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「つらい」。でも「プラス・マイナス」がコンビを続ける理由

中西正男芸能記者
「プラス・マイナス」の兼光タカシ(左)と岩橋良昌(取材日3月6日)

 6日放送の日本テレビ「人生が変わる1分間の深イイ話 2時間スペシャル」でも“クセ”がフィーチャーされた岩橋良昌さん(41)とオール巨人さんらのモノマネ芸が光る兼光タカシさん(41)の漫才コンビ「プラス・マイナス」。爆笑確実の剛腕漫才で芸人仲間からも一目置かれる存在になっていますが、今まさに葛藤の真っただ中にあります。インタビュー中も何度かギクシャクした空気が流れることもありましたが、世の中が閉塞感に満ちた今だからこそ、とことん芸に悩み、道を見出そうとする二人の姿から一筋の光もまた見えました。

第7世代恐怖症

 岩橋:僕個人としては、昨年末の「絶対に笑ってはいけない青春ハイスクール24時!」(日本テレビ)とか、今年1月の「人志松本のすべらない話」(フジテレビ)とか、ここにきて、いわゆる大きな番組にもお声がけいただいて、ありがたいことだと思っています。

 もちろん、どれも本当にうれしいんですけど、昨年12月の「THE MANZAI」に出られたのは、漫才で出してもらった番組だし手ごたえも大きかったですね。

 また、周りにいたのが「EXIT」だったり「四千頭身」だったり、そうそうたる人気メンバーだったんです。

 僕ね、なんというか“お笑い第7世代恐怖症”というか、その世代の子らを見ると、劣等感が半端ないんですよ。僕らよりもはるかに未来がある。15歳以上も年下やったり、芸歴もまだまだ短い。こっちはしっかりオッサンですし、もはや第ナニ世代かも分かりません…。

 だからね、彼らがテレビ出てたらチャンネル変えるようにしてるんです。あいつら見てたら絶望感にかられるので。希望がなくなっていきます。「ハイ、もう遅い!」というレッテルを貼られるような…。引導を渡されるような…。

 それでいうと、将棋の加藤一二三さん、ひふみんが売れた時はひふみんが出てる番組ばっかり見てました。「まだチャンスある!」と思えたんです。

 もちろん、将棋で凄まじい実績がおありの上でのことですけど、タレントとして話題になったのは70歳を超えてから。かなり偏った抽出かもしれませんけど、これでもかと希望の成分だけを搾り取ってました。

 兼光:やっぱり「THE MANZAI」は大きかったですね。2018年に出場資格的に「M-1」への挑戦が終わった中で、また漫才をああいった場でさせてもらえるというのは…。

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「M-1」への挑戦を終えて

 岩橋:いろいろなとらえ方もありますけど、僕は「M-1」が終わったことで、残念でもありますけど、自由が手に入ったとも思っているんです。

 僕らは「M-1」というものに苦戦してきたコンビなんです。ナニな言い方ですけど、劇場ではウケるけど「M-1」では評価されないというか。客観的に見て“寄席芸”と“競技漫才”の間ですごく苦しんでいたコンビやと思うんです。そこから解放はされた。

 これまで漫才をする時には常に「M-1」を意識していて「ここでモノマネを入れたらウケるけど『M-1』じゃ使えないネタになるな」というような競技ありきの考えがありました。

 それが今は「とにかくウケたらいい」にシフトチェンジしたというか。もう「M-1」関係なく、自分たちがやりたいことをやる。ただ、一点だけ決めごとを作って。

 それは「目の前のお客さんを必ず爆笑させる」ということ。そこさえ守れば、皆さん喜んでくださるし、僕らもやっていてうれしいし。若手が挑戦する競技から卒業して、中堅、そして師匠方もいらっしゃる、さらに上のクラス。その一年生という領域に来た気がしています。

 …相方はどう思っているか分からないですけど、僕としては、そう感じてますね。人のネタをパクるとか、そんなんはダメですけど、そんなこと以外は何をやってもウケれば正解。腹がちぎれるくらい笑かす。そこの肝が据わったというか、強さは身についた気がします。

 兼光:今までも目の前の仕事を大切にしていたつもりだったんですけど、「M-1」が終わってから、それが余計に大切になったと思います。大事にせなアカンという思いが強くなりました。相方が言うように、目の前のお客さんを笑わせる大事さというのも痛感してますし。

 その上で、楽しくできてますし、漫才にアドリブとかも入ってきたりしてますしね。そして、一つ一つの舞台が大事やからこそ、余計に話し合いが細かくなってきたというところもあります。コンビ間で。もちろん、それは良い意味でですけど。

