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“ポスト稲川淳二”の最恐芸人、ありがとう・ぁみが語る恩返しと怪談の可能性

中西正男芸能記者
ポスト稲川淳二と言われるありがとう・ぁみ

 原作の怪談本「レイワの怪談」シリーズが子供向けホラー本部門でランキング上位を独占するなど“ 最恐芸人”とも呼ばれるお笑いコンビ「ありがとう」のぁみさん(38)。フジテレビ「ノンストップ!」などで怪談の第一人者・稲川淳二さんから後継者として名前を挙げられるなど、怪談界の寵児として注目されています。今月、新刊「レイワの怪談 十六夜の章」を上梓。着実に歩みを進めますが、その根底には、偉大なる先人への恩返しがありました。

キャンプでの怖い話

 もともと、怪談が好きになったのは子どもの頃だったんです。学校の図書室で本を読んだり、児童書を本屋さんで買ったり。好きになるきっかけがその頃だったので、今も子供向けの児童書を書きたいと思って出しているという部分は強いですね。

 多くの小学生がそうであるように、怪談を読んで楽しんでいたんですけど、自分の中で大きかったのは、地域の子供会のキャンプでした。友だちのお父さんが各テントを回って怖い話をしてたんです。テントごとに悲鳴を上げさせて笑って出て行くお父さんの姿を見て、小学生の僕には、それがすごくカッコよく映ったんです。

 怖いし、イヤだイヤだと言いながらも聞こうとして…という空間って、怪談じゃないと作れない。そんな独特の世界観にもひかれて、はまっていった感じです。

 それとね、怪談ってドラマだと思うんです。怖いだけじゃなくて、亡くなった家族に会えたりだとか、誰かに助けてもらったりだとか、そこに奥深さがあるなと。

 現代でも、例えばWi-Fiとか目には見えないけど存在しているものがあるじゃないですか。そういったものが理由で想像以上のことが起きる。それって、ロマンがある世界だなと思って、そのロマンを求めていろいろな怪談を集めだしたんです。

 最初は友達とか知り合いに聞く感じだったんですけど、今はSNSの時代なので、こちらが発信したら全国からメッセージが届きまして。一般の方が体験されたり、誰かから聞いた話を「良かったら、しゃべってください」という感じで送ってくださって。

「後ろにいる女」

 そうやって話を集めてはいるものの、どこか、怪談は話を聞くもの、本で読むものみたいに距離のあるものだったんです。

 それが、20歳くらいの時に、初めて心霊写真とおぼしきものを撮ったんです。仲の良い友達の横に見知らぬ顔が写って、また別の機会に写真を撮ったら、今度は僕の膝のところにその顔が出てくるということがあったんです。

 そこから僕の周りで、意味の分からないことがものすごく増えたんです。一人で車を運転しているのに、座っているシートを後ろから押されるだとか。

 また、別の日には、テレビ電話が初めて出てきた頃で、当時お付き合いしていた女性に電話をしてみたら「ちょっと、後ろにいる女、誰よ!」とブチぎれられたり。

 そんなことをテレビとかイベントでしゃべったら、いつの間にか、怪談が仕事のメインになっていったという感じです。お笑いの仕事よりも圧倒的に増えていきました(笑)。

「ぁみちゃんが一番いい」

 そんな中、ずっと「稲川淳二さんが大好きなんです」ということは言ってたんですけど、今から4年ほど前に新潟のテレビ番組で、とあるドッキリ企画を仕掛けられたんです。

 僕がスタッフさん全員を笑わせられたら番組出演決定!みたいなウソ企画で、スタッフさん一人一人を笑わせていくんですけど、最後の一人で登場するのが稲川さんだったんです。

 その瞬間、あらゆる感情があふれ出して、大泣きしてしまいまして。「神の前ではしゃべれません」と(笑)。ただ、そこで稲川さんとお話をさせていただく中で「今まで聞いた怪談の中で、ぁみちゃんが一番いい」と言っていただけたんです。

