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「さらけ出せない」。ふかわりょうを解放した、書くという居場所

中西正男芸能記者
エッセイ集「世の中と足並みがそろわない」を上梓したふかわりょう

 TOKYO MXの情報番組「5時に夢中!」の司会を務めるふかわりょうさん(46)。11月17日に上梓したエッセイ集「世の中と足並みがそろわない」(新潮社)も発売当日に重版が決定し注目を集めています。次々と新たな一歩を踏み出していますが「書くことが『さらけ出せない』自分を解放してくれました」と胸の内をストレートに明かしました。

タモリの“浮力”

 今回、本を出すきっかけは新潮社さんからのオファーと言うと大げさなんですけど「書いてみませんか」というひと言でした。1月末にお話をいただきまして。

 僕自身、書くことは嫌いではなかったんです。だけど、書いてきた連載をまとめて本にするとかではなく、一から丸ごと一冊分を書くとなると不安もありました。

 ただ、とにかく書きやすいものから書いていきましょうと言っていただいて、4000文字くらいで、自分が思うことを書いていく。怖くないんだよと、よちよち歩きの赤ちゃんをいざなうように導いてもらって(笑)、一冊の本を作った感じです。

 書きやすい話からと言われて、最初に提出したのはタモリさんの話だったんです。「笑っていいとも!」(フジテレビ)でもお世話になりましたし、実体験に基づいた話なので、思いがあふれてきたので。

 本の中で、タモリさんのことについて“浮力”という言葉を使って書かせてもらってるんですけど、僕が関わらせてもらって、僕の距離で見てきた中で、どこにも力が入っていない。

 ご自身では力を抜くという意識すらないんでしょうけど、お蕎麦屋さんに行く時でも、生放送に行く時でも、どこに行くにも力が入っていない。その様が、僕には、まるで浮力の中で動いているように見えたんです。

 力を込めるよりも、力を抜く方が難しいじゃないですか。少しずつ力を抜いていって、どんどん力を削いでいく。そして、ゆくゆくは浮力の域を目指したい。僕にはそこまでは難しいかもしれないけど、できるだけ力の入っていない状態で画面に映れるようにする。それが理想だなと。

 そういう意味では、タモリさんという存在は尊敬の対象でもあり、目指すべき存在なんです。

 東京から少し離れたところで、タモリさんがお店をやっていらして。そこに何も言わず、突然お邪魔したことがあったんですけ、お店に入った瞬間「いらっしゃいませ!」と威勢の良い声が響いて。その声の主であるホールスタッフがタモリさんだったんです。

 「仕事こそ遊べ、遊びこそ真剣にやれ」みたいな考えがありますけど、タモリさんはそういうものを超越して、ただただ自然に向き合ってる。そんな感じがするんですよね。

 鉄道好きの人が“好きだから電車に乗る”。その感覚に近くて、好きだからそれをやる。どれが仕事で、どれが遊びでということなく。無論、これは簡単にできることではないですけど。

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 今回、タモリさんのことを本に書かせてもらうということで連絡をさせてもらったんです。

 僕の予想では、冗談交じりに「なんだよ~、書くなよ~(笑)」と言われるかなというイメージだったんですけど、予想とは全く違う答えが返ってきました。

 「書いてくれたのか、ありがとな」

 こんなに歳の離れた、タモリさんにとって何の得にもならないタレントのエッセイに書かれて「ありがとな」。ますます尊敬の度合いが増しました。深み、奥行きを見せてもらいました。

略すことへの抵抗感

 タモリさんについてお話をすることはあっても、文章にまとめたことはなかったんです。今までのいろいろな思いと向き合って、それを文章にしていく。その流れと感覚は、本を書いてみて得られた、非常に大きなものでした。