 これからの「プラス・マイナス」としての漫才を確立するために細かくなってきたなと思います。「M-1」が終わったから気楽ということではなく、今の方がしんどいと思います。

“商人”と“踊り子”

 岩橋:だいぶ入り組んだ話になりますけど、以前は、兼光を否定していたところもあったんです。「芸人なんやから、もっと声を張って前のめりでやれよ」と。ずっと僕からはそんな発注をしてきたんですけど、18年12月で「M-1」を終え、次の段階の漫才に入って、いろいろ、本当にいろいろ考えました。

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 そこで「彼の地のキャラクターで行くべき」と思って、話し合った結果、そうなったんです。それが面白いので、しっかりと出していこう。自然な兼光をお見せするという。

 彼はこのままのキャラクターで、こういう場でもついつい「しんどい」という言葉がスッと出てしまう人間なんですよ。だから、今も出ましたし。別にしんどい思いもせんでエエし、無理からモチベーションをオレに合わせてくれなんてことも思ってなくて。

 兼光:…。

 岩橋:このキャラのまんま、ポカンとしてる人間と、細かすぎてクセをこじらせてる人間のコントラストが今となったら妙味になってくるなと。コンビは同じ色やったら面白くなくて、どれだけ距離感が離れた中でキャッチボールするかが面白さに繋がる。

 そういう目で見ると、やっぱり、師匠方はコンビのコントラストとバランスが凄いんです。僕なんか言うのは失礼ですけど。若い頃には見えなかったその凄みみたいなものがこれでもかと漫才に乗っかっている。僕らも若手を出てその領域の一年生になったんやったら、やっぱりそこを目指していかなアカンし、そのための積み重ねを日々していくしかないなと。

 …兼光はどこまで思ってるのか。ホンマにそう思ってるか、岩橋が言ってるから付き合ってくれてるのか。そこは分からないですけど、どちらにしても、このコンビにはそのコントラストが絶対に意味を持ってくるというのが見えたんです。

 兼光:そこは異論ということは本当になく、そう思ってます。

 岩橋:正直、このコンビは難しいんです。苦戦するんです。なんでかと言うと、僕は基本的にボケなんです。しかも、大味なボケなんです。彼もボケで、タイプとしてはボケの職人なんです。大味のムチャクチャなボケと、ボケの職人のコンビやから、実はツッコミがいない。

 漫才では僕がツッコミにまわってるんですけど、ツッコミという役割ながら、ボケの要素を入れたり、個性を出したり、兼光のとぼけたボケを成立させるためにワーワー言うたり、時には完全に僕がボケてしまったり。

 ツッコミなんですけど、そもそもの属性が大味なボケという立ち位置のねじれ。そんなコンビとしての危うさというか、その中で漫才を成立させるバランスの難しさというか。そんなことが常につきまとってきたコンビなんです。正直、難しい。つらい。その思いはあります。

 だからね、本気の本気で何回も解散を考えてきました。それくらい、このコンビは本当に難しいと痛感してます。

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 奥底では、僕にしたら「なんでオレがつっこまなアカンねん」という思いもあります。まだあります。オレももっと暴れて、ボケたおして、なんなら「パンサー」の向井(慧)みたいなシュッとしたツッコミにさばいてほしい。平場のトークでも「いや、実は彼ね…」という感じでオレのエピソードをうまく放り込んでしゃべってほしい。いざ不満に目を向けて、そこを言い出したら、それこそ止まりません。

 ただ、本当に最近になって、逆に、この組み合わせだからこそ、出せるものもあるんだろうなと…。難しいですけど。

 僕みたいなボケがいて、そこにシュッとしたツッコミがつっこむ。これはすごくバランスが取れていると思います。「ドラクエ」みたいなRPGで言ったら“戦士”と“僧侶”の組み合わせみたいに、すごく戦いやすいパーティーだと思います。戦士がガンガン攻撃して、僧侶が回復しながらサポートするみたいな。

 でも、これは言い方を変えると、ベタと言えばベタなんです。もちろん、その形を否定しているわけじゃないんですよ。ただ、構図として、多いパターンと言いますか。

 僕らは“商人”と“踊り子”みたいなコンビで、パッと見たら「なんや、それ!」みたいなパーティーです。ただ、この組み合わせだからこそ、誰も見たことのない戦い方になるし、見たことのないステージに行けるんじゃないか。その入口に立ったのが「M-1」が終わった時だと僕はとらえているんです。

 これはものすごく良いようにとらえると「横山やすし・西川きよし」師匠も、「オール阪神・巨人」師匠も、どちらがボケでツッコミか一概には言えないと言うか。どっちがどうせなアカンということなくやってらっしゃって、でも、結果的にお客さんがムチャクチャ笑ってる。