 そこからも、本当にありがたいことに、あらゆる番組で絶賛してくださいまして。3年ほど前に、フジテレビさんの「ノンストップ!」でも「今まで、自分のあとに続く人間は誰もいないと思っていたけど、それはぁみちゃんだと思う」と言っていただきました。本当に、本当に、大きな流れをいただきました。

 これは皆さんも感じてらっしゃると思いますけど、稲川さんは、とにかくものすごく優しいんです。そして、サービス精神が旺盛。元々は、工業デザイナーとしてグッドデザイン賞を受賞されるくらい、感性も研ぎ澄まされている方でもある。そういう優しい部分、そして丁寧な部分が怪談にも反映されているなというのはすごく感じます。

 稲川さんの怪談は情景描写だなと思うんです。情景が浮かんできて、そこから、人の温かみが伝わってくる。だからこそ、僕はだから全く逆というか、違う手法を取ってるんですけど、実況中継みたいに、聞いてくださっている方に事細かに説明することで自分の話の中を“歩いてもらう”。

恩返し

 僕が稲川さんとは違う話し方をするのは、勝手ながら、恩返しという思いもあるんです。稲川さん、そして稲川さんのみならず、これまで先人の皆さんが作ってくださった道があるから僕らがそこを歩かせてもらっている。

 だからこそ、その方々が作ってくださった道を歩くだけでなく、僕らが違う道を切り開かないと業界がより広がっていかないかなと。

 7年前から僕はYouTubeで怪談をアップするということを始めたんです。これまで話し手がYouTubeを本格的に始めるというのはなかった。というのも、そうやって誰もが見られる場に話をアップすると、話の消費にもなりますんで。

 ただ、これからの怪談を支えてくれるであろう小学生や中学生を取り込むのはYouTubeだと思いますし、それは大御所の方にやってもらうことではない。僕らの世代がやることだと思ってやり続けてきたんです。

 僕が道を歩かせてもらったように、僕は次の世代のために道を作る。それが、ひいては稲川さんへの恩返しにもなるのかなと思っているんです。

 これは僕の体感ですけど、例えば10年前と比べて、今は怪談がおどろおどろしかったり、ジメジメしたものではないという感覚が特に若い人たちにはできてきたと思います。

 もちろん、怖い部分もあるんだけど、もっと可能性が広がっているというか。面白がってもいい、面白がれるコンテンツになってきたかなと。

 怪談って、静かに、顔をこわばらせながら聞くようなイメージもありますし、それも楽しみ方ではあるんです。ただ、今、増えているのが、僕が怪談をさせてもらって、先輩の芸人さんがそこから面白い話をする。そういう面白系企画のフリとして怪談をさせてもらうことが多くなってきているんです。

 怪談をしゃべった後というのはね、これが、めちゃめちゃボケやすいんですよ(笑)。緊張と緩和で。そういう活用の仕方もありますし、まだまだ怪談の可能性はあるはずなんです。なんとかそこを開拓して、怪談の間口を広げられたらなと思っています。

(撮影・中西正男)

■ありがとう・ぁみ

1982年9月29日生まれ。山口県出身。NSC東京校10期生。本名・網本陽介。細野哲平とのお笑いコンビ「ありがとう」として活動。巧みな話術と精緻な描写を盛り込んだ怪談が話題となり、「稲川淳二の怪談グランプリ2016」優勝など数々の大会や番組で結果を残す。ポスト稲川淳二と言われ、稲川本人からもフジテレビ「ノンストップ!」などで「今まで聞いた中で一番うまい」と絶賛される。著書に「ありがとう・ぁみの學校奇譚」「怪談日記-怖い体験をしすぎて怪談家になってしまった芸人-」「レイワ怪談 半月の章」「レイワ怪談 新月の章」「レイワ怪談 三日月の章」などがある。最新刊「レイワ怪談 十六夜の章」も発売中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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