 芸風として、僕は自分や感情をさらけ出すタイプではなく、良く言えば、ポーカーフェイスというか。何を考えているのか分からないタイプなんだと思います。

 なので、どこか、小説にしても、演芸にせよ、エンターテインメントにしても、自分をさらけ出すことがすごく苦手だったんですね。さらけ出せない。そこに抵抗があって。

 ただ、今回文章を書く上で、自分なりにさらけ出し方が分かってきたというか。文章という形でのさらけ出しが、気持ち良くなってきた感覚はありましたね。

 例えば、こんなことも、これまではほとんど出さずにきたんですけど…、昔から“略す表現”にすごく抵抗があったんです。

 地名で言うと、三茶(三軒茶屋)とか二子玉(二子玉川)とかいう風に。「略すには、然るべき経験と時間が必要だ」という思いが自分の中での思いがあって、登場した矢先に略せる人が、ある種、憧れでもあり、ある種、軽蔑の対象でもあり。

 そういう部分をさらに掘り下げていくと、学生時代に何の抵抗もなく、女子を下の名前で呼べるヤツとか。そういうヤツがうらやましくもあり、なんだアイツという思いもあるという。

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 あと、最近は楽曲でも、何十万曲聞き放題とかいう触れ込みが多かったりもしますけど、この“放題”に対する抵抗感も強くて。

 それが僕にとってはサービスに思えないというか。僕の中では“括ってくれること”とか“絞ってくれること”に優しさやサービスがあると思っていて。何十万曲ってドンと出されても、結局、人は選べないということに直面してしまう。むしろ、そこを“絞る”というサービスを提供するのが優しさなのかなと。

 今も、実際、絞るサービスもあるんですけど、僕には「これを聞いている人は、これも聞いています」みたいに誘導されることへの本能的な拒絶があって。

 むしろ「これを聞いている人は、きっと人生では出会わないであろう曲」に出会わせてくれるのが本当のサービスじゃないかなと。

 こういう領域って「すべらない話」でする話でもないし(笑)、なかなか出すところがなかったんです。でも、事実として、僕が心底思っていることだし。このエッセイを書いてみて、それの出しどころ、出し方が見つかったような気がしました。

書くという居場所

 この本を書いてなかったら、タイトルにもなっている“足並みがそろわない”という言葉も出てこなかったと思うんです。

 モヤモヤとしたものを抱えながらきて、本を書くことで「そういう人生だったんだ」と客観視できた。そして、改めて、世の中との隔たりを常に感じてきた人生だったなと思いました。

 その隔たりを享受まではいかないんでしょうけど、受け入れる。悲観するわけでもなく、喜ぶわけでもなく「こういうものだ」ととらえるようになりました。

 今はたまたまこの職業に就いてますから、人と合わないことがプラスに働くことも少なくないだろうし。そして、46歳まで来ちゃうと、逆に足並みがそろうことが怖くなってしまうという感覚も出てきましたしね(笑)。

 あともう一つ、すごく強く感じたのは、音楽とか文章に自分の居場所を見出しているということでした。今、新型コロナ禍で人付き合いが希薄になってもいますし、その中で居場所という意識がより強くなったのかもしれません。

 最初、僕の中では4000文字の文章を一つ書くだけでも結構な覚悟が要ることだったんです。ただ、書くうちに、何となく文字との向き合い方ができてきて、それが楽しくなってきた。なので、当初は「1カ月に1本くらいの感じで書きましょうか」と言われてたんですけど、結果的には3カ月で20項目を書き上げてました。

 …なんだか、カッコつけて自己分析してるみたいな感じになりましたけど、よく考えたら、僕の場合、コロナだろうが何だろうが、もともと人付き合いは希薄でしたね(笑)。居場所云々なんて話をもっともらしくしてましたけど、結局、本を書くのが純粋に楽しかっただけで。無用な見栄をすみません…。

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(撮影・中西正男)

■ふかわりょう

1974年8月19日生まれ。神奈川県横浜市出身。慶応義塾大学経済学部卒業。ピアニカの演奏の合間に「この表札、かまぼこの板じゃない?」などと魂の暗部をくすぐるような一言を挟むネタで注目される。ROCKETMAN名義でDJ、ミュージシャンとしても活動する。TOKYO MX「5時に夢中!」などに出演中。11月17日に上梓したエッセイ集「世の中と足並みがそろわない」が発売日に重版が決定するなど注目を集めている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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