 そういった方々と比べるのもおこがましいですけど、なんとかこの二人やからこそできるものを目指したいとは思っているんです。

 兼光:確かに、キャラクターと言うか、持っているものは変えられない。無理をしようと思ってもボロが出る。そんな話を今はこれでもかと日々やってますね。

 僕がやることは“素に近い”状況で舞台に出るということ。何と言うんでしょうね、より自然に、作らず、普通の自分を出すというか。だからといって、前に出ないとかでもなく、芸人として前に出るところも無理にではなく、自然の範疇でやっていくと言いますか。

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兼光の凄み

 岩橋:出しゃばるわけでもなく、そない悪いこともしてへんのに、漫才中、相方がバカバカ叩かれる。でも、兼光は叩かれてイヤな顔してない。淡々とボケ続ける。そして、僕がどんどんヒートアップしていく中、兼光は我関せずみたいな空気でどんどんボケ続ける。

 あんまり欲しがってない空気の人が、次々にボケる。叩かれてもひるまない。ウケようがスベろうが知ったこっちゃないくらいの空気でボケ続ける。僕はどんどん翻弄されていく。そのコントラストがいいと思いますし、相方をこんな風に言うのもアレですけど、ボソッとボケて叩かれた時に醸し出す空気感は天才的です。本当に面白い。そういうところが、このパーティーの戦い方なんだろうなと思います。

 あと、これも改めて言うのはナニなんですけど、モノマネ、メッチャうまいんですよ。漫才に入れてもウケるんです。

 でも、自分を見せるというか、自分を分かるというか。人前で何かをやる時に一番重要な“自分の色”というものが出たら、もっと、モノマネが活きてくると思うんです。

 兼光がどんな人間なのかが分かった上でモノマネをすると、さらに味が出る。そんなに“欲しがる”感じじゃない兼光がやるモノマネ。兼光という土台が分かった上で出てくるモノマネはもっと響くはずですし、それが僕らの伸びしろでもあると考えています。

 兼光:課題と言ったらおかしいですけど、今までは具体的にたくさん相方から言われてました。でも、今は「とにかくお客さんに声が聞こえたらいい」という究極にシンプルなものにまでなりました。

 より自然に。素の自分で。それをするために「こういう時に自分が何を言うのか」「ここでいつもどうしてたんだろう」とか“自分の再確認”を細かくする。それが今コンビをさらに高めるために必要なことやと思っています。

 岩橋:いろいろ言うてますけど、もちろん、もちろん、もちろん、僕自身もできてないことだらけです(笑)。ご存知かとも思いますが、ホンマにムチャクチャです。ずっと続いているクセとの付き合いもありますしね。

 以前は映画「トータル・リコール」を観て、その中の一場面みたいに真ん中から顔を割りたくなるというクセが出たこともありました(笑)。本当にああなったら、そら困るんですけど「でも、割れへんかなぁ」とずっと額に親指の爪を押し当てるというクセで。

 兼光:なんやそれは(笑)。

 岩橋:最近は髪の毛なんです。少し前から髪の毛を伸ばそうと思っていて。でも、現状、それほど伸びていない。というのは、散髪に行って「髪の毛を伸ばしたいんで、毛先を整えるくらいでお願いします」とお店の人に伝えるんですけど、いざカットが始まると、頭をワーッと動かすというクセが出るんです。

 いきなり動かすから、髪の毛が切れてしまう。そうなると、一部だけ短いとおかしいので、周りも切らざるを得ない。結果、しっかり切ってしまって、一向に髪の毛が長くならない。伸ばしたいのに切らせるというクセです。

 そらね、不便ですよ(笑)。でも、そのクセが我慢できなくて叫ぶ、負けてたまるかと爆発させる。それが僕の基本でもあるし、コンビとしての推進力にもどこかで繋がっていると思います。なかなか難しい二人ですけど、なんとか二人で見たことのないものが作れたらなと思っています。へ、へ、ヘミングウエー!…すみません、長いこと真面目な話をしたので…。スッキリしました。

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(撮影・中西正男)

■プラス・マイナス

1978年8月12日生まれの岩橋良昌と78年11月10日生まれの兼光タカシのコンビ。ともに大阪府出身。高校の同級生として出会い、2003年に漫才コンビ「プラスマイナス」を結成する。大阪NSC25期生。NHK上方漫才コンテスト最優秀賞、ABCお笑い新人グランプリ優秀新人賞などを受賞。岩橋個人としては13年に「R-1ぐらんぷり」で決勝進出を果たす。16年に「プラス・マイナス」に改名する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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