違うこと”がプラスになる。その仕事に巡り合えたのはすごく大きいと思います。ある意味、自分の在り方に迷っていた私を救ってくれたというか。人と違うことをイヤだと思うのではなく、私にしかできないことがあるはずだと思えたというか。

 その思いを作ってくれたのはこの名前だし、名前に運命が引っ張られると思うくらい、強い名前をつけてもらったと痛感しています。

“陽子”に込められた思い

 名前をつけてくれたのはおじいちゃんだったんですけど、親が仕事で日本にいたので、中国ではおじいちゃん、おばあちゃんに育てられたのもあって、日ごろの生活でもおじいちゃんの影響をすごく受けていたと思います。

 私が芸能の仕事をするのを一番喜んでくれたのもおじいちゃんなんですけど、少し重たい話になるかもしれませんけど、おじいちゃんのお父さん、私から見たらひいおじいちゃんは日中戦争の時、子どもだったおじいちゃんの目の前で日本兵にやられちゃったんです。

 戦争ですから仕方ないんですけど、そんな経験をしたおじいちゃんが大きくなって今度は自分が兵隊として戦争を経験する。その上で私に言っていたのが「戦争を恨んでも人を恨むな」ということだったんです。

 そして、自分の息子である私の父が大学院生として日本で学ぶことにも一切反対せず、その中で私が日本で暮らすことになることも見据えて、中国と日本の垣根なしに生きていってほしいという思いを込めて“陽子”という名づけたんです。

 去年から、清朝末期の日中交流を描く大きな中国ドラマにも参加させてもらっていたんですけど、その現場でもおじいちゃんの思いを知るというか、心が震える思いもしました。

 おじいちゃんが小さな私の前で歌っていた鼻歌があって、その頃はそんなに気にも留めていなかったんですけど、今回、ドラマの撮影をする中でその歌を聞いたんです。それは日本の軍歌だったんです。いわば敵国を応援し、鼓舞する歌を口ずさんでいた。

 おじいちゃんはもう亡くなってしまったんですけど、人は人。国は国。とことん、本質を見極められる人だったんだなと…。スピリチュアルみたいな話になるかもしれませんけど、いろいろなことを経て、本当に名前の通りに生きてるなと思っています。

10年後も、20年後も

 昨年からの新型コロナ禍の中、「―TVタックル」にも呼んでいただき中国の話をする機会もありました。

 中国について、自分が何かしらお話をするというのは本当にありがたい場だったんですけど、それと同時に、今の私が話すのと、もっと有名になってから話すのとでは伝わり方が違うということも、否応なく再認識しました。

 いつかそんなお仕事もできたらという思いはあったんですけど、時期尚早ながらせっかくいただいたチャンスだったので私が今伝えるべきだと思うことをお話しさせてもらったんですけど、普段はしないと決めているエゴサーチを一回だけしたら(笑)、「なんだこいつ」とか「中国に帰れ」という言葉もあって。

 きっと、もし有名になってもそれはあると思うんですけど、今のありのままの中国、いいこともあるし悪いところもある。イメージだけの形とは違うということをいいたかったんですけど、知名度が関係あるかどうかは分からないですけど、こういった思いは伝えたいし、これはずっと続けたいと思っている。それは本当に言葉の壁がない私がやる方が細かいニュアンスもそこの隔たりがなく言えるだろうし、そこは自分がやるべきことなのかなと。

 今の事務所に入らせてもらってから、マネージャーさんと10年後、20年後の話をするんです。自分としては、10年後も、20年後も、ちゃんと日本の芸能界、芝居の世界にいることを考えていますし、その先に見ているものもあります。

 私の生い立ちを「カッコイイ」と思ってくれる若い子が増えて、ナチュラルに「中国っていいな」と思ってくれる人が増えれば、この上なく幸せなことだなと。

 そのためにも、まずは10年後、日本の芸能界にいるだけでなく、きちんと活躍をしていたいと思いますし、そうなっておかないとダメだとも思っています。

 もし、また次に「―TVタックル」に出る機会をいただけた時に、エゴサーチをして一つでも良い感想を多くいただけるようにもなっておきたいですし(笑)。とにかく、あらゆる意味で活躍することは必要なことなので、一生懸命頑張りたいと思います。

(撮影・中西正男)

■高陽子(こう・ようこ)

1985年11月23日生まれ。中国・上海出身。ジャパン・ミュージックエンターテインメント所属。中国と日本を行き来する生活を送り、2011年に映画「チンゲンサイの夏休み」にヒロインとして出演し、女優としてのキャリアをスタートさせた。フジテレビ「さくらの親子丼2」などのドラマに出演し、19年には映画「新宿ゴールデン街~愛・哀」に主演。テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」など自らの経験を生かしてコメンテーターとしても存在感を見せている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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