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「お笑いは必要なのか」新型コロナ禍で河本準一を揺さぶる葛藤

中西正男芸能記者
「吉本坂46」でキャプテンも務める「次長課長」の河本準一

 吉本興業のアイドルグループ「吉本坂46」でキャプテンも務めるお笑いコンビ「次長課長」の河本準一さん(45)。新型コロナ禍で「吉本坂46」の活動も停止していましたが、新たな企画として東京・よしもと有楽町シアターで定期公演が10月30日からスタートします。河本さん自身も新型コロナ禍で仕事がストップし、葛藤と迷いの中「お笑いは必要なのか」という思いにまで行きついたと言いますが、その中から見出した結論とは。

「お笑いは必要なのか」

 芸人って、2日黙ったら、声が出なくなるとよく言うんです。芸人同士の“あるある”みたいな感じで。それくらい、動き続けていないと調子が保てないと言いますか。

 ただ、やっぱり新型コロナ禍で、仕事が完全にストップして、あらゆるものが変わったし、これでもかと考えさせられました。

 その中で「もしかして、お笑いって必要ないのでは」という考えが何回も出てきました。みんなの気持ちがふさぎ込む。むしろ、こういった閉塞感がある中では重宝されるのかなとも思ったんですが、それが僕は感じられなかった。

 お笑いの世界もストップするんだと。笑いがなくても、毎日は進んでいく。そこに恐怖を感じました。“要らない職業”の欄に入れられるんじゃないか。その思いがありました。

 6月から7月あたりは特にへこみましたね。普通ではない状況がかなり続いてきたが、その先も見えない。毎日、ニュースや情報番組が淡々と流れ、淡々と感染者数が報じられていく。

 多くの人がストレスも絶対にたまってるはずだし「ここでこそ、お笑いの見せ場でしょう!」という思いがあったんですけど、そうはならない。そこで思ったのが「結局、まだ笑ってられないんだ」という思いでした。それどころじゃない。僕らの職業って、そういう職業なんだ。もちろん、そんなことは最初から分かっている話なんですけど、そこを改めて思い直すというか。そんな日々でした。

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 もっというと、プロの笑いを求めなくとも、親戚のオッチャンでも笑えるんだし、家族内でも笑いは起きるし、必要最低限の笑いはそこで供給されるのではないか。

 明石家さんまさんも「必要ないんかな、オレらの職業は」という言葉もおっしゃっていたくらいですけど、わざわざお金を払ってプロの笑いをわざわざ観に行く。それはもういいんじゃない?となるのでは。本当にね、いろいろ考えました。

 僕がキャプテンを務めさせてもらっている「吉本坂46」も、新型コロナで握手会などのイベントもできない。さらに、結成と同時にテレビ東京で「吉本坂46が売れるまでの全記録」という番組も始まったんですけど、それも今年9月末で終わってしまった。「吉本坂46」というものを定期的に発信できる場所がなくなってしまったんです。

 活動がなくて、メンバーもモチベーションを保つことが難しくなっている。そこで、どなたかスタッフさんがいろいろ企画を考えるというよりも、メンバー自ら考えて、今できることを見出す。そういう形のプロデュース公演としてやるのが「吉本坂46」としても“先が見える”方策じゃないかとなったんです。

僕には向かない

 ま、いろいろな形で、自分を、自分の仕事を見つめ直す数カ月にはなりましたね。新型コロナ禍で生まれた代表格が「リモート出演」というもの。

 これはね、僕なんかはリモートでは出せないんですよ、味が。これは本当に難しいです。僕には向かない。

 すごくざっくり言うと、僕はお笑いはくっついてナンボ、絡んでナンボという思いがありますし、暴れまわってナンボ。よくよく考えたら、そういう形で自分はやってきていたなと。

 リモートではそこがゼロになる。そして、リモートでやるということは、多くは自宅からの出演になる。自宅で、ご近所さんもいらっしゃる中、いわゆる芸人の“オン”の時のテンションと声量でしゃべると周りに迷惑にもなるし、家という空間でそのスイッチを入れる難しさもあります。

 もちろん、これは芸人によっても得手不得手があるでしょうし、そこのスイッチを切り替えられる人もいますけど、僕には本当に難しかったです。

 独身だったら、まだ何とかいけた部分もあるかもしれませんけど、僕の場合は、家に家族もいる。その前でテレビのテンションにいきなりなるのは、難しい。

 何度も言いますけど、それができる人もいますし、なんなら、芸人さんはみんな本当に賢いですから、リモートに合わせてしゃべりや動きを微調整したりもする。ただ、僕の生理としては、そこが本当になじまなかったんです。

 まだね、テレビ局の別室にいてやるリモートは場所がテレビ局だし、音声が割れることも、映像が途切れることもないので、そこまで苦にならないんですけど、自宅からのリモートは電波の具合で途切れるし、止まるし…。

 僕としたら、お笑いでしゃべりの仕事をやってて、途中で途切れるとか、止まったから何を言ったか分かりませんとなるなんて、ありえない。渾身のギャグを言って「音が割れて、何を言ってるか分からないです」「今、映像止まりました」みたいな笑いになる。それは笑いじゃなく、単なる回線トラブルですから。それが面白いと思って狙ってやったものじゃないですから。電波の具合で、結果、そうなっただけのものですから。

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 繰り返しになりますけど、リモートに向いてる人もいますし、便利な部分も多々あるし、この先、新型コロナがなくなっても、リモートをなくす必要はないと思います。ただ、僕には向かないし、リモートを通じて、自分の精査にはなりました。

 そこから今、少しずつ仕事が始まってきて、まだ先がどうなるかは分かりませんけど、動きが見え出してもいる。

 動き出すと、気持ちも少しは前向きになってくるし、あとは、もう「どこかで僕らに期待してくれている人もいるはずだ」と思わないとやってられない部分もありますし(笑)。また必ず良い日が来ると信じて、今はやっています。

(撮影・中西正男)

■河本準一(こうもと・じゅんいち)

1975年4月7日生まれ。愛知県生まれ、岡山県育ち。NSC大阪校13期生。井上聡とお笑いコンビ「次長課長」を結成。アイドルグループ「吉本坂46」のメンバーでキャプテンも務める。10月30日から始まる「吉本坂46」の定期公演(東京・よしもと有楽町シアター、毎週金曜に開催)の第一弾として、自身のプロディ―ス公演を行う。公演タイトルは「苦悩」で笑いを抑えたシリアスなトーンの芝居を展開する。11月27日からはHideboH、来年1月15日からは「プラス・マイナス」岩橋良昌の担当公演が予定されている。「苦悩」の出演者は河本、「パンサー」尾形、「はんにゃ」金田、「たまゆら学園」まるいるい、箕迫かな、大迫マミら